隣の世界のマテリアリティー / 夜長 明 様

 作品名:隣の世界のマテリアリティー

 作者名:夜長 明

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330651254235546

 ジャンル:現代ファンタジー

 コメント記入年月日:2024年1月18日


 以下、コメント全文。


 はじめまして。

 この度は『批評&アドバイスします』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 作品の方を拝読致しました。

 本作は序章という位置付けにあるので物語の出来に言及することは難しいですが、文章面においてはこの手の作品を好む読者層を意識されていることが窺えました。丁寧なルビ振りはもちろんのこと、地の文では簡潔ながらも必要な描写がまとめられており、安心して読み進めることができました。特に情景描写を活用した心理描写の表し方は文字数の節約と同時に、端的ながらも人物の性格の核心をついていたと考えられます。細かな読者への配慮と、たしかな筆致が売りの作品だと思いました。


 物語の展開においては、時折挟まれる外連味のあるやり取りが興味深かったです。作中の世界観を壊さずに、いいアクセントとして機能していました。人物の間で交わされる小粋なジョークや行動も、本作の醍醐味だったのではないでしょうか。安易にウケを狙った描写や台詞を入れず、作中世界ならではの空気感の中で事柄が描写されていたことには夜長様のこだわりが感じられます。かつ空気感が安定していたことは、読者の作品への没入と臨場感を促していたかと思います。次回作以降で起こるのであろう展開の伏線も散見されたので、構成としては非常に綺麗に収まっていた一作だと考えられます。


 では、続いては気になった点を述べていきます。

 全部で三つあるので、それぞれ順に解説していきます。

 ➀人物の容姿

 ➁作品の弱み

 ③10万字という尺


 ①、人物の容姿について。

 こちらは作中では、あまり描写されていませんでした。服装や体格などの大雑把な情報は開示されますが、その他の身体的特徴はあまりわかりません。小説では人物の描写をしないものは珍しくないですが、本作のターゲット層を考えた場合、それぞれの人物の大まかな特徴は加筆されてもよいでしょう。たとえば髪型や顔のパーツ。後者に関しては目や鼻などの形、ほくろや傷といったもの。あとはピアスやネックレスなど、所有者の嗜好がわかるアクセサリーを描写しても面白いでしょう。すぐに人物を判別できる特徴が描写されれば、読者は早い段階から登場人物たちを把握しやすくなります。中でも序盤は台詞主体で話が進み、人物の口調や態度が似通っているために個を識別しづらくなっています。なので、少しだけでも人物の容姿が加筆されれば、場面の解像度は大きく変わるはずです。


 ➁、作品の弱み。

 本作の弱みは、その筆致の繊細さにあります。そのため非常に丁寧な設定解説と話運びが強みである一方、裏を返せば堅牢すぎるのです。このことは本来であれば美点なのですが、作品のジャンルとは相性が悪いといいますか。おそらく夜長様は本作をラノベとして、対象とする読者層は10~20代とされているかと思います。ラノベは細かな区分けによって傾向は異なりますが、段階を踏んだ結果の面白さよりも刹那的な面白さを求められることが多いです。中には作品から台詞だけ抜き取って読む方や、戦闘や恋愛といった特定の場面のみ楽しむ読者も珍しくはありません。仮にこうした読者を相手取る場合、設定解説や状況説明に割く文字数を調整する必要があります。現状の量ですと、読んでいて退屈だと思われかねません。作品の魅力を伝える前に読者に離脱されないためにも、物語には適度な緩急が必要になります。拝読した範囲で例を挙げるならば、戦闘場面での設定解説には手を加える余地が残されています。作中での設定の多さはさほど大きな問題ではないので、解説を圧縮することを意識してみてください。要点をまとめて、地の文の言い回しを見直す。そうすれば話運びがより軽快なものになり、戦闘場面においては緊迫感が増すはずです。


 ③、10万字という尺。

 およそ10万字を使った内容として考えると、本作は情報開示をもったいぶりすぎている印象を受けます。伏線とされるものが多く、作品の内容を簡潔にまとめるのならば「涼風洸が、魔術師としての一歩を踏み出す」という小規模なものです。その答えは「この作品は序章にすぎない」という一言で片付く一方、読者目線では拍子抜けだというイメージは拭えません。10万字というのは、それなりの規模の物語を完結させるに足る文字数でもあります。書き方によっては多くの場面や描写を盛り込むことは当然、紆余曲折を表すことは造作もありません。そう考えると、この現状の10万字に可能性を見出すことはできないでしょうか。さらに人物を掘り下げ、洸の哲学の特異性に言及する。荒らしや狩猟者との戦闘や、やり取りの内容を足す。話運びの堅牢さを少し切り崩せば、それだけの新たな描写や展開を用意することができます。同じゴールにたどり着くとしても、その道程はさらに色づくことでしょう。堅牢さを維持しつつも、ときには変化に富んだ場面を用意する。是非、様々な場面や描写を追加して一層、物語を創造性溢れるものにしていただければと思います。


 最後に約物ルールの指摘を一点と、誤字脱字の報告になります。まず約物ルールについてですが、作中では「「」末尾を除く、疑問符や感嘆符のあとの一字空け」がされている箇所と、されていない箇所が混在していました。どちらかに統一された方がよろしいかと思います。誤字脱字は、以下に羅列していきます。


 第8話 邂逅(7):これは雪枝のなりのジョークに違いない。→雪枝なりのジョーク。

 第10話 始動(2):雰囲気で口にしてしまっけれど、~~。→してしまったけれど。

 第19話 修練(5):2人でしばらく住宅地の中を歩き回っていると、案外すぐにでそれは見つかった。→案外すぐにそれは見つかった。

 第27話 闘争・涼風洸(1):ここなら、もし追跡者が来たとしてても隠れ通すことができそうだ。→もし追跡者が来たとしても。

 第30話 闘争・美鳥編(2):それを実践で問題なく使える松城の実力は、間違いなく本物だ。→実戦?

 第36話 闘争・先生(2):魔術師として成長するには、とにかく実践経験を積むが最も手っ取り早い。→実践経験を積むのが最も手っ取り早い。

 第37話 闘争・涼風洸(3):この短い間にちょっとした冒険ができたみたいで、案外悪くない気分だった→句点の付け忘れ。

 第39話 秘密(1):「~~でも、新奇作戦というのは確か、分類の名称じゃなかったですか?」→新奇作成。

 第40話 秘密(2):しかしそのこと気づいたときにはもう、手遅れだった。→そのことに気づいたときにはもう、


 以上になります。

 ここで述べたことが、創作活動のヒントにつながったのならなによりです。

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