善意の行く末にて、過去に傷を持つ人間は今をどのように生きるか。/ 鍋谷葵 様

 作品名:善意の行く末にて、過去に傷を持つ人間は今をどのように生きるか。

 作者名:鍋谷葵

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330664169816729

 ジャンル:恋愛

 コメント記入年月日:2024年1月12日


 以下、コメント全文。


 この度は『批評&アドバイスします』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。作品を誤って企画から除外してしまった件につきましては、大変ご迷惑をおかけしました。


 さて、作品の方を拝読致しました。

 内容としては、良くも悪くも現実的でありながらも含蓄のあるものだった印象です。とりわけ本作は人間の心の弱さに焦点が当てられており、それゆえに主人公の臆病かつ自罰的な性格は特別な意味をもっていました。悪く言えば主人公は面倒な性格をしている魅力の薄い人物でありますが、作品の趣旨を伝えるうえでは上手く機能していたように思います。内面と外面の差や、容易く瓦解する心はいいアクセントになっていました。脇を固める人物たちも同様に、影のある部分を持っていたのは面白い部分でした。あくまでも一人称視点というフィルター越しの姿であるものの、心の上澄みに留まらず沈殿した部分をもさらっていたのは本作の特徴的な部分だといえるでしょう。


 綺麗事や予定調和を盾に物語を美化せず、あえて現実を突きつけてくる。その過程でリアリティが醸成され、物語に一段と深みが生まれていたのではないでしょうか。物語の筋書きはさして珍しいものではないですが、本作には有象無象に埋もれることがない「希望の淀み」があったように思います。万人が思い浮かべる輝かしい希望にも影があり、ときにはその眩しさこそが毒にもなる。作品の趣旨からは外れますが、読後にはそうした考察をすることができました。バッドエンド、ビターエンドという言葉でまとめてしまうのは、もったいないように感じます。それほどまでにポテンシャルを感じさせてくれる作品でした。


 では、次に気になった点を箇条書きにしたのち、個別に解説していきます。

 ➀話運びの課題点

 ➁尺の活用方法

 ➂人物たちの関係性


 まずは➀、話運びの課題点から。

 本作は一人称視点で物語が進みますが、その地の文の書き方が読書意欲の妨げになっています。原因には「過剰な状況説明」、「堂々巡りの思索」、「衒学的な書き連ね」が挙げられます。どれも主人公の性格に起因しており、一人称視点で地の文を書かれていることが影響しています。これらは行き過ぎた演出とも考えられますが、私は鍋谷様自身の考え方がもとになっていると考えています。というのも、過去に拝読した鍋谷様の短編作品『スクラップヒューマン』と構成要素が酷似しているためです。地の文の書き方といい、根底にある哲学といい憶測の域を出ないのはたしかですが、一読者の目には作者=主人公と映ります。やや話が脱線しました。つまりは、地の文の書き方がここでは問題になっています。


 他意はありませんが、統合失調症の方の思考を体現しているかのようです。尤も私がそう感じるのは、身近に統合失調症を患っている人がいるからなのかもしれませんが。とにかく論述に終わりや結論がなく、延々と個人の見解や価値観が並べられていく。一を訊けば、十どころか百が返ってくる。本作では始終そうしたことが続きます。故意にそう書かれていたのなら脱帽ものでありますが、冗漫な語りであることに変わりはありません。要領を得ない、必要以上の語りは作品に深みを加えることがある一方で、それが常態化すれば読者の関心を著しく損なうことになります。多くの読者は作品に込められた哲学の前に、単純な物語の面白さを求めているので。


 まずは、簡潔に物語の流れを説明することを意識してみてください。そこに主人公の私情を挟まず、なるべく客観的な情報を述べるのです。それは人物同士のやりとりでも同じです。たとえば自宅で一人勉強する場面や、ミサカさんやアマネちゃん以外の人物との絡みは簡素にしてもよいでしょう。そのうえで、ここぞという場面でのみ独特な主人公の価値観と心情を交えるのです。そうすれば物語に緩急が生まれ、主人公のスイッチが入るタイミングを読者に教えることにつながります。感情のスイッチが入る→主人公のトラウマ、心の淀みが垣間見える。ということを紐づけることができれば、読者は意欲的に作品を読み進められるはずです。本作はなにぶん主人公のクセが強いので、鍋谷様がその手綱を上手く操れるのかがカギになります。どんな場面でもフルパワーで描写せず、場面の重要度に応じて割く文字数を調整してみてください。


 続いて➁、尺の活用方法。

 ➀にも関連する事柄ですが、本作は文字数に対して物語が希薄な印象を受けます。五万字ほどの内容を装飾して、およそ十四万字のものに仕上げたような強引に長編化した雰囲気が否めません。その要因には➀で述べた事柄の他に、作中での経過日数が短いことが挙げられます。逆にいえば、一日ごとの密度が濃すぎるとも考えられます。そのことにより、現状では尺余りに近い状態になっているのです。この問題を緩和するには、主人公と他の人物の絡みを増やすことが必要になります。どこか校外に一緒に遊びに行ったり、意見が衝突する話を盛り込んだりと。言うなれば本作は、短編の尺で長編を書かれているようなものです。短編であれば本筋から外れた話は不要ですが、長編はむしろそうした話が物語を華やかにすることがあります。同時に人物間の関係性が成長し、読者は現実の等身大として作品を楽しめるようになる。本作の場合、物語としても数日の話ではなく、数週間の話として表現されたのなら、主人公を取り巻く人間関係には新たなリアリティが付加されるはずです。是非とも長編であることを生かし、起伏のある物語を練り上げていただければと思います。


 そして➂、人物たちの関係性。

 こちらは主要人物、学生五人のことです。彼女らについては、皆が性愛でつながっていることに違和感を覚えました。俗っぽい表現ですが、ギャルゲーの舞台かのようです。折角、作中で友愛が取り上げられているのですから、彼女らを使って性愛と友愛の対比構造を作っても面白いのではないかと思います。たとえば友愛で付き合いたいミサカと、性愛(臆病さを紛らわせる衝動)で付き合いたい主人公の対比。はたまた、女子たちから主人公に向けられるある種の母性本能を友愛か性愛、どちらに解釈するのかなど。なにかしらの形でこのことが盛り込まれると、物語の結末にさらなる余韻と考察が生まれるのではないでしょうか。「過去に傷を持つ人間」を客観的に捉える要素として、人間関係の哲学にも触れていただければ作品のメッセージ性が増すはずです。


 最後に、目についた範囲での誤字脱字などの報告になります。

 数が多いので、以下の内容はコピペしていただくと確認しやすくなるかと思います。


 第一話:言葉を使わず交わす最上級にコミュニケーションなんだろう。→最上級の。

 第二話:あのミサカさんと、入学してから告白されて続けているミサカさんと、~~。→告白され続けている。

 第三話:~~ミサカさんは眉間に皴を寄る。→皺を寄せる。

 第四話:でも、引っ越したあの子ととの記憶はその陰影だけ残ってる。→あの子との。

    :せっかく一緒なのに明らかに落ち込むは酷いと思う。→落ち込むのは。

    :でも、無碍に扱わないから別に良いか。→この場合、無下が適切。

 第六話:それに一人で居た方がしやすこともあるし。→しやすいこともあるし。

    :物理的にも精神的にも言えることのない傷を撫でながら、~~。→癒える。

    :お母さんはちょっと洒落た感じる言葉を残して僕の部屋から出て行こうとした。→洒落た感じの言葉。

    :「~~そりゃ、あんなことが合ったらできないよね。~~」→あったら。

 第七話:薄くも無ければ濃くもない僕の存在感を象徴するような残り少ないコーヒーを一煽りに飲み干す。→一息にor呷った、で締める方が自然です。

    :個人が元気だったとしても、気だるかったとしても別に何の問題も問題ない。→「問題」の重複。

    :~~染み付いてしまった臆病なんだから仕方がない。。→句点の重複。

 第八話:~~深い領域に突き刺ささってくる。→突き刺さってくる。

    :息がかかるほど近いのにも関わらず、ミサカさんは恥ずかしながらない。→恥ずかしがらない。

 第九話:現に今もこうして試行してしまっているんだし。→思考。

    :それだけは避けたい。。→句点の重複。

 第十話:~~人の感情を無碍にするのは違うと思うよ。→無下。

 第十一話:「~~誠実に告白していた君の態度を無碍にするような態度だったしね」→無下。

 第十二話:これも僕が今日まで交友関係の一切を捨てていせいだ。→捨てていたせいだ。

     :そしてスカートに薄っすらt着いた土埃を払って、~~。→薄っすらと。

 第十三話:~~むしろ喜びすら覚えている感情はい一体何なんだ?→「い」は不要。

     :~~結果的に言いように利用されているなんて酷く馬鹿らしい。→良いように。

     :黙って水滴塗れた温いカフェオレを両手で包みこむだけだった。→水滴に。

 第十四話:~~相手は僕に好意を抱いていて無碍に断ることも出来ない。→無下。

     :~~彼女に素っ気ない態度取らなきゃいけない。→態度を。

     :でも、人の優しさを無碍にするのは良くない。→無下。

     :何物ねだりをしていても仕方がない。→ないものねだり。

 第十六話:でも、きっと、優しいミサカさんは無意識に助けて船を出してくれる。→助け船?

 第十八話:ギャルちゃんは机から腰を上がると、~~。→腰を上げると、

 第十九話:好意を向けている人が、自分のことを幽霊か何かように無視しているんだから。→幽霊か何かのように。

 二十話:一般的に見れば情熱的な視線は、あの時から嫌悪すべき対象の他ならない。→対象に他ならない。

    :それを無碍にした罰を鑑みれば、こんな感情を持っているのは酷く不誠実だ。→無下。

    :両手首は再び扉に押さえつけらる。→押さえつけられる。

 第二十一話:友情こうを定義するとより一層アマネちゃんを信頼している理由が分からなくなる。→友情を定義すると?

      :本能したがって自らの欲求を具体化することはあいつらと同じだ。→本能にしたがって。

      :呆れにから漏れるアマネちゃんの甘い溜息が肌をくすぐる。→呆れから漏れる。

 第二十二話:~~ヒス気味の英語教師が鎮座してる教室のある階ではしゃぎたがる物好きなんて人なんているわけがない。→物好きな人なんているわけがない。

 第二十三話:自分言うのも恥ずかしいけれど、僕は弱くて脆い人間でしかない。→自分で言うのも恥ずかしいけれど、

 第二十五話:「……そう」→余分な字下げ。

      :人の好意を無碍にすることは出来ない。→無下。

      :大した走ってないのに……。→大して。

 第二十六話:なすすべなく見下ろされる僕の髪は、ミサカさんに好かれた。→梳かれた。

      :相手の好意を無碍にしながら、~~。→無下。

 第二十八話:ミサカさん冷たい家庭環境を知っておきながら、~~。→ミサカさんの。

      :不用意に築き上げた 関係、いくらかの愛着があったはずの人間関係でも~~。→不自然な場所での改行。

 第二十九話:アマネちゃん、どうしてミサカさんの煽るように皮肉めいたことを呟くの?→ミサカさんを煽るように。

      :「~~何か面白い要素でもあった?それこそ偏見に基づいた」→疑問符のあとの一字空け忘れ。

 第三十話:哀愁が籠った表情に僕は微かな罪悪感を覚える。。→句点の重複。

 第三十一話:ここでアマネちゃんは生活しているだと思うと、なんだか面白い。→生活しているんだと思うと。

 第三十三話:だから、アマネちゃんにも相応の態度向けなければいけない。→態度を。

 第三十七話:~~外の環境は何ともいない矛盾に満ち満ちている。→何ともいえない?

 第三十八話:~~学背鞄をソファに置く。→学生鞄。

 第三十九話:~~新しく関係を傷つけた人さえ傷つけてしまう過去への固執を持っている僕なんかが、~~。→新しく関係を築いた?

      :一切を受けれてくれるような声音で、~~。→一切を受け入れて。

      :誠意をもって、後腐れの内容に頼もう。→後腐れのないように。

 第四十一話:~~いいや、ら僕らの王国が完成するんだろうから。→僕の前の「ら」は不要。

      :呆れの少しの怒りが含まれた芯のある声で、~~。→呆れに。

      :脱力しきった体と働かないはとミサカさんの行為をただただ受け入れる。→働かない頭?

 第四十二話:「~~僕のことを無碍に扱ったの?」→無下。

 第四十三話:一度も話したことのないんだから、~~。→話したことが。

 第四十四話:~~過去の自分がしでかした罪の隠すための言い訳でしかない。→罪を。


 以上になります。

 ここで述べたことが、作者様の創作活動の一助となれば幸いです。

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