現代ドラマ

その煙草は、かつて観た海月の様に / 間川 レイ 様

 作品名:その煙草は、かつて観た海月の様に

 作者名:間川 レイ

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330666523176255

 ジャンル:現代ドラマ

 コメント記入年月日:2024年1月8日


 以下、コメント全文。


 この度は『批評&アドバイスします』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 作品の方を拝読致しました。

 過去に批評企画で二作品ほど間川様の作品を拝読してきましたが、本作はその中で最も仕上がりが高水準なものだった印象です。日常の一部を切り取った作品には往々にして地味さが付き纏いますが、本作はその地味さを逆手にとった締め方が秀逸でした。あえて多くを語らず、読者を考察の海に誘う筆致には唸らされました。尤も、そのことは私がこうした類の物語を好むという主観が入っているせいかもしれませんが。とはいえ、その考察に関しても作中でヒントが散りばめられていたので、丁寧な造りだったかと思います。タラレバや不甲斐なさ、無力感といったものが収斂されていました。


 また、異性カップルではなく同性カップルが描かれていたことは、物語の進行と上手く噛み合っていたように感じました。女同士ならではの衝突、邪推のし合いなど。そうしたものが喧嘩や口論の背景としての役割を担っており、異性カップルにはない繊細なやり取りが生まれていました。まさしくその繊細さこそがカップルの衝突の発端であると同時に、物語の終着点とも直結する事柄だったと考えました。これらのことはあくまでも考察にすぎませんが、物語にそれだけの考察材料があったことは事実です。本作は日常の一部を切り取ったうえで、その中に仄暗いリアリティを混ぜ込んだものであるといえます。


 では、続いては気になった点を述べていきます。

 項目を箇条書きで示し、順に解説していきます。

 ➀登場人物のすれ違いの深み

 ➁女性的な筆の進め方

 ➂尺の長さ


 最初に➀、登場人物のすれ違いの深みについて。

 こちらは作中で度々登場する、価値観の相違の話になります。部屋選びや物品整理、お金の話など。本作はこれらを交えつつ、登場人物二人のすれ違いが描写されるわけですが、前提となる話題が物語に対して浅すぎるように感じました。口論や関係の破綻につながるにしても、大袈裟すぎるイメージがあります。まるで二人ともヒステリーかのようです。些細なことから人間関係の溝が深まることの演出に成功している反面、想像力を働かせずに読めば登場人物たちが気難しいだけの人間に思えるといったところでしょうか。この違和感を誤魔化すには、感情の抑圧と爆発を書き分ける必要があります。


 たとえば回想部分にて主人公は、同棲相手からの無理な注文や心ない言葉をすべて受け入れていたことにする。しかし、それは表面上のことであって、本当の想いは口にせず胸の内にしまい続けてきた。それが相手を思いやることだと自分に言い聞かせて。それでもある日、我慢の限界を迎える。些細な注意に主人公は激怒し、胸の内を鋭い言葉とともに吐き出す。同棲相手はひどく傷つき、家を出ていく。その後、主人公は怒りに任せて行動したことを後悔し、もう戻れない過去を想起しながら楽しかったはずの思い出に浸る。


 という流れを挙げさせていただきました。本編との大きな違いとしては、感情の表し方に緩急をつけた点です。このことによって価値観の相違の話に深みを持たせ、かつ感情が爆発するきっかけとしての意味を与えました。事象にある程度の説得力と、無力感を加えることができたのではないでしょうか。ですが、これはあくまで一例にすぎません。私がここで述べたかったことは、物語の一連の流れに尤もらしい根拠と演出を足せば深みが生まれるということです。


 次に➁、女性的な筆の進め方。

 本作は女性的な話の紡ぎ方が特徴的でした。ここでの意味は、女性作家が書いたような、という意味です。いまどき創作物の作り方の物差しに性別を使うのはナンセンスではありますが、小説は男女で書き方に違いがあることは事実です。その違いは異性(作者に対しての)の書き方をはじめ、物語の方向性や地の文の書き方に表れることが多いです。私は間川様の性別を存じ上げませんが、本作では「地の文の書き方」が女性的でした。独特な主観をもとに地の文が綴られ、感情の機微が事細かに文中に盛り込まれている。それは美点とも呼べる一方で、裏を返せば冗漫さにもつながります。そのために地の文が必要以上に長くなり、読んでいるうちに飽きが来ることに。本作は話の締め方が綺麗だったぶん、そこに行き着くまでが余計に退屈に感じました。地の文メインの話運びはダウナーな雰囲気の演出に適していますが、限度を超えるとくどさだけが残ってしまいます。


 それに関連して➂、尺の長さです。

 本作は約4600字の短編ですが、現状の内容で考えた場合、2000~3000字には余裕で収まります。なにが言いたいのかというと、それだけ余分な文章や描写が含まれているということです。物語においては極端な話、煙草と海月にまつわる話以外は圧縮できます。他の話は主人公の心情と無力感を表現するための道具に過ぎないので。なにに重きを置いて、なにを省くのか。その辺りの情報や描写の取捨選択を考えていただければと思います。とりわけ短編は瞬間的な爆発力や、締め方が面白さにつながります。本作はどちらかといえば後者が強みだと思いますので、そこへと話を運んでいくまで、いかに読者の気持ちをつなぎとめておけるかが肝となります。


 最後に一点、約物ルールの指摘を。

 「」の末尾の句点は、近代文学作品(「」の末尾に句点をつける)の趣を出すことが目的でなければ不要です。一文だけ「」の末尾に句点がついていたので書き留めておきます。


「絶対にいや。死んだ方がマシ。」


 以上になります。

 ここで述べたことが、作者様の気づきにつながったのならなによりです。

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