凹凸ほし絵巻 / 友未哲俊 様
作品名:凹凸ほし絵巻
作者名:友未哲俊
URL:https://kakuyomu.jp/works/16816410413919789854
ジャンル:SF
コメント記入年月日:2023年11月14日
以下、コメント全文。
この度は『熟読&批評します』企画にご参加いただき、ありがとうございました。
主催者の島流しにされた男爵イモです。友未様との交流は『No Goodの里』以来ですね。その節は大変お世話になりました。
さて、それでは作品に関する話題に入っていきたいと思います。
作品の方は一通り拝読致しました。気になった点は後述しますので、まずは良いと思った点から。やはり、ノスタルジックな雰囲気は本作の最大の強みといえます。子どもの頃に思い描いた冒険、幻想的な世界といいますか。成長するにつれて失われていくであろう感性が、読み進めていくうちに呼び覚まされるような感覚に陥りました。普段は「こんな展開、ありえないだろう」や「そんな生き物はいない」と一蹴する内容も「昔、こんなことを想像したな」という風に記憶がなぞられていく。年齢層によって感じ方は多種多様でしょうが、私にとってはノスタルジックな気分に浸ることのできる作品でした。児童文学の趣がたまりません。ベクトルは違うものの、キャラや展開は『エルマーのぼうけん』を彷彿とさせ、独特な世界観からは他にはない一意性を感じることができました。
内容に関しても、絶妙な味付けがされていたように思います。そこまで意図されてのことかはわかりませんが、年齢に応じて解釈が変わるような場面が多々ありました。たとえば正直御苑の面子の価値観や、銀河の年を取ることへの焦り、デュラン・デュランのロボットゆえの悲観など。どれも物語の一部にすぎないと割り切ることもできる一方で、それの示唆するものは哲学的であったり、同時に我々の永遠の命題であったりと。思わず止まって、何度か読み込む場面がしばしば。深読みしすぎかもしれませんが、そうしたメッセージも読み取れました。言うなれば、絵本などでみられる現象ですね。子どもの頃は物語の中身だけが好きだったけど、大人になって読み返すとその根底にあるテーマに驚かされる。それに似たものが本作にはありました。私の場合は作品を深読みすることはできても、自発的にそれを創作物に落とし込むことはできないので、友未様の発想力は羨ましい限りです。こうした感性を養いたいものですね。
では、続いては気になった点を述べていきます。
それぞれ番号を振って、順に解説します。
➀読者を引き込む力
➁本作のターゲット層
➂設定の後出し
まずは➀、読者を引き込む力について。
これは序盤においては弱い印象です。理由としてはアリス3号の言動やチュラの特異性を強調しすぎるあまり、文字数に対して展開が遅くなっていることが挙げられます。つまりは冗長なスタートになっているのです。それにより、話運びの意外性も失われています。見知らぬ土地でハプニングに見舞われることは予想がつきますし、アリス3号が起点になるのであろうことも流れからは把握可能です。当然、これは「お約束」として考えることもできます。ですが、それでは本作の強みを読者に伝えそびれてしまうのではと思うのです。ポチや正直御苑のくだり、村々の話など。仮に読者が序盤を読んで「定番だな、続きは読まなくてもいいや」と感じた場合、これらの要素は日の目を浴びることなく終わります。それでは非常にもったいないです。通読したからこその感想ですが、本作は正直御苑から話が動くといっても過言ではありません。もっと詳しく説明するなら、第一部のVI:新文明からです。この回からが本領発揮といったところでしょう。ですので、ここに達する前に読者に見切りをつけられないようにすることが喫緊の課題となります。
幸い友未様は文章力が高く、物語には掴みもあるので安心して読み進めることができます。そうなると残る問題は「どれだけ速く、作品の見せ場まで読者を誘導できるか」だけです。このことへの対処方法は序盤の文字数の切り詰めと、展開に意外性を持たせることです。前者においては、アリス3号の概要説明や情景描写を一部省略されてはいかがでしょうか。この辺りのことが、文字数を余分に消費している要因となっています。本作はラノベというよりは文学的な側面が目立ちますが、前提にはジュヴナイルがあることと思います。そうであれば、まずは「わかりやすさ」が重要になるはずです。細かな描写はときには抽象化させ、要点のみをまとめることも一つのテクニックです。これはもう少し掘り下げておこう。この場面は何度も登場するから、描写は軽めでいいかな。という風に序盤で書くべきことが厳選されれば、結果として文字数は省略されて、読者の関心は本作の醍醐味である部分まで続くと考えます。後者に関しては、「お約束」の枠を超えた奇行や展開が挿入されれば、良いアクセントになるのではないでしょうか。たとえば人喰い花の毒を受けた銀河がアリス3号には目もくれず、大木相手に口説き始める。それを見たアリス3号が、嫉妬でレーザー砲を乱射。騒ぎを聞きつけたポチが現れ、場は大混乱に。それくらいのスピード感があっても、序盤のつなぎとしてはそれなりの役割を果たすものと考えられます。
続いては➁、本作のターゲット層。
素朴な疑問になります。作品のタグにはジュヴナイルとあったので、十代前半をターゲットにされているのでしょうか。それとも十代を含め、幅広い層を対象としているのか。もしも前者であるのなら、地の文と台詞の配分がネックになっていると感じた次第です。前述した内容とも被るのですが、本作は地の文がやや多いです。これでは読書慣れしていない人や、ラノベ好きの読者は目が滑ってしまう恐れがあります。中には地の文が多いだけで、作品を「くどい」と切り捨てられる場合もあります。ですが、本作は地の文の表現が強みともいえますし、台詞主体の作品に切り替えるなんてことは土台、無理な話でしょう。そこで、台詞で情景描写を補足することを提案させていただきます。地の文で説明が為されている点を簡単に台詞でまとめるのです。ポチとアリス3号の、取っ組み合いの場面がわかりやすいでしょうか。ここでは闘いの様子やポチの容姿、決着の三点が地の文で説明されます。これを一部、台詞にして端的に書くのです。銀河がポチの動きや特徴をアリス3号に伝える、頭の数や容姿に驚く台詞を設けるなど。そうした内容が挟まれると、読者は少ない字数で状況を把握できるようになります。ひいては「わかりやすい」ことにもつながるはずです。
そして➂、設定の後出し。
こちらは物語終盤の話になります。予定調和とも考えられますが、アレグレットの登場及びアリス3号の複製機能は強引さが目立ちました。物語を締めることを急ぎすぎたせいで、展開が駆け足になっている印象も受けました。なまじ中盤の仕上がりが非の打ち所がないものだったので、余計に違和感が大きかったのかもしれません。このことについては、内容を作中で仄めかすことが解決の糸口になると思います。預言者の情報を多めに開示したり、二人に思い当たる節があることを匂わせたり。アリス3号も同様、熊神との闘いのときにでも、「最終手段は使わずに済んだ」という風に仄めかしても面白いかもしれません。そうした細かな下準備がされていたのなら、後出し設定も納得のいくものになるでしょう。
最後に二点、少し気になったことに触れておきます。
一点目は、小説を書くうえでの基本ルールについて。これは大半が守られていた一方、一部のことが守られていなかったのが引っ掛かりました。以下の二つです。
・三点リーダーは偶数個で使う。
・「」内文末を除き、感嘆符や疑問符のあとは全角で一マス空ける。
強いこだわりがないのなら、これらのルールも順守された方がよろしいかと。
二点目は誤植について。
第一部 VII:「ナルホド、ニンゲンデモタメシテミミナクテハ …」→「ミ」の重複。
第二部 XII:ずっと向うの峰には深い緑に包まれた正直御苑の姿ががわずかに覗き、→「が」の重複。
以上になります。
もし批評に関してご不明な点や不備があれば、私の近況ノート『11/3開催 自主企画専用ページ』にて対応致します。ご要望に応じて批評内容の解説も致しますので、気軽にお申し付けください。少しでも、作者様のお役に立てたのなら幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます