おやすみなさい、いってきます / 間川 レイ 様

 作品名:おやすみなさい、いってきます

 作者名:間川 レイ

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927860251385907

 ジャンル:現代ドラマ

 コメント記入年月日:2023年10月1日


 以下、コメント全文。


 この度は『自作品への意見や提案がほしい方へ』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 小説の方は一通り拝読致しました。

 全体の流れとしては動機づけや展開が綺麗で、結末に至るまでの主人公の心情の移ろいも繊細な筆致で表現されていた印象です。特に主人公の自己肯定感の低さや、家族への過剰なまでの愛情(境遇に反して)はとてもリアルだったかと思います。虐待されてきた、されている人間の心理が如実に表されていました。「70発殴られた」や「少女が家族全員を撲殺」など、一部凄惨さを通り越した不自然な描写も散見されましたが、総じて作品の完成度は高いものだったように読み取れました。


 気になった点としては、作品の個性について。

「子どもが思うように育たない」、「自分の卑屈さや鬱憤を晴らすため」といった理由で作中では暴力描写が展開されますが、やはりステレオタイプな色が拭えませんでした。この手の内容を創作物でも現実でも見てきた人間としては、物語全体が希薄なものに映ります。前述したように完成度は評価できる一方、中身は「想像したもの」の域を越えないのです。


 精神的、身体的暴力による痛苦と絶望を描いた作品は、凄惨さをアピールするだけで簡単に読者の同情を得ることができます。しかしながら類似作品の数は膨大です。つまり擦られたネタというわけです。これは批評の趣旨から少し外れますが、私は過去にも批評や本棚企画で何作か間川様の作品を拝読しています。それらは共通して今作と同様のテーマ、希死念慮や鬱屈を扱っていました。それ自体は構いませんが、一つ書いておきたいことがあります。


 数作品を読んだだけで、こうした指摘を数十作品も擁する間川様にするのは傲慢だと承知していますが、どの作品も根底にあるものは同一でした。同じテーマを伝えるために同じ展開を踏み、同じ心理描写を書き、悲愴感を演出する。細かな設定や展開は違えども、作品を焼き直ししているかのように錯覚しました。そうした漠然とした意識は、本作を読んで確信に変わりました。


 一読者でもこう感じるのですから、作者様は尚のことかもしれません。もしそうならば作品のオリジナリティを出すためにも、暴力や恐怖の方向性を模索することをオススメします。たとえば「ネグレクトといった存在の否定」、「なにをしても怒られないという不安と恐怖」などです。これらも擦られてきたネタですが、目に見える暴力と異なり、受ける側の心理は多岐にわたります。可視化可能な暴力にはない、被虐待児の「想像力」が閉塞感と恐怖を形作るのです。被害妄想に始まり、虐待の認識への変化や虐待による支配の信奉、絆との錯覚など。希死念慮や鬱屈を描くにしても、従来に比べて展開や表現の選択肢の幅が増えるかと思います。そのぶん読者に感情移入させるには技量が問われますが、間川様のレベルならば容易に超えられる壁でしょう。精神的、身体的暴力に留まらず、様々な手法と材料で作品の無個性化を壊していっていただければと思います。


 最後に一点、誤字報告を。

「猶更不自然な体制になって、いよいよ息ができなくて苦しい。」→「体勢」


 以上になります。

 批判的な内容が大半を占めてしまいましたが、作者様の筆力に可能性を感じた一読者からのエールとして受け取っていただければ幸いです。

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