第72話「上級憎愚襲来!巳早・完全聖転換!」
2023年 8月2日 憎愚対策技術研究所 重要物厳重保管室
不穏の迫りを察知し自らの部下達を合宿には参加させず東京にて留まらせた十番隊隊長。鳴瀬博也の胸騒ぎは的中する事となる。
現役で地下アイドルを務める謎の男達が侵入。二人は長年の研究の末再び構築する事のできた『
右腕が異形の姿と化したヘビースモーカー男。
将人と李世は見るからに吸ったら有毒な見た目の煙をなるべく摂取しない距離を保ちながらそれぞれの銃、『ルーンヴォルフ』と『スクリプチュア』で迎撃する。
「俺達を守ってくれるはずのDelightの職員がこうも銃弾ぶっぱなんてなぁ。これはあれだな?信用問題に関わってくるってやつだぜ?」
「ここにいる誰しもがお前達に何の怒りや恨みも無く尽くしていると思うな。少なくともお前らのような憎愚に加担するような連中を俺は断じて認めない!」
「おーこわ。アンチだアンチ。しかも超過激派な。これはSNSに晒しちゃってぇ超大バズり待ったなし的な?ししっ……!」
「もういい……お前はもう喋るな」
軽率且つ人の神経を逆撫でするような発言を続ける劉淵に対し痺れを切らした将人が銃弾を放つもどろどろとした右腕は口を形成して放たれた弾丸を難なく飲み込み再び煙を噴き出す。
(下手な銃撃はあの手に捕食され奴の優位な状況を作ってしまう。煙も充満するのも時間の問題となると……やはり手荒に行くしかない!)
「来い。
「かぁっくい〜〜!狼なんて生で初めて見たわ!ちょっとだけもふもふさせてくんない?」
「迂闊に触れるのはお勧めしない。こいつは人前でニコチンイキリ晒しちまうような品の無い奴が大嫌いなもんでね」
「アイドルだけじゃなくタバコアンチかよお前。今日は愚痴愚痴嫌味言われまくってうざってぇなぁ。よしわかった!俺が全国の喫煙者を代表してまずはタバコをバカにするこいつをぶっころしまーーす!!」
両者の怒りのボルテージは上がり戦いは激化する。
一方主戦力となる奏者達が想武島へ向かう中も憎愚は絶えず発生している。それらの処理に赴くのは残された奏者や抗者達。
彼らは合宿参加メンバー達に匹敵する実力を現時点では秘めていない隊員達でありそんな未熟な彼らを指揮及びサポートしするのは昇斗により不在時の指揮及び戦闘を任された
彼らの指揮下の元各隊員憎愚撃破に精を出している中、一人の少年に憎愚の魔の手が迫っていた。
――――――――――
同日 8月2日 練馬区 郊外 9:45分
一人の少年が陽の光に照らされながら虫網と虫籠を持ち友達の待つ公園へ向けがむしゃらに今日はどんな遊びをしようかと心を躍らせながら駆けている。
「ショウガクセイ……スイテイ……低ガク年……か、か、カワエエ……!」
無邪気な少年に邪なる物の視線が舐め回すように突き刺さる。
おぼつかないレベルの人語を扱える憎愚は中級に分類される。中級憎愚のジョズタは少年を欲望の赴くまま襲い喰らいむしゃぶりつきたい衝動に駆られ涎がだらだらとこぼれ落ち続けている。
「じゅルリ……も……もう…………ガマンデキネェェェ!!」
節足部もない脚。幼虫のような下半身で地面を高速で這いながらも少年へ襲いかかる。
ズゴオオォォ!!
憎愚は少年の背後に瞬間現れた男の掌から発せられた衝撃波により後方へと吹き飛ばされる。
「なっなに!?」
少年の窮地に駆け付けたのは仙道巳早であった。突然の轟音と強風に驚きを隠せない少年へ巳早は優しくこの場を離れるように語りかける。
「少し風が吹いただけだ。そんな事よりどこか行く予定があるんじゃないのか?」
「あっそうだった!ゆうせい君達が待ってるんだった!」
少年は自分に降りかかろうとした脅威を知る事なく純粋な心持ちでこの場を去っていく。
「お……オメエェェェ!!くそジじいィィィ!!ナニシテクレロンダァァァァァァ!!せっかくウンまそうだったのにんがああァァァ!!」
獲物にありつけなかった事で発狂する憎愚。巳早に対して罵詈雑言を声高にぶつけ続ける。
「オマエみたいなおっさんはゲチョンけちょンのグッチャグチャにしてやるボ!!年オイタオドコなんて食うカチもないボ!!」
『
効果は棘が無数に生えた両腕の破壊力、硬度、リーチ強化を主に身体能力の強化。尚その効力は相手が高齢であればある程底上げされる。
「オラは小ガク生イジョウの年オいた無価値の消費キゲン切れ人間がシン底嫌いなんダボ!!
ジョズタは両腕を交差させ上空へ掲げる。ジョズタにとって齢45の巳早は十分すぎる程殺戮の対象内。すると徐々に肥大化していき捻り巻いていき両腕は巨大なハンマー状の形へと変わる。その大きさは全長50mに及びまともに振り下ろされれば周辺への被害は計り知れない。
「ブゥワハハ!!お前がキモきもロウガイだからこんなにおっきくなったボ!!やっぱりショタ以外はイキてる価値がないんだボ!!神の鉄槌をクラい己の罪ブカサを思い知るがいいボォォ!!」
カシャン
「??」
ジョズタが両腕を振り下ろそうとした瞬間。刀が納刀する音が聞こえる。次に視界が旋回している事と両腕の感覚が無い事に気がつく。
ジョズタの身体は巳早の刹那の一太刀により分断させられていた。
頭のみが宙を舞うジョズタは自分に降りかかった事態に対して思考が追いつかない。目の前の男は何もしていない。何かをした素ぶりは微塵もなかったと必死に現実から目を背けながらも断末魔を上げながら消し炭となり消滅した。
(いざ全体を任されてみると10年前とは憎愚の発生頻度、量が桁違いだな……)
輝世達樹らだけでなく隊長格の不在。
それらに割り振られていた北海道から沖縄までの全47都道府県に出現した中級以上の憎愚の殲滅の皺寄せが隊長格と同等の力を秘めている巳早と翔太二人に短期間であれど委ねられている。
比較的憎愚発生の割合が高いアイドル活動が活発に行われている都心部。東京、大阪を主軸に東京を巳早、大阪に津賀井翔太を据え遠方の地をそれぞれに宿るアイドル因子、
そんな二人からすれば想像を絶するハードワークが故、寝る暇すらろくに存在していなかった。
(昇斗の奴め……日本全域を実質二人で回すのは流石に荷が重すぎる……ボーナスはたっぷり弾んで貰わねば割に合わんな)
ズゴォォォ!!!
そんな事を考えていた矢先不意を突いて頭上からの奇襲に合う。敵からの攻撃を受けた刃を振り払い敵の正体を捉えるとそこにいたのはかつて奇しくも逃し生き永らえさせてしまった因縁の宿敵。上級憎愚
「こうして直接顔を合わせるのは何年振りかな。仙道巳早」
かつての凄惨な過去が呼び起こされる。沸々と怒りが込み上がってくると同時に並行して疑念も抱く。何故唐突に今このタイミングなのかと。
「わざわざお前達の方から現れるとは……以前のように戯れでは済まさんぞ。ここで確実に殺す」
「あはっ♪殺意マシマシだね。戦友とはいえたかが1人の男の為に10年間もそれだけ躍起になれるのって凄いと思うよ。心の底から尊敬してる♪」
「遺言はそれだけか?」
巳早は愛刀のサーベル『アルカディア』を抜刀負薄へ向け積年の恨みと殺意を乗せた斬撃を放とうとするが急遽軌道を変更。後方から放たれた弾丸の群れを一掃する。
「流石の危機回避能力だな。かすりもしねぇとは流石にちょっとショックだ」
巳早の前に現れたもう一匹の襲撃者は同じく上級憎愚である悲哀。
これまで何年も追い続けていた巳早にとっての宿敵が同時に2体現れた。巳早にとって願っても無い状況だがこの何年間も息を潜め続けてきた上級の動向としては違和感のある物だった。巳早は敵の心中を探るも納得のいく答えは出てこなかった。
(考えていても答えは出まい……多少開けた場であっても今は昼前、人気も少なくは無い。敵は上級2体相手に周辺市民への被害も考えて戦わなければならない。加えて千聖は不在。完全顕現は出来ない……であれば不本意だがアレを使うしか無い!)
ゴオォォォォォ!!!!!!!
巳早の全身から闘気が発せられる。その闘気には上級の2人をも怯ませ気圧させる程の重みがある。
「私たちは幾度となく目にして来た。憎愚の手により無惨に殺されて来た人々の嘆き、哀惜の念……お前達は軽率な理由で人の命を喰らい嘲笑い人情を踏み躙る。その様な卑劣な存在を私は断じて許さない!!」
負薄と悲哀は気圧される中で徐々にスリルと高揚感を感じる。目の前の男がしようとしている事は人間の限界を超えた行い。それは正に自分達を絶命一歩手前まで追いやった神の御業。
(来る……!!)
「聖転!」
巳早の周りを蒼き神炎が轟轟しく渦巻く。やがて炎は病み炎の中から現れたのは青髪の長髪、身体は華奢となるもその可憐な見た目とは裏腹に身体スペックは遥かに増している。
アルカディアに猛る蒼炎を宿し完全に性が変わり神なる姿へと転換した仙道巳早の姿があった。
(完全聖転換!……ここまで物にしていたか!)
「お前達は私の全力を持ってしてここで討つ。そしてお前達の首を天国の戦友への手向けとしよう」
―――― to be continued ――――
あとがき補足
巳早の普段は45歳のイケおじってやつですが完全聖転換をすると文字通り女性になっています。
見た目で老けてる様子は全くなく20代後半にも見えるビューティーお姉さん風な感じになっています。
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