第71話「迫る侵入者・迎え撃て十番隊」
2023年 8月2日 想武島 中央区域 9:20分
光也と聖愛に向けて6射目の矢が放たれる。放たれた矢は聖愛に向けて1本。光也に対して2本。
これらの矢に触れるか否かで次に放たれる大技の内容は光也が矢に触れるか否かで大きく変わってくる。
迫り来る矢を見据え全弾回避を試みる光也。だが矢に集中しすぎる余り目の前まで接近している友哉の斬撃に対して反応に遅れを取ってしまう。
ギギィィ!!
光也の葬刀と|
(一瞬であの距離を詰めて来やがった!フィジカルもイケる口かよ!!)
矢も依然として光也へ高速で向かってくる。刹那の間しかない判断の間で光也の導き出した答えは。
ゴゴォォ!!
光也の周りを豪雷が包み込み内なるアイドル因子を呼び覚ます。桐咲瑠璃華を完全顕現させ全体のフィジカルにバフをかけ、そのままの勢いで友哉を跳ね除ける。迫り来る矢を疾風迅雷の如しスピードで見事にいなし矢は2本とも地面に突き刺さる。
「全弾回避したって事でいいのかしら」
「ごめんかすっちゃった」
何やってんのよと言わんばかりの怪訝な視線を聖愛へと向ける。
「……まぁいいわ。となると上卦?ってやつは雷になったって事かしら」
「そう。そして七射目の威力は半端ない……今の俺らの力量じゃ対処する手段は無いと言って良い。だから必然的にここで決めるしかなくなってくる」
そう言って聖愛も自身に宿るアイドルを完全顕現させる。
背は縮み片目を隠すボーイッシュな少女が現れる。
「言っておくけど……女の子だからって慈悲をかけてやるほど僕は甘くはないよ」
「んなもんはなっから願い下げよ!!」
沐雨扇弓から二つの属性が組み合わせた強力な一矢が放たれる。瑠璃華とライアは力強く刃を握り締め、勇猛果敢に真っ向からぶつかり合う。その壮絶な威力から激しい爆発音と衝撃波が巻き起こる。
――――――――――
同日 東京 憎愚対策技術研究所
ここは鳴瀬博也を筆頭に人工技術をアイドル因子を主に研究し憎愚に対抗する為の武具や防具の開発を行っている施設である。
そんな超重要部署へ向けて息を潜めて向かう二つの怪しげな影。
先ほど莉乃達と接触した不気味雰囲気を漂わせる彼らは地下アイドルである事から正面切って堂々と潜入している。通り過ぎるDelight関係者も特段アイドルが施設内にいる事は日常の光景な為気に留めてはいなかった。
数分散策した後にそうして二人組は研究室の正面口へと到達し二人の警備員と鉢合わせる。
「ん?どうした君達?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ?」
「お兄さん達タバコ吸います?」
「ん?あぁ吸うっちゃ吸うけど今は勤務中だからなぁ」
「お仕事頑張ってるお兄さんに俺からプレゼントォ!」
そう言うとピアス男は警備員の口へ大量のタバコを無理やり押し込み着火させる。
一瞬で身体中に通常のタバコとは比べ物にならない程のニコチン、タール、一酸化炭素が巡る。余りの有毒性にもがき苦しむ警備員。大声を上げないように首根っこも捕まれ次第に気絶してしまう。
「ししっ……残念。お気に召さなかったか」
男は倒れた警備員を人気の少ない階段下へと移動させ衣服を略奪し着替えを済ませそのまま認証口へとかざし研究室へと潜入する。
よりにもよって大半の主戦力が本州を離れているこの極短期間の隙を突かれるとは思っていない故に警備も手薄であった。
とは言いつつもしたことと言えば変装以外はマスクで口元を覆っただけであり変装のクオリティで言えば限りなく稚拙と言えるだろう。
何事もなかったかのようにポーカーフェイスで研究室を物色していく相方の様子を見てブースィはその堂々っぷりに心配の余り声をかける。
「そんな目立つとバレてまうんでねぇか?」
「心配すんな。こういうのはさも居て当然ってくらい堂々と振る舞ってりゃ案外バレねぇもんさ」
ヘビースモーカー男の言う通り研究員達はそれぞれの作業に集中する余りブースィ達の存在に目もくれておらず己の作業に没頭していた。ブースィ達は容易に重要物厳重保管室前へと辿り着く。
「まぁ名前的にどう考えてもここだな。『
ヘビースモーカー男達はスマホを取り出し予めメモしておいた暗証番号と入室キーを認証させ部屋へと難なく入っていく。
「ありゃ?だーれもいないじゃん。こりゃまたラッキーだな」
従来のDelightには万が一の事態に備え隊長格レベルの人間が常に誰かしら一人は居座るように決められている。緊急時の際出動しなければならない事態でもすぐに駆けつけられる位置に必ず配置されるようになっている。
そんな中で下された全国の隊長達も連れ出しての合宿の開催には非難の声も上がったが社長である下國昇斗はこれらの意見を新鋭達の一早い成長の為には必要だと言って強引に跳ね除けた。
本来であれば戦力が十分に備わっているDelightに潜入及び侵入が成立する事は万に一つもあり得ない。ほんの数日空けるだけ。そもそも奏者達主戦力の大半が本州を離れていることなど敵は知る由もないと慢心が招いた戦力の過剰な分散。
これらがブースィ達の侵入の難易度を大幅に容易にしていた。
「あったあった。写真の特徴とも合致する。この保管庫の中だな」
再び男はメモに記載されている暗証番号を入力しカチッとロック解除らしき音が鳴る。
「……あれ?開かない?あれれ?なんで?」
「開かねえならオラが力づんくでぶっ壊してやんど!」
万が一中身に何かあったら困ると考えなしに行動するブースィを男は止めに入るも人っけ一つもなかった部屋に二つの声がこだまする。
「その保管庫は特殊なコーティングがされていてな。番号を入力しても一定の力量を備えたアイドル因子を宿す者しか開けられないようになっている」
「お前らのような侵入者に万が一にも奪われないようにする為にな」
そう2人に対して言い放つスーツ姿の黒髪ロングヘアの女性とアップバングヘアの男。
二人は今回の合同強化合宿には不参加である十番隊の隊員である抗者。
彼らは隊長である博也から試作中の武具が完成一歩手前でどうしても部下達を使っていち早く完成させたいという理由をでっちあげる事で社長を納得させ、こういった緊急事態に備え自分の隊の戦力を東京に留まらせていた。
「お前達の目的はなんだ。それを何に使うつもりだ」
「一言で言えば……叛逆ってところかな」
「なんだと?」
「この力は本来俺達の物なんだ。持ち帰んないとボスにどやされるしさぁ。ここはなんとか見逃してはくんねぇかな?」
「聞くに耐えないな」
李世がヘビースモーカー男を冷たくあしらう。
「ちっ……ここではあんまし手荒な事はしたくなかったんだが……しゃーなしってやつだよなこれは」
「でへへ……オデもそう思う!いっぱいオデがぎゅうぅぅぅしてやるど!」
「「はぁっ!!」」
そう言うと男達の身体の一部が禍々しく毒々しい物へと変貌していく。その姿から発せられるのは憎しみや妬み、浅はかな負の感情。彼らは自らの内に憎愚の力を宿らせていた。
「なっその姿は……!?」
憎愚の力を分け与えられた事で力の暴走、不可抗力による力の発現はこれまでも見られた事だったが自らの自由意志で憎愚の力を自由自在に扱う存在との遭遇は初めての事だった。
「余計な事は考えるな李世。理由はどうあれこいつらは憎愚に魂を売った人類の敵だ。容赦なくぶちのめす!」
「……あぁ。憎愚反応を検知。即刻侵入者を撃破し身柄を拘束する」
両者は身につけている
「わかっているとは思うが場所が場所だ。あまり暴れすぎるなよ将人!」
「そいつはこいつらがどれだけ俺をイラつかせないかによるな!!」
―――― to be continued ――――
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