第70話「光也・聖愛vs友哉開幕!そして迫る狂気」


 想武島 中央区域 藤野友哉との交戦開始3分前。


 苦戦を強いられている隼人を発見した光也は加勢に加わろうと身を乗り出した矢先、共に行動していた八番隊の聖愛により止められる。


「藤野先輩は強いよ。このまま加勢して3対1でやり合っても勝てるか怪しい」


「じゃあこのままスルーしろってのかよ」


「あの人に勝つにはあの人独特の入り組んだ能力の性質をあらかた理解しておく必要がある。八卦占易はっけせんえきについて理解してるかしてないかで戦い易さに雲泥の差がある」


「八卦占易?」


 八卦占易はえき占いをベースとして構築されている能力であり、三本の矢が対象に触れたか触れていないかを6回の射出により結果を占っている。

 その結果は上卦と下卦の8×8種を組み合わせた64種に渡り占い結果に添った効果が付与される。


「これだけ聞くと運頼みな能力に聞こえるけど占い切る前に都合の悪い結果になりそうなら矢を敢えて外したりして調整してくるらしい」


「それ占いって言うのかよ」


「まぁあくまでベースにしてるだけとかなんじゃない?俺もあんま詳しくないし。てかこんなんを詳しい人いるか?って感じ」


 八卦占易の強みはその特異性であり易占いによる六四卦に関しての知識の有無で戦い易さが大きく変わってくる。

 だが大抵の人間は占いに関しての知識など把握していない。戦闘中に読み解こうにも余りの膨大且つ難解なその内容は短時間で把握する事は限りなく不可能に近い。

 故に藤野友哉は隊長格を除く奏者の中で上位三位に入り込む実力を秘めている。


「俺とライが気合いでだいたいの六四卦と能力は把握してる」


『君は数個しか覚えてないだろ』


「うるせぇな。とにかくお前の方に向かう矢は触れるべきか触れないべきかは俺が指示する。肝心なのは6発目の矢。それ以外は好きにしていい。相手が所謂大凶を引いちゃった時に二人で一気に攻め立てる。以上」


「うし!」


 ――――――――――

 友哉に対しての対策を行った上で隼人が戦線離脱し光也、聖愛対友哉との戦闘が開始される。

 現時点で3発目の矢が射出されている。3射目の矢は全て光也の元へ向かい光也はそれらを全て弾き飛ばす。


「老陰」


 (今ので下卦が完成した。結果は少陰、少陽、老陰……下卦は坎(水)か、上出来だな。下卦さえ出てしまえば考え得るパターンは8種まで絞れる。いきなり正念場だな)

 

 六四卦の内容はライアが大元を記憶している。結果から逆算し迫り来る矢は触れるべきなのか避けるべきなのかを瞬時に判断し聖愛へと指示する。

 ただでさえ他者への情報伝達が必要となってくる上更に狙われる対象は二人。3本全てが光也へ向かうケースもある事から読み解く難易度は段違いとなっている。

 だが八卦占易の内の下卦が出揃ったことで残り考えられるパターンは8種まで絞る事が出来た。


「可愛くて愛しいライちゃん。こっからどうすべきか教えてちょ」


『上卦の属性が坤(土、岩)、兌(沼、地)だとあのツインテール君が属性不利を取ってしまう。水と水の重ね合わせも強力な効果で強行突破されてしまう恐れがあるから狙いは離(火)妥協するなら巽(風)がベスト』


「おっけーい。流石天才飛び級ちゃんは頭の作りが違うね」


『呑気な事言ってるな来るぞ!』


 聖愛は向かい来る3本の矢を2本弾き飛ばし瞬時に光也の側に移動し作戦を伝える。


「今ので4発目、残りの2発の矢の成り行きは超大事。今俺が少陽に導いたから次の矢は全部触れる、その次の矢は全弾触れない。ミスったら死ぬと思ってやってね」


 続けて5発目の矢が光也達へ猛スピードで迫り来る。占い最中の矢の威力も当然の如く強力でありそれら一発一発にも重みがある。


 光也と聖愛はそれぞれ持つ刃、葬刀とルァ・ヴェノムの斬撃で全て刃で触れ弾き飛ばす。

 そして肝心となる次の一手。現時点での上卦の結果は2本触れての少陽、全弾触れての老陰。


『ここまで来ると結果は二択。火か雷か』


「八卦占易の7撃目は2つの属性を掛け合わせて撃ってくる1つは水が確定してる。火が狙いだけど万が一雷に転んだ場合お前が押し合いに勝てるかって話になってくる」


「自分の磨き上げてきた物で勝てねぇと思う程情けねぇもんはねぇだろ」


「その自信が口だけじゃない事を祈るよ」


 視界を無くすように互いに背後を取り合い身構える中、6射目が二人に向けて空を駆けるが如く放たれる。


 ――――――――――

同日 東京 渋谷区 Delight本社 9:30分


 桂木莉乃達シャインアンシェールの面々はマネージャーである絵森憧子。そして達樹達不在の為現役人気アイドルでありながらも抗者として憎愚と戦う一面も持つ白髪ロングの女性。白瀬立花と共に番組打ち合わせや撮影も兼ねてDelightへ訪れていた。

 人手が少ない場面での撮影が必要だった為早朝から猛暑日の中撮影に駆り出されていた莉乃達はようやくDelightへと戻りリフレッシュスペースにて休憩に入る。


「熱い中お疲れ様。良かったら貰って。絵森さんも」


 立花が人数分のドリンクを自販機で購入しそれぞれに手渡していく。


「わぁ!ありがとうね。立花ちゃん」


「こういうのってマネージャーがすべきなんじゃ」


「最年長なのに」


 園華と咲弓による鋭いツッコミが憧子に突き刺さる。


「うっ!……きゅ、給料が入ったらオススメのお寿司屋さんに連れてってあげるからね〜〜」


「どうせなっぱ寿司でしょ」


 3人で仲良く談笑し出した咲弓達。立花は一人戸惑いながらも黙々とジュースに口をつける莉乃へ話しかける。


「まだどこか距離を感じちゃうな。莉乃ちゃん」


「ふぇぇっ!?そ、そんな事ありったらないですよ!?」


「ふふ、どっちなんだいそれは」


「す、すいません。白瀬先輩はテレビにもたくさん出てる凄い人だからどこかで遠慮しちゃってるのかも……時間が経てば慣れてくると思うんですけど」


「なるほど」


 立花は莉乃の頬は右手を添えそっと自分の方へと。ゆっくりとほんの少し強引に視線を向けさせる事で二人の目線が強制的に合う。

 じっと新鮮な眼差しで無言で見つめてくる立花に対して莉乃は流石に赤面してしまう。


「ど、どうしましたか……白瀬先輩?」


「こうやって見つめ合っていれば少しでも早く距離が縮まると思うんだ。時間もあるし……しばらくこうしていようよ」


「えぇぇ!?……わ、わかりまひた……」


 無言で見つめ合う二人。視線を逸そうとすると立花により囁くようにダメだよと言われ止められる。

 女性同士ではあるものの整った中性的な顔立ちの立花を目前として見つめ合う状態が続くとなると莉乃も流石にドギマギしてしまう。

 いつの間にか二人だけの空間が出来上がっていた事から迂闊に手を出せず咲弓達は生暖かく見守っている。


 (こ、これ本当に距離縮まってるの?そもそもいつまで続くの?き、キスとかはないよね流石に!?)


果てしなく長く感じる数十秒は突如謎の男が割って入った事でピリオドを打たれる。


「がわい娘とがわい娘とオデで幸せサンドイッチだっぺぇぇぇ!」


「ひゃあぁっ!?」


 莉乃はその唐突すぎた狂気に身の毛もよだつ程の鳥肌が立つ。余りの慌て様で椅子から転げ落ちてしまいそうになるも莉乃の背後に瞬時に回った立花により抱えられそのまま自分の背後へ莉乃を誘導する。

 莉乃だけでなく咲弓や園華も一瞬で関わってはいけない人種が目の前にいると心底感じ取り恐怖心に狩られている。


「あで?おかしいなぁ。オラががわい娘にこうやってぎゅぅぅってしたげたら喜んでくれどったのに?」


「ぷっはぁぁぁ!!……しし、やめとけってブーシェ。あきらかビビってんしょその子ら」


 顔面に複数個ピアスを開けたビジュアル系の見た目をした男が男が勢いよく口に大量に含んだ紙タバコから副流煙をそこかしこにばら撒く。

 強烈な副流煙の前に莉乃達も酷く咳き込む。呂律がやや回っていない奇怪な男へ注意する。


「……公共の場で喫煙は感心しないな。ニコチンの大量摂取の影響で脳細胞が死滅してしまってるらしい」


「ししっ!……言ってくれるねぇ。まぁ俺からしたら空気を吸ってるみてぇなもんだから多めに見てくれよ」


「なんにせよお前達の振る舞いは実に不愉快だ。彼女達もお前達の常識の無さに怯えている。今すぐ私達の目の前から消えろ」


「……そんな事言わんでぇぇ!?オデイゲメンだろ?ぎゅうぅぅしてだろもん?」


「まぁ待てブーシェ」


 ハグをしようと立花達に駆け寄ろうとするブーシェと呼ばれる男を超ヘビースモーカー男が静止する。


「悪かった。俺達が場をわきまえた行動が出来てなかった。心から詫びるよ」


 そういって男は大量に持っていたタバコを口から離れさせもう片方の掌にぐりぐりと擦り付けだした。


 (手で消そうって言うの!?)


 衝撃の光景に言葉を失う莉乃達。


「俺なりの贖罪だ。これに免じて見逃してくれ。もうあんたらにはちょっかいかけねぇからよ」


 男は大量のタバコを押し付けた事で見るも無惨なまでに水脹れが起きた左の掌を立花達へ罪滅ぼしと言わんばかりに見せつける。


「グロテスクな物を見せないでもらえるかな」


「すんまっせん。じゃあ俺たちはここらでお暇させてもらうわ。じゃあそゆことで」


 そう言い残しヘビースモーカーの男はもう片方の男を引っ張りながら施設内へと立ち去っていった。


「もう大丈夫。あいつらは去っていったよ」


 遠目の物陰に隠れていた莉乃達が立花の元へ周りを警戒しながら近づいてくる。


「あ、明らかに不審者ですよね。警察に連絡した方が……」


「Delightの敷地内に半端な部外者は一歩も立ち入る事は出来ない。厳重な警備体制が張られているからね」


 怯え男達が立ち去った今も尚小刻みに震える園華の背中へ立花はそっと手を添える。


「私知ってます見たことあります!あの二人!」


 アイドルに関しての知識を幅広く仕入れている咲弓がようやく点と点が繋がったらしく口を開く。


「確かメンズ地下アイドルの人だったはず!……名前は覚えてないですけど……」


「色んなアイドルがいるとは思ってるけどクレイジーすぎじゃないあれは流石に……喋り方もおかしかったし」


 マネージャー業務としてあらゆるアイドルと関わってきたことのある憧子からしてもあの二人は極めて異質であった。


「確かにどっちも変わった人だったとは思いますけど……あそこまで頭のネジが外れた人達じゃなかったと思うんです」


「何か良からぬことが起きなければいいのだけど……」


 立花の脳裏に不吉の一文字がよぎる一方で二人の男はある場所を目指し息を潜めて静かにひっそりと、着々と歩を進めていた。


「あーんま目立つ様な事してくれんなよブーシェちゃんよぉ。せーっかくひっそり潜入作戦が台無しになっちゃうでしょうが」


「うぅ……ずまんでぇ。あいつらツラだけはエエでからに。ぎゅうぅぅぅってしてぐぐぐぅぅぅってしたくなっちまって!」


「今はその時じゃねぇ。抑えなブーシェ。今は確実に俺達の任務を完遂する事だけ考えようや……今回のミッションはガチガチすぎてしくじったらボスにガチ目にぶっ殺されちまいそうだからよぉ」

 

―――― to be continued ――――

 


 

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