第56話「合宿開始!地獄のマラソンを踏破せよ!」


 想武島へ到着した輝世達樹達は下國昇斗からアイドル因子の力を極め抜いた奏者の極致。完全聖転換について聞かされる。

 奏者達は自らの肉体の変化に抵抗感を示すも昇斗の真剣かつ誠意を間近で感じ取り力を追い求める事を決意する。

 そんな中早速合同強化合宿の第一プログラムが開始されようとしていた。


「あと1分後だな」


 達樹は自らのスマホで現在時刻を確認する。

 時刻が18時を刻むと同時に第一プログラム『超豪華宿泊施設目掛けて直走れ!妨害トラップなんでもアリの想武島外周マラソン』が開始される。

 

 内容は至ってシンプル。島の外周をマラソンし100km先の宿泊施設に日を跨ぐまでに辿り着けという物。加えて合計参加部隊十一隊の内6位以内に入らなければならない。

 

 各隊3人の内2人が時間内に間に合えば合格とされ3人共施設の利用が可能。

 時間内に間に合った人間が1人又は誰も間に合わなかった隊は宿泊施設の利用はできず一切の支援なしで野宿となる。

 

 更にルールとして「コース外に出る事、規定コース以外を経由してのショートカット」

「想力を消費しての空中移動は禁止。移動に使用する想力は必ず地に足を付いた物でないといけない」

「開始2時間以内は一切の想力使用は不可」

「奏者は抗者との公平を期して完全顕現は使用禁止」(完全顕現の使用は実質二人分の体力となる為)という縛りがある。


 そして規定時刻は目前。奏者達に緊張が走る中、博也の号令が拡声器から島内に響き渡る。同時に各自スタート地点から駆け出して行く。

 真っ先に後先考えず全力疾走で先陣を切る者。ペース配分を考えろと止めに入る者。基礎体力に自信がない物はスローペースで進む者。

 あっという間に開始1時間が経過。息を上げだす者、立ち止まり休憩する者も徐々に現れて行き各々のペースでマラソンに勤しんでいた。その中達規達五番隊メンバーはペースを落とさずなんとか走り続けていた。


(わかっちゃいたけど前半はただの長距離走だ……100キロを6時間で走る。それも妨害ありきとなると生身でどこまで進んでおくべきなのかペース配分が全くわからねぇ……)


 何よりいくら日常から憎愚と戦い鍛錬に励んでいる奏者であってもフルマラソンの倍以上の距離を6時間以内に辿り着く事は困難である。

 更に時間内の3分の1はシンプルなマラソンを強制させられる。

 ただでさえ時間と体力が奪われておりそこに他者からの妨害によるタイムロスを考えると悠長な時間は全くと言っていいほど無い。

 走り続けて1時間30分。達樹もいよいよ疲労が溜まって来る。


「くっせめて卓夫には追いついてやろうと思ってんのに全然見えねぇ……!」


「ここ2ヶ月一生扱かれてたらしいからな。基礎体力なら俺達より上なのかもしれねぇ」


「抗者全般がその傾向にあるって感じだと思う。でちでち言ってた子は後ろにいたけどアイドル因子に頼れない分俺達以上に鍛え上げてるんだろう」


 未萌奈達四番隊を始めとする抗者面々も大多数は達規達より先を先導している。

 だが基礎体力でアドバンテージを取れるのも前半戦のみの話。奏者もまた抗者に負けじと日々の鍛錬を怠ってはいない。持久力に絶望的に差があるわけでは無い。

 達樹は体力を温存しつつ一気に畳み掛けるべく2時間の経過を心待ちにしていた。

 そして待ちに待った2時間が経過し各位想力が一斉に解除される。


「よっしゃ!こっから巻き返すぜ!!」


「っ!?いや待てっ!!」


 隼人の静止は間に合わず達樹、光也二名は想力を解放し駆け出す。

 すると途端に聞こえて来る悲鳴と叫び声。時間経過と共にあからさまに何かが作動したのだと悟る。


「おい達樹!上見ろ!」


 光也の言う通り視線を上空へ向けると奏者、抗者達が何者かに投げ飛ばされたかの如く宙を飛び逆走していた。

 何かしらの罠が作動したのかと察したが時既に遅し。


 ガシっ!!


「っ!?」


「光也っ!」


 ガシッ!!


「やべっ!?ってうぉぉ!?」


 突如木陰から筋肉隆々のお婆が現れ二人を拘束。余りの不意うち且つ素早さに反応が出来なかった。


(力強っ!!……抜けらんねぇ!!)


 お婆は達樹、光也の身体を担ぎ上げると容赦なく無言で笑顔を浮かべながら勢い良く後方へと投げ飛ばした。


「くっそがああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 達樹、光也の二人は苦労して進んできた道のりを大幅に後退する事となる。

 空中で受け身を取り少しでも距離を軽減したい所だが空中での想力使用不可がここで響いて来る。


 (着地時まで移動に関する想力は使えない……通りでみんな何の抵抗もなく投げ飛ばされてるわけだ!)


 約一分間中を投げ飛ばされ逆走させられた達樹達もようやく地に足が付く。


「えげつない距離戻されたぁ……!!あんのクソババアがぁぁ!!」


 露骨に怒り心頭の光也。文句を垂れていても時間が勿体無いので再び走りだす。周囲には他の奏者や抗者もちらほら見受けられる所へ博也からアナウンスが入る。


『彼女達は俺達の想力の研究の末に開発された想力を動力源にして動く戦闘用アンドロイド『ムキムキマッチョおばちゃん投型』。想力を感知して即座に対象を掴み掛かり投げ飛ばす。このムキムキおばちゃんは随所に設置されてるから注意しながら進む事』


「なんだよそれ!そんなもん結局想力無しと変わらねぇじゃねぇか!」


「いや待て、隼人がいない。投げ飛ばされたならこの辺にいるはずだ。いねぇって事は多分突破出来たんだ。何かしら抜け道があんだよ」


「くっ……!時間もねぇってのに余計な神経使うぜ!」


 想力を慎重に運用しながら通常の走行と大して変わらないスピードで進み続ける達樹と光也。だがこの程度のスピードでは間違いなく時間内にゴールに辿りつく事は不可能だと断言できる。なんとか解決策を見つけださねばと思考を巡らせる。

 そんな矢先前方から達樹達へめがけて飛び掛かる赤髪に編み込みを刻む男あり。男は拳と豪脚を駆使して攻撃を仕掛けて来るが達樹達は想力を集中させて防ぎ切る。


「これをまともに防ぎ切るたぁやるなお前ら」


「誰だてめぇ……時間ねぇんだよ!邪魔すんな!!」


「俺は二番隊の宮守龍二ってもんだ。まぁ聞け。

 このマラソンどう攻略するべきか俺なりに頑張って考えだんだよ。で考えた結果全くわからなかった。だから俺は誰かしらと全力で殴り合う事にしたんだ」


「バカかお前は!!」


「3人中2人が時間内にゴールしたらいいんだろ?だったら1人は好き勝手しても良いだろ。無駄に進んでも戻されるだけだしな」


 このまま立ち往生していても埒が開かない。隼人は現状戻されていない今隼人と達樹、光也の内どちらかは時間内に辿り着く必要がある。目前の相手は闘る気満々。どちらかがこいつを足止めしなければならないと意を決して光也が名乗り出る。


「わかった。お前の相手は俺がしてやるよ脳筋野郎」


「光也!?」


「別に2人がかりでも構わねぇけどな」


「俺一人にしときな……初日早々恥かきたくはねぇだろ」


「おもしれぇ……!」


 光也と龍二の両者。想力を巡らせ戦闘体制に入る。


「ここは俺が相手する。お前は何が何でも時間内にゴールしろ……俺は布団じゃなきゃ寝れねぇんだ」


「……わかった!負けんなよ!!」


 光也へ任せ達樹はゴールへ走り出していく。そんな中想武島の浜辺にて市導光也と宮守龍二の拳と光也の葬刀による刃が衝突。ここに戦いの幕が切って落とされた。

 

―――― to be continued ――――

 

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