第39話「達樹覚醒!疾風怒濤の真なる力!」


 未萌奈の窮地に駆け付けたのは少女とのぶつかり合いを終えた輝世達樹であった。

 未萌奈の体中の傷を見てその非人道的な暴力を受けた事が伺え静かに怒りが湧き上がってくる。


「後は俺に任せて隠れててくれ」


「バカ……あいつは昨日とは比べ物にならないくらい強く……」


「強くなったのはあいつだけじゃねぇよ」


 達樹の一撃をくらい蹴り飛ばされていた謙也が二人の隙を見て襲いかかる。


「良いところだったのに邪魔すんじゃねぇよ雑魚がぁ!!」


 謙也は再び達樹へ猛スピードで狂人のように殴りかかる。

 だが達樹はそれを更に上回る疾風が如くスピードで謙也から距離を取り、物陰に未萌奈を寝かしつける。


 (早い……!?目で追いきれなかった……!?)


 達樹の瞬足に未萌奈も把握しきれておらず驚きを隠せない。


「あんた……この一晩で何したの……」


「受け入れただけだ。弱い自分と相棒アイドルの意志をな」


 凛として達樹は標的を見据えて想力を拳に込めて構える。

 その目に一切の恐怖は映っていない。思考するのは勝利のイマジネーションのみ。

 

「何したかはしらねぇが、ただ速くなっただけじゃ俺には勝てねぇぞ!」


「速くなっただけじゃねぇって事を……見せてやるよ」


「っ!?」


 そう言い残した刹那。謙也の視界から達樹が消える。

 一瞬にして謙也の正面まで移動し腹部へ向けて力強く右拳を放つ。謙也は咄嗟に両腕でガードする。


「だから効かねぇよ!んなもん!!」


 そう言い放った次の瞬間違和感を覚える。

 腕に打撃の衝撃の他に別の感触。達樹の拳の周りに渦巻く烈風の存在を視認。鎌鼬にあったかのように腕に斬り込みが入って行く。


 シュゥゥゥゥ


(風……っ!?)

 

 このままでは腕を斬り落とされかねないと踏んだ謙也は必死に距離をとる。


「流石にそのまま受け止めてたらやばいってのは理解ったみてぇだな」


「てめぇ……」


「本番はこっからだ。今からてめぇに俺の真の力を完全初お披露目してやる」


――――――――――

15分前 偶像空間内


「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


「はああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドゴォォォ!!!


 達樹と少女。両者の渾身の力を込めた拳が激突し合う。拮抗し合う両者。少女だけでなく達樹もまた彼女を戦士と受け入れ、本気でぶつかり合うべき相手として死力を尽くして立ち向かっていた。

 その様は表情、拳、迫力全てから十分すぎる程少女に伝わっていた。


(ありがとうございます達樹さん。もうきっと大丈夫)


ドガァァァァァ!!!


「がぁっ!!」


「きゃあ!!」

 

 その余りの威力に両者共に吹き飛ばされる。


「いっつ……まだだ!まだやれるぜ!!」


「いえ!もう大丈夫です!」


「えっ?大丈夫って……俺まだまだ動けるぜ」


「もー!目的を見失ってませんか?私を倒すのが目的じゃなくて!私の事を受け入れる為に戦ってたんですよね!?」


 先程までのクールにかつ豪快に戦っていた少女とは思えないほど普段通りの砕けた口調へ変わる。

 彼女にこれ以上戦う意思はないと汲み取れ達樹も自然と肩の力が抜ける。


「あっそっか」


「達樹さんのおバカさん!」


 そう口振りでは怒っているものの少女は心なしか嬉しそうだった。


「でも俺、君の事受け入れてるのかあんま実感ないんだけど」


「……さっきハッキリとわかりました。達樹さんは本気で私と戦ってくれた。一人の戦士として認めてくれたんだってわかりました。だから私達は以前とは比べ物にならないくらい強い絆で結ばれパワーアップ出来たはずです!」


 彼女の目から確固たる確信が伝わってくる。彼女もまたこの戦いを経て達樹へより信頼を寄せていた。

 こうしてる間にも謙也は人を襲い続けている。未萌奈にも危険が迫っている事を思慮し迅速に向かう必要がある。

 だがその前に一つだけ。今ならきっと聞こえるはずだとこれまでずっと聞きそびれていた事を達樹は問いかける。


「今までずっと歯痒かったしもどかしかった。どう呼んでいいかわからなかったから。

 でも今なら聞こえると思うんだ……だから改めて教えてくれ。君の名前を」


「はい!私もずっと達樹さんに名前で呼んで欲しかったですから」


 少女はこほんと咳払いし明るく微笑みながら言葉にする。


「私の名前はーー」


 ――――――――――


 ゴォォォォォ!!!


 達樹の全身に膨大な想力が発現し周囲に疾風が吹き荒れる。想力により生み出された竜巻は達樹を飲み込む。


 ビュゴオオォォォ!!


 やがて疾風は止み、次第に達樹の姿が露わになって行く。


「なんだ……それは……」


 今まで不完全だった達樹の幻身。自らのアイドル因子を信頼し合い共鳴し合う事でその姿は本来のあるべき姿となる。

 髪の両サイドに緑と桜色のカラーリングが入り、想力が宿る両拳、両脚には疾風が付与されている。


『わぁ〜〜!!やりましたね達樹さんっ!バッチリ成功してますよっ!』

「あぁ。輝世達樹及び春風大我はるかぜたいが。俺達二人で今からてめぇをぶっ倒す!!」


 ―――― to be continued ――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る