第24話「狙われた友!冷酷非道なゲーム開始!」
輝世達樹達は同じクラスの友人。寺田卓夫から突然解雇となった推しのアイドル「キミラブホスピタル」の人気メンバー笹倉静葉の捜索を頼まれる。
そんな矢先、憎愚の気配を感じ取った達樹らは現場へ向かうがそこにいたのは笹倉静葉の姿を身に纏った憎愚であった。
上級憎愚。哀憐は笹倉静葉の外観を奪い非道の限りを尽くすことで静葉を絶望に追いやろうとしている。
一刻も早く憎愚を撃破すべく再度達樹達は捜索に出ていた。
――――――――――
「くそっ……!ろくに気配を感じねぇ!」
達樹らは身失った憎愚の気配を探っているが一向に居場所が掴めずにいた。そこに恋が助言する。
「今の憎愚の形成されてる要素の大半は人間だからね。憎愚への感知が著しくやりにくい状況だ」
「じゃあどうすりゃいい?」
「基本的に憎愚は素体となる人間が憎むべき対象となっている人間を襲う。だが今回の憎愚の目的はアイドルとしての尊厳破壊。それは彼女が築き上げてた信頼や功績を踏み躙る事を意味する。つまり今回奴が狙うのは自分を好いてくれている
「じゃあ……卓夫があぶねぇ!!」
「散らばろう。その卓夫ってやつ以外にもターゲットとなり得る人間はいるからな」
恋は狙われる可能性が高い人物のリストアップされた顔写真付きの資料をそれぞれに渡す。
Delightは幅広いアイドル事務所、企業との繋がりがあるため各アイドルにどのようなファンが付いているのかを調べる事は容易である。
笹倉静葉に襲われた人間の共通点はガチ恋ファン。その自覚がないが彼女に恋心を抱いているファン。下心しかない繋がり目的の雄。この傾向が強い人間が数日前から襲われている。
「よし、緊急事態時は遠慮なく救援を呼ぶ事。今回の敵は強い云々だけじゃないからな。じゃ各自、散っ!」
それぞれ各自保護対象の人間の元へ向かう。
達樹は狙われる可能性が高い友人。卓夫の元へ急ぐ。
――――――――――
同日 東京某所 空き家 21時15分
(あれから何時間経ったのかな……)
哀憐が立ち去ってから6時間が経過していた。逃げ出す気力も失せただじっとする事しか出来ない彼女。
(ちょっと待って……私何も食べてないよね……水分だって……)
拘束されてどれほとの時間が経過したのか明確にはわからない。だがこれだけは言える事があった。
(食欲が全くない……尿意や眠気も……それにこれだけずっと座ってるのに足の痺れだってないのはどう考えてもおかしいわ……)
「少しずつ人ではなくなっていってるのよ」
自らの異変に気付いた静葉の前に再び哀憐が現れる。
「ど……どういう事よ!!」
「あなたの人間としての……言うなれば素体はここには無い。今のあなたは抜け殻に人体のパーツを肉付けしただけの状態にすぎないわ。このまま時間が経過すればあなたは完全に元に戻れなくなりずっとその姿のまま生きて行く事になる」
「そ、そんなの嫌よ!!」
「そろそろあなたの泣きっ面も飽きてきたから新しい刺激が欲しくてね。あなたに一つだけチャンスをあげる」
「チャンス?」
「ある条件を満たせばあなたは元の笹倉静葉に戻る事が出来る。制限時間は日が変わるまで……受けるかしら?」
「あ、当たり前でしょ!」
哀憐から告げられる元の人間の姿に戻る為の条件。
その内容を聞いた静葉は一抹の望みを託して夜の街へ繰り出した。
――――――――――
同日 東京都内 21時40分
「ったくあいつどこほっつき歩いてんだ!?」
達樹は卓夫の家へ一目散に向かったがまだ帰宅していなかった。
その後隈なく卓夫が居そうな目ぼしい場所は探したが見当たらなかった。
『やっぱりアイドルの事が好きならライブ会場とかなんじゃないですか?』
「うーん推しが強制解雇なんてなっちまったらナーバスになってこういうの距離置くもんなんじゃねぇの?」
とは言っても他にあてはない。
ライブハウスを順に当たっていくとなるとキリがなく目星もつかない為敢えて候補から除外していた。
達樹は近隣の地下アイドルの現場があったライブハウスを巡る事にする。
近隣の有名な秋葉原にあるライブハウスに降り立つ。
すると幸いにも丁度会場から出てきた卓夫と鉢合わせる。
「はれ?達樹殿?」
「ったく、ようやく見つけたぜ」
「達樹殿が拙者を捜索!?い……一体どのようなご要望で……?」
達樹は全ては語らず現状卓夫は危険に晒されているという事実のみ伝える。
「訳は言えない。でも拙者の身に危険が迫っている事は確実だからしばらく側に居させて欲しいとそういう訳ですな?」
「あぁ……いきなりで訳わかんねぇと思うけど信じてくれるか?」
「顔付きと声色を伺えば事の深刻さはだいたいわかりますぞ。でも危険だと言うなら素人だけでの解決は困難。警察に相談しに行くべきでは?」
「ま、まぁ……そうなんだけど……」
(そりゃそう思うよな……なんて言うべきだ……)
とてもごもっともな意見を頂いてしまい納得のいく説明が用意できない達樹。
もちろん警察では憎愚を対象する事は不可能。憎愚に対しての認知もしていないので頼る事に意味はない。余計は被害者が増えるだけだからである。
どう取り繕うか定まらない中歩き続けてるやいなや突如男女入り混じった悲鳴が聞こえてくる。
「な、何事!?」
(憎愚か!?)
悲鳴と驚嘆の声は徐々に近くから聞こえるようになる。
人混みをかき分けて人々の視線の先に目を向けるとそこに居たのはボロい布切れ一枚身に纏いとても人の顔とは思えない歪で醜悪な外観の人らしきモノの姿があった。
ヒトらしきモノは人語を話しそこら中の人間に媚びるように迫っては拒絶され時には暴力を振るわれていた。
「な……なんですかあれは!?せ、整形に失敗したのでござろうか……?」
「それであんな事にはならねぇだろ……」
達樹は憎愚である事を前提に身構えていた。だが目の前の悍ましき見た目の異形からは憎愚の気配は感じられない。
(ただの、人間なのか……?いや、だとしてもあんな見た目……あり得んのか……!?)
異形の目線がこちらへ向けられる。卓夫と目線が合う。
すると異形は呻き声を上げながらこちらへ何かを懇願するかのように走ってきた。
「卓夫くん!!私笹倉静葉なの!お願い!!私とキスして!!」
「なんですとっ!?」
(笹倉静葉だと!?)
突然の事態に両者共に戸惑いを隠せない。
目の前にいる笹倉静葉と名乗るモノはとてもアイドルと呼ぶに値する見た目とはかけ離れた物であり言葉だけですんなり飲み込む事は不可能だった。
「な、いきなり何を言い出すのですかあなたは!?」
「お願い!!あなたならきっと私を元に戻せる!!アイドルの笹倉静葉に戻る事ができる!!」
そう言い寄りながらぐっと卓夫の両手を掴む。
他の人間に懇願していた様子とは目力が違った。それだけ本気の熱意がそのモノからは込められていた。
「拙者……アイドルの笹倉静葉ちゃんが大好きでござる」
「!……じゃ、じゃあ!」
「笹倉静葉はお前のような穢らわしい見た目をしていない……歯並びも綺麗で容姿端麗で髪艶も良くて肌も綺麗でみんなが憧れるような可愛いアイドルでござる……」
力強く最後の希望を乗せるように握られていた手は振り解かれる。
「拙者の大好きなアイドルを侮辱するな!!今すぐ離れろ!!」
「……っ!!」
異形は鋭く突き刺された拒絶の言葉に耐えられなかった。頬に涙を溢しながら当てもなく走り去ってゆく。
(……事の真意はわからねぇが憎愚に巻き込まれてる以上、あんな見た目だがあいつが笹倉静葉と断定していいはずだ……)
「おいっ!待ってくれ!!……っ!?」
遠ざかって行く静葉を追いかけようとしたその瞬間。頭上から衝撃波が達樹目掛けて放たれる。
達樹は巻き込まれまいと卓夫の手を取り華麗に回避する。
「こ、今度は何事でござるかぁ!?!?」
「……あいつは!!」
土煙が舞う中周囲の人間が突然の衝撃の前に逃げ惑う。
頭上へ視線を向けるとそこに居たのは金髪ロングヘアを靡かせる大人びた見た目の女性。の見た目をした上級憎愚。哀憐が冷徹な目で二人を見下していた。
「初めまして輝世達樹君……その反応だと少しは私の事は知ってくれてるみたいね」
(上級憎愚……俺がどっちともマッチングしちまうとはな……ツイてんのかツイてねぇのか……)
「今彼女とゲームをしてる最中なの」
「ゲームだと?」
「そう。とってもスリルがあって血肉湧く素敵なゲームよ。今最高に良い所なの。だから邪魔させてもらうわ」
「た……達樹殿……さっきから誰と喋ってるのでござるか?」
「とびきりやべー奴と話してるよ……」
(さすが上級……圧がやべぇ。スマホなんか弄る余裕ねぇな)
憎愚に憎むべき対象となっているか、憎愚の元となった人間を知っていない限りアイドル因子を持たない一般人は憎愚を視認できない。
個人差にもよるが命の危機に瀕した時に視認する事のできる人間も中にはいる。
(ここで俺の事も見えなくなっちまうのは都合が悪い……
『認識許可』
憎愚同様。アイドル因子を纏っている状態の奏者は一般人は視認できない。
だが奏者自身が認識させるべきだと判断した場合。その自身の姿を定めた対象のみに限定して認識させる事ができる技法である。
特訓の際に教わっていた認識許可を卓夫に発動した上で達樹は力を解放。幻身する。
「ちょ!えぇ!?一瞬にして達樹殿がビバカワサイドテール男の娘に!?」
「後で詳しい事は話す。今は少し隠れててくれ」
両拳に想力を込めて構える。
上空に立ちはだかる上級憎愚相手にこちらも闘志を漲らせ戦意を放つ。
「臆さないのは大した物ね。でも肝心なのはここから……精一杯足掻いてもがいて……私を昂らせてね」
『達樹さん……』
「わかってる……無理はしねぇよ」
ようやく見つけた笹倉静葉との距離もこのままでは離されてしまう。一刻を争う緊急事態。
卓夫が見守る中達樹と哀憐の戦いが始まる。
――――――to be continued――――――
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