第25話「憎愚が人を襲う理由!激突・達樹vs哀憐」
秋葉原の街並みに激しい衝撃と業風が渦巻く。
被害に遭わないために物陰に隠れる卓夫の上空では達樹と哀憐による激しい攻防戦が繰り広げられていた。
達樹は絶え間なく哀憐に殴りかかる。一瞬も止まる事なく猛攻を仕掛ける。
「センスは悪くないわ。想力量もそこらの奏者の水準は軽く上回っている……でも雑」
「っ!!」
哀憐は容易に達樹の背後を取り弾き飛ばす。そのままの勢いで遙か先に建造されている高層ビルの壁へ衝撃の余りめり込む。
「くっそ……!」
体制を立て直すや否や反撃の策を考える暇もなく哀憐が真横へ現れる。
「まだ身が入ってないようね」
(……っ!?この距離を一瞬で!?)
そのまま首元を掴まれる。
「もっと私を楽しませてちょうだい!!」
達樹の腹部へ強烈なボディブローを幾度となく浴びせられる。そのまま頭上から強烈な踵落としを喰らわせる。
達樹は少しも抵抗する事ができず凄まじい破壊力で地面へと叩きつけられる。
「がはぁ!!」
膨大なダメージを負う。吐血に止まらず身体全体を想力により耐久性を増していたにもかかわらずその強烈さに立ちくらみ、痙攣も起こりながらも何とか立ち上がる。
(一矢報いる事もままならねぇ……!一瞬の隙だってねぇ……どうする……?)
呑気にスマホなんて取り出し用物なら秒で破壊されかねない殺気と圧が哀憐からは放たれていた。
「あなたの攻撃には迷いがある。どこか労りすら感じる。私の見た目が女性だからかしら」
「……てめぇなんか労わってねぇ!!」
「口ではそう言っても伝わってきてるわ。差し詰め女は殴っちゃダメなんて口酸っぱく言われてきたんでしょ」
「……っ!」
女は殴っちゃならない。幼少期からこれでもかと言われ続け身体に染み渡った男として当然の価値観。
目の前の敵は人型の女性的見た目をしているがそれは見てくれのみ。目の前の敵は女性としてカテゴライズしていい相手ではないと理解はしている。
だが目の前に視覚情報として入ってくる。どこからどう見ても人間の女性にしか見えない哀憐の姿が達樹の拳に葛藤を招いていた。
「今あなたが生きていられるのは私の気まぐれでしかない。ほら。次はどうするの?言っとくけどさっきみたいにただ殴りかかるだけなら無駄よ」
先ほどの達樹の攻撃もヒットはするものの少しも手応えを感じなかった。
汚穢の時とは異なり引きちぎって済む相手でもない。何より達樹自身に戸惑いがあるため破壊力も欠けてしまう。
(とは言っても他にできる事なんかねぇしな……)
『やっぱり光也さん達見たいに剣でズバッと行くしかないですよ!』
「そうしたいとこだけど……」
――――――――
2023年 5月28日 Delight内 食堂
恋による特訓もひと段落つき、昼食後軽い座学が行なわれていた。
「じゃあ俺達も火とか雷とかだせんの!?」
「奏者の力は想像の力。妄想と言い換えてもいい。よくあるアニメや漫画とかの異能力、超能力を参考にしてイメージが掻き立てられ、そのイメージを元に力として顕現させる」
「剣とか炎なんかはイメージがしやすいよね。こういう定番の能力は誰にだってその気になれば出来る。で、ここからが重要!」
恋はそれっぽくメモを取るように三人へ言い放つ。
だが教師っぽい事を言いたかっただけなので誰もメモは取らずに話は進む。
「俺たちの思い描くイメージとアイドル因子が持つ彼女達自身の能力が噛み合う事で初めて力として使役できる。俺達でどれだけイメージしても彼女達の持っている力がそのイメージとかけ離れていたら意味ないって事。前に言った向き不向きって言うのはこう言う事だよ」
「なるほど……」
――――――――――
(つまり軽い火や剣くらいなら俺でも出せるってわけだ……)
だが達樹の場合アイドルの名前すら把握していない。故に自身に宿るアイドル因子の特性がわからなかった。
その上で恋からも今は物理攻撃へ特化する事が最も理にかなっていると言われている。
(通用しないのは仕方ないと割り切ろう。隙を作るくらいなら出来るかもしれねぇ……!)
達樹は強靭かつ殺傷能力の高い鋭い刃を持つ刀をイメージする。その武器を難なく扱う自分。敵を仕留めるイメージを練り込み達樹の手元には剣が顕現された。
だがその剣は実に質素な物だった。
(ってしょぼ!!……ここまで再現出来ないもんか!?)
定番の特殊能力はイメージしやすく顕現させる事は容易い。それは普段から目にする機会が多く、脳に男のロマンとして刷り込まれているからである。
剣も同様であり達樹は剣の顕現にこそ成功したが、達樹自身がアイドル因子の理解に及んでいない事が災しその剣はいとも容易く折られかねないチープな代物となってしまった。
(でもやるしかねぇ!!)
初めて手にする剣に怯まず果敢に哀憐へ挑んでいく。だがその粗雑な出来栄えの当然その刃は最も容易く片手でへし折られてしまう。
「やはり退屈よ。輝世達樹」
禍々しく輝く光の粒子が哀憐の左手を包み込み刃を形成する。
達樹は即座に両手に想力を込めて防御するがその破壊力の前になすすべなく吹き飛ばされる。
「殴る蹴るしかまともに出来ないようね。論外だわ。迅速に殺すとしましょう」
殺意を込めた冷酷な眼差し刃を達樹へ向ける。
達樹も臆する事なく言い放つ。
「お前らの目的は何なんだ……何だってこんな事すんだよ!!」
「食欲を満たすためよ」
「……は?」
拍子抜けの発言に達樹はつい脱力してしまう。
「どうせ何か食べるなら好きな物を食べたい。あなただってそうでしょ?」
「最近は本当凄くてね。何もしなくてもアイドル共は勝手に無様に弄ばれて自分の愚かさに気づきもせず傷付いて必要以上に絶望して被害者ぶって勝手にバカみたいに壊れていく。
そんなどうしようもないアイドルが近年大勢いるの。それだけで負の感情は湧いて出てきて私たちの空腹は満たしてくれる」
「でもそれは人間に例えるなら延々と味付けも何もされてない無味無臭の白米だけ提供され続けてるようなもの。飢える事はなくても飽きは来てしまう。
だからたまには自分好みの物を食べたいって時にこうやって自給自足してる……実に謙虚だと思わない?」
「謙虚だろうがなんだろうが人が死んでんだよ……」
「浅はかな発言ね。人間だって他の命を奪った上で私利私欲の為に殺している。私達もそれと同じ」
「論破した気になってんじゃねぇぞ……」
達樹の両拳に再度闘志が込められた想力が宿される。
視線の先にハッキリと哀憐を捉える。
「お前らのやってる事は許せねぇ。だからぶちのめす。お前らと戦う理由なんてそれだけでいいんだよ」
「ここまでやられて尚やる気があるのは褒めてあげるけど……もうあなたには興味がないの……だから」
達樹が瞬きをしたその刹那。哀憐の姿は消滅。
次に気がついた時。目前にあるのは殺意が込められ極限まで研ぎ澄まされた光の刃。
「ここで無様に死になさい!!」
真横に身体を真っ二つにせんばかりのスピードと力で刃が振られる。
(!?……いない……!)
そして突如背後に現れた人影。その人影は達樹を乱雑に片手で手提げバッグを持つかのように達樹のベルトを掴み堂々と佇んでいた。
「最高にかっこいいタイミングだったでしょ」
「れ、恋さん!!」
茶髪のセミロングの髪を靡かせ颯爽と現れたのは最愛恋。
片手で持ち上げていた達樹を地面に降ろす。
「こいつは俺が引き受ける。達樹はそこのオタク君と一緒に笹倉静葉を追ってくれ」
「追っかけてどうすりゃいいんだ!?」
「哀憐は対象となる人間に口付けをする事でその外観を奪う。解除方法は二つ。
シンプルに憎愚本体を倒すか元の人間の事を把握しこよなく愛する人間と口付けを交わす事」
卓夫も一緒にという言葉に合点がいく達樹。
善は急げと達樹はこの場を恋へ任せて卓夫を連れて戦線を離脱する。
「お久しぶり最愛恋……あなた相手なら、興醒めなんて事にはならなそうね」
「その辺はご心配なく」
哀憐の視界から恋が消える。
次の瞬間。
「ううっ゙!?」
ドゴォォォ!!!
明確な殺意。そして右手に燃え盛るのは蒼炎。恋の右ストレートが哀憐の顔面を捉え豪大な衝撃と共に遙か遠方へと殴り飛ばされる。
「お気に召していただけたか?」
「えぇ……でもまだ物足りないわ……もっと感じさせてちょうだい……!」
ーーーーーーーーーー
【ちょっとした補足的なあとがき】
達樹「やっぱり定番の炎とかはイメージしやすい云々のくだりがよくわかんねーよ!!」
恋「メラはみんな使えるけどメ◯ゾーマを使える奴は限られてくるって事」
達樹「わかりやすい!!」
ーーーー to be continued ーーーー
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