第22話「卓夫の受難 度重なるスキャンダル」

「たつきどのおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


「いぃっ!?」


 無事遅刻せず1限目の授業に間に合った達樹達はいつもの教室の扉を開けた。

 すると瞬く間に迫り来るのは見慣れた顔の汗ばむ巨体男性の唇であった。

 咄嗟の判断力により身の危険を感じた達樹はそのまま熱い抱擁を交わそうとする巨体男性の顔面を蹴り飛ばす。


「ハプルボッカ!!?」


 謎の奇声を発して男は蹴り飛ばされる。一瞬倒れ込むも即座に立ち上がり再度達樹の前に走り寄るその男は達樹の友人である寺田卓夫であった。


「わりぃ卓夫……いきなりすぎたからつい……」


「構わぬ。この痛みが拙者を強くする……故に悲しくはござらん。これも武士の定め故……」


 (何言ってんだこいつ……)と強烈なキャラの濃さを漂わせる卓夫にドン引きする光也の視線は冷たくも鋭く卓夫に突き刺さる。

 そんな視線に気がついた卓夫は視点を光也へ向けるや否や……


「や……や……ヤンキイイイィぃぃぃぃ!!!」


 卓夫の驚嘆の叫びが教室中にこだまする。


「あぁこいつは俺の友達で光y

 と説明する達樹を瞬く間に遮り卓夫は発言し続ける。


「この目つきは!!ヤンキー!!不良!!人を何人か殺しているであろう冷徹な目つきをしていらっしゃりまする!!我が校の秩序が狂わされてしまうぅぅぅ!!」


「……一発くらいは殴っていいよな」


 光也の額には確実に怒りマークが浮かび上がっており指をポキポキ鳴らしながらその目つきは更に鋭い物となっている。

 ことでヒートアップする両者であったがその熱は一人の少女の介入により鎮火される。


「いい加減にしろっ」


 金髪ショートギャル。同クラスの沢本亜弥沙の手刀が卓夫の脳天にちょんと突き刺さる。

 隣には失笑しながらも優しく微笑む桂木莉乃がいた。

 冷静さを取り戻した卓夫は自分の無礼を謝罪し和解した。


「てか達樹久しぶりじゃん。大丈夫だった?……なんで包帯巻いてんの?」


「そりゃあまぁ……色々……あるんだよ男には」


「みんな心配してたんだよっルイン送っても全然返信ないし」


 光也の一件の間スマホを弄る暇が全くと言っていいほどなかったため莉乃からの連絡に全く気が付かなかった。まる5日返信をしていなかったため滅多に追いルインはしない莉乃からもかなりの数のメッセージが届いていた。


「ごめんごめん。余りにもしんどすぎてさ」


「長い付き合いなのはわかるけどさぁ。ぞんざいに扱っちゃダメだよ。莉乃を泣かせるような事したらその股の玉引っこ抜いてやるから」


 ナニを握り潰すジェスチャーの動きと共に強張らせた表情で亜耶沙が告げる。

 こいつならやりかねんと達樹の表情はやや曇る。

 

「き、気をつけます」


 久しぶりのクラスメイト達との交流に懐かしくも心躍る。

 なんやかんやでちょっとしたGWくらいの期間は休んでいたため久しぶりのクラスメイトとの再開は疲弊した達樹の心身を癒した。


 ――――――――――

同日 東京某所 廃墟


 小汚く薄暗い廃墟の中に今日も上級憎愚達が集っている。

 先日の隼人と負薄の戦闘は結論から言うに負薄の勝利となった。負薄の芯まで攻撃が届く事はなかったが負薄を満足させるには至った事で退却させることに成功した。

 後遺症もない負薄は今日もピンピンしており自分が憎愚化が進行し熟成された雌アイドルを惨殺し足をこんがり焼き上げ手羽先のように肉と骨とを引きちぎり頬張っている。

 そんな負薄の捕食する姿を見て悲哀が重い腰を上げる。


「小腹が空いたな……」


「おっ!だらけ気味だった悲哀も遂に動いちゃう!?」


 想定外の出来事に喜びを隠しきれない負薄。人骨をそこらに投げ捨てて悲哀へと期待の眼差しを向けながら歩み寄る。


「やっぱやめたぁ」


「いややめるんかぁぁぁい!」

 

 派手にズッコケながら負薄は悲哀へツッコミをかます。


「数日前から哀憐が動いてる。アイドルって尊い物なんだと痛感したら働くわ」


「絶対あり得ないじゃんそんなの!もぉ〜〜太っても僕知らないよ!」


 ――――――――――

同日 三久須高校 昼職時 13時03分


「と言うわけでぇ!!アイドル界を統べる拙者によるぅぅ!!最近イケイケな激推しアイドルレクチャータイムぅぅ!!」


 卓夫は持参したワイパッドを広げて自分で作成したであろうありとあらゆるアイドルに関しての写真、情報を羅列した画面を達樹達に見せつける。

 だが誰一人画面へは目もくれず昼食にありついている。


「ちょっとおぉぉぉ!!拙者の話を聞いておくんなまし三人共おぉぉぉ!!というかこの金髪イケメソ様はどなた!?」


「いいじゃん別に。気にしないで」


「気にするだろ」


「せっかく達樹殿があのアイドル業界には欠かせない大企業!Delightでバイトを始めたと言うからアイドルに関しての膨大な資料を3限目までの授業中にひっそりとまとめあげたと言うのに興味無し!!てかあそこバイトとか募集してたのでござるか!?拙者聞いてござらんよ!?裏山壁山桃山学院!?」


 卓夫からしたら憧れでしかない職場であるDelight。そこで友人が働いているという嫉妬心からまたしても暴走し始めかねない卓夫をまぁまぁと達樹はなだめこむ。


「まぁ……アイドルの事は勉強しとくよ。他なんか面白い話ねぇか?」


 嘘をつく時特有の目線が泳ぎがちになりつつもなんとか話題を変えようとする。


「わかったでござる。でしたら丁度少し前にデビューした陰ながら人気沸騰中の地下アイドルグループ『キミラブホスピタル』について話をさせていただきたいで候!」


そう言ってワイパッドを三人に見せつける。


「人の話聞いてた?」


「チュイッターのフォロワーも順調に増えており次世代のアイドル業界を担う存在になってくれること間違いなし!

 中でも拙者の推しの笹倉静葉ささくらしずはちゃんは正統派&清楚な神秘的きゃわいさがあり拙者毎日のように癒されておりゅってあああああああぁぁぁぁぁ!!!」


「長ぇしうるせぇ!」


「どうした!?」


 怒る光也と只事ではない様子を察する達樹。

 慌ただしくもスマホに映るチュイッターの文面を凝視しながら卓夫は続ける。


「静葉ちゃんが強制解雇されておるのですぞぉぉ!!こんな前触れもなく!?真面目で不祥事を起こすような子では決してないのに……」


 昨今アイドルの不祥事。ファンとの繋がりや異性のアイドルとの交際発覚などは後を経たない。

 Delightの調べによると1日およそ10人のアイドルが不祥事を起こし解散及び解雇となっている。

 特に地下アイドルともなれば土台がしっかりしておりスキャンダルから徹底的に守られている地上アイドルと比べ後ろ盾が弱い地下アイドル事務所は管体制が脆くその不祥事が周知される確率は格段に増加する。

 令和に突入後その数は一気に増加傾向にあり今回もまた卓夫を絶望の淵へと陥れる事になってしまった。


「達樹殿……静葉ちゃんは絶対に不祥事を起こすような子ではござらん……清純でひたむきな子がこんな……何か悪どい陰謀に巻き込まれてるに違いないでござる!静葉ちゃんを助けてくだされえぇぇぇ!!」


「そんな事言われてもな……」


 ゴゴゴゴッ!!


 (この気配は……憎愚だ!!)


 災いは突如としてやってくる。近隣で憎愚の気配を感知した。


「わりぃ!またその話は後で聞く!!」


 三人は教室を飛び出し人気のいない屋上まで移動して幻身する。

 そのまま空を駆けて憎愚の気配を感知した場所へと急いで向かう。

 辿り着いた場所は何の変哲もない市街地の通り。

 だが見渡す限り異形の存在は見当たらない。


「何もいねぇじゃねぇか。他の奏者が倒しちまったのか?」


「かもな……いや待て、あそこに誰かいる」


 隼人の視線の先を見るとそこには激しく抱擁し合う男女の姿が。


「んだよただの痛々しいカップルじゃねぇか」


「光也待て……よく見ろ。女の方……」


 達樹は二人へ凝視するよう仕向ける。

 激しく抱き合う男女。男性は見た所20代後半。髪もボサボサ肌もガサガサで顔立ちもファッションセンスもとても良いとは言えない。

 一方女性の方は容姿端麗の清楚系ストレートヘアを靡かせる美女。その美女には三人とも見覚えがあった。


「笹倉静葉……!?」


 先ほど卓夫から聞いた清純でひたむきと言った言葉には似つかない行動をする彼女の前に動揺を隠せない。


「し……静葉たん……ま、まずいよ。僕たちはファンとアイドルの関係……なのにこんな白昼堂々……」


「いいの別に。私ずっと前からたかし君とこうしてぎゅって愛しあいたかったから……」


 人気がないからと言ってひたすら濃厚に絡み合う二人。


「たかし君……私もう我慢できない……ちゅうしたいの。だから……目瞑ってくれる?」


「し……静葉たん…………!」


 男性は静かに瞳を閉じる。徐々に二人の唇の距離は近づいていく。


 (……ったく卓夫になんて説明すりゃいいんだ)


 目の前の現実に達樹が懸念していた次の瞬間。


スパッ


「…………えっ?」


ブシャァアアアァァァァァ!!


 瞬間。喉から手が出るほど渇望した幸せをようやく得る事が出来ると。念願の愛しきアイドルの手を我が物に出来る。

 これまでの人生がようやく報われる時が来たと思い込んだ男の頭部と大量の血液が宙を舞う。

 静葉らしき女性の唇は瞬く間に鋭利な棘状の形へ変貌。一瞬にして男の首を刎ね飛ばした。


「……ァハァ……♡」


 あたりに大量の血飛沫が飛び散る。一面は男の血で真っ赤に染め上げられ女へと降りかかる。

 それでも一歳動じる事なく女は返り血を浴びつつも愉悦の笑みを浮かべ大胆不敵に笑う。


「あいつ……やりやがった!あいつが憎愚だ!!」


 光也は葬刀を構え身構える。隼人、達樹も120%人間ではないと断定し戦闘態勢へ入る。


 (これが明日加ちゃんが言ってた……見た目がまんま女の憎愚……!?にしてもいきなりすぎんだろ!!)


 女の上体がぐきりと人間ではあり得ない程の角度で反らされた。そのまま女の狂気の笑みと眼差しが達樹らへと向けられる。

 両手両足の指が5mほどの棘状へと形を変えたその矛先は達樹らへ向けられる。


「ケヒャヒャァァああァァ!!!」


「構えろお前ら!!来るぞ!!」


 ――――to be continued――――

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