第21話「待ち人はギャル!?登校前の特訓!」
2023年 5月29日 7:00分
恋との実戦演習の翌日。施設内のベットルームで三人仲良く就寝した三人であったが一人早起きしグラウンドへ向かう人影があった。
その人影は達樹であり、登校前の僅かな時間だけでもしごいて欲しいと恋へ再度特訓を申し出ていた。
「俺だけみんなに置いてかれてる……早くアイドルの力を引き出せるようにならないと……!」
先日の達樹の中に宿るアイドル。名前がわからないためサイテ(仮称)を泣かせてしまった事や光也、隼人のアイドルと心を通わせ力を引き出している様を見て達樹は焦りを感じていた。急いで約束のグラウンドへと走って向かう。
(うっかり忘れてたけど俺バリバリ平日は学校あるんだったな……)
Delightは奏者育成期間であり学校ではない。芸能事務所が運営する養成所に近い形式である。
光也騒動の間の数日間達樹は体調不良で休んでいる事になったいた。
眠い目を擦りながら先日同様Delight内のグラウンドへ辿り着く。
だがそこにいたのは一人の制服姿の女の子。歳は恋とさほど変わらないように見える。
明るめの茶髪二つ結びのツインコロネヘアをくるくる指でいじりながら佇むその少女のスカート丈はかなり際どい。
(女の子……!?初めて見たな……こんな朝っぱらからなにしてんだ?)
Delightの敷地内に女性がいる事に達樹は驚きを隠せない。以前Delightの見学中に達樹は一つの疑問を恋へ投げかけていた。
――――――――――
「なんかさぁ。さっきから男しかいなくねぇか」
「Delightの建前はアイドル業界のバックアップ機関だけどメインは奏者育成機関だからね。そりゃそうもなるよ」
「どゆこと?」
「アイドル因子の力は男性にしか発現しない。この数十年間誰一人として前例がない以上断言していいと思う」
――――――――――
故に男性比率が9割超を占めるこのDelightの敷地内において女性がいる事は稀だ。別部署なら話は別であるが達樹にとって眠気を覚まさせるには十分すぎるほどの刺激となった。
(かわいい……声かけてみるか?……っていやいや!俺は修行しに来たんだ!女口説きに来たわけじゃねぇ……!)
唐突のイベント発生に何を優先すべきかと思考を巡らせる。
その結果あからさまに挙動不審になってしまっていた達樹は周りを一歳見れなくなってしまっていた。
目の前まで迫ってきていた少女に全く気が付かない。
「輝世達樹君だよね?」
「えっ!?あっ!はいっ!!ってえぇっ!?」
(俺の事を知っていらっしゃる!?)
可憐で優しい口ぶりで明らかに驚きすぎない達樹に「驚きすぎでしょ」と微笑みながら笑顔で続ける。
「えっと……お会いした事あったら申し訳ないんですけど……必死に思い出してもやっぱり心当たりなくって、どなた様でいらっしゃいますでしょうか?」
「あははっ何その敬語。まぁ知らなくて当然。恋から色々聞いてるよ。最近頑張ってるルーキー君だって」
恋さんの知り合いかよ!!と心の中で激しくツッコミを入れて一方で何かアオハル的なものが砕け散った気がしながらも平静を保ちながら会話を続ける。
「私は恋の中に宿ってる『
「……ちょっと待て!って事は明日香ちゃんと戦わなきゃいけねぇの!?」
目の前にいるのは最愛恋が内に秘めるアイドル因子の少女そのものを現世に顕現させた姿。つまり東城明日香そのものである。
先日の光也が不本意ながらも瑠璃華へ肉体の主導権を握られ姿が成り代わっていた状態を奏者本人がお互いの承諾を得た上で意図的に明け渡している状態である。
この状態を『完全顕現』という。
こんなイマドキギャルとやり合うなんて聞いてねぇぞと憤りを見せる。眠いからってパスするくらいなら最初から引き受けんなと。
「だいたい考えてる事はわかるよ。私みたいな可憐でキュートな女の子相手じゃ本気で戦えないって思ってるでしょ。だったら尚更私とは今戦うべきだよ」
「ど、どういう事?」
「これから先憎愚が異形の化物だけとは限らない。人型の憎愚だっているし、人と見た目がなんら変わらないまんま女の子の憎愚だっていたよ」
達樹は数日前の前田けいの件を思い出す。あの時は友達も自分も殺されかねない状況だった。
その上で相手が繰り出す拳にこちらも渾身の力を込めて拳を繰り出した。あくまで死なない為の対抗するためだけの力。傷つける意思のない力だった。
その直後恋が駆けつけてくれたおかげでその場は凌ぐ事ができた。
「今の達樹君は本気で倒さないと行けない
答えはNOだった。少なくとも敵を見てくれで判断してはいる自覚はある。女は殴っちゃいけないなんて倫理観は親から嫌というほど言われてきた事であり、達樹が憧れとする人間も誰一人としてそんな事はしない。
それ故に断言できた。見た目が純粋たる女の見た目をした敵が本気の殺意を持って自分に向かってきた時間違いなく殺されると。
「容赦なく殴れ殺せって言うわけじゃなくて、立ち向かう意思がないと何も出来ずに無惨に殺されちゃうよって話。だから私と実戦さながらの戦いを通して対女性だった時に備えての心構えを身に付ける。これなら本気で戦えるんじゃない?」
至極真っ当な意見に達樹もただ受け入れるしかなかった。
「怪我しても怒んないでくれよ……!」
戦意を宿して達樹は幻身する。頭にはサイドテールが宿り、両拳には想力が秘められる。
「それは絶対あり得ないから遠慮なく来ちゃってくれて大丈夫だよ」
そう笑顔で恋さながらの煽りを入れてくる。
達樹はデジャブを感じつつも拳に込めた力を緩めはしない。
明日香も戦闘態勢を取り身構える。その拳には達樹同様の想力を込められた炎が宿る。
「私に一撃でも入れられたら食堂の好きなご飯奢ってあげる」
「そいつぁ楽しみだぜ!!」
達樹と明日香による実戦演習が始まる。
それから30分後…………
――――――――――
一足遅く目覚めた光也が達樹がいない事に気づきグラウンドまで立ち寄る。
すると目の当たりにしたのはボロボロになりながら地面に突っ伏す達樹と傷一つついていない明日香の姿だった。
「まぁがんばったで賞としてポテトくらいは奢ってあげよう」
「あ……ありがとうございます…………」
「…………なんであいつJKにボコボコにされてんだ」
『マゾなんでしょ』
光也と瑠璃華の冷たい視線が突き刺さる中、達樹は女の外観をした敵に対しても対抗する心構えを習得した。
まだ完全ではないがこれらは実戦と共に昇華され身に付いていく事だろう。
隼人も合流し達樹は光也達と共に朝食を済ませた後、更衣室にて久々に三久須高校の制服へと着替える。
「俺体調不良で休んでたのにこんな怪我してたらさ。何があったんだよってならねぇ?」
「お前が朝っぱらからJKにボコられるからだろ」
「女相手だと思ってなかったんだよ!それに明日香ちゃんめっちゃつえーぞ!!下手したら恋さんよりつえぇ!」
「まぁそれは後々詳しく聞かせてくれよ。出勤初日から俺も遅刻したくないからな」
ネクタイを絞めながら隼人は言う。
光也も達樹同様、三久須高校の制服を着用、隼人はスーツ姿に着替え三人はDelightを後にする。
時間もないため三人は幻身して空を駆け目的地を目指す。
「なんていうか三人一緒に学校行けるなんて思ってなかった!正直いうと嬉しい!」
「まぁ中卒って言うのも流石にアレだしな」
光也は高校を中退していた。
唯一の一人親である母親も入院してしまっており一定の収入が必要だった市導家。
やりたい事も見つからず、フリーターを続けていたが奏者としてある程度の収入を得られる事を知りその必要はなくなり達樹の通う高校へ転入する事になった。
隼人は20歳であるため三久須高校へは非常勤講師として働く事に形に落ち着いた。
こうして三人のスクールライフが幕を開けるのであった。
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