第8話「神が堕ちたそれ故に」
3行でわかる!これまでの偶像慈変!
普通の男子高校生な主人公。輝世達樹はアイドル因子という特殊な力を覚醒させ、世に蔓延る化物。
…………………………
2023年 5月25日 東京某所
昨晩の憎愚襲撃から一晩が立ち、俺は最愛恋って人に連れられて馬鹿でかい施設の真ん前にいた。
デザイナーオフィスってやつなのか。勿論こんなオシャレなところに入った事なんかないのでちょっぴり緊張する。
「恋さんおつかれさんです!!」
「あいよーー」
通り過ぎる奴らが次々恋ってやつにお辞儀し通り過ぎていく。まるで芸能界の大御所みたいな扱いを受けている。こいつそんなに凄いやつなのか……と思いきや。
「恋さんが言ってたラーメン行って来ましたよ!濃厚こってりがもう最高でした!!」
「だろ~~??絶対気にいると思ったんだよな」
気さくに絡んでる後輩らしき奴らも結構いたりする。ある程度の人望はあるらしい。
「あんたって結構偉い人なの?」
「おっと、これからは上司と後輩の関係になるんだからあんた呼びは感心しないな。恋さんと呼びなさい」
「……恋さんは結構偉い人なんですか?」
「まぁ上から数えたほうが早いくらいには偉いかな」
それから施設を一通り見て回った。社員食堂やトレーニングルーム、ネットカフェさながらのリフレッシュルーム、憎愚関連専門の医療施設といった感じで一通り思い浮かぶ物は設備されてるようだ。
ここ株式会社
一般人には秘匿にされており、表向きには『アイドル業界の更なる躍進』を謳い、アイドル事業の全面的なバックアップをしている企業という事になっている。広報から営業までアイドル事業で働く者達へのマネジメント教育、イベント発案など挙げてきったらキリがないくらい各アイドル事務所やら関係者との繋がりがある。
そうする事で憎愚の早期発見、発生の兆しなどの迅速な観測、予測に繋がるらしい。
金銭面に関してはこういう経路で発生しているってわけだ。
「着いたぞ」
そうこうしてる間に最後は社長室に着いた。なぜか俺を名指しでお呼び出しくらっているようで変に緊張する。
「怒られたりするのかな……」
「それはないと思うよ。失礼します」
恐る恐る社長室へ入室する。部屋の中にいたのは温厚そうな黒髪スーツのダンディなおじ様が俺たちを待っていた。
「私は
このおじ様は俺を知ったような口ぶりだ。だが案の定俺はこんなおじ様の事はご存知じゃあない。怪しむ俺の心理が伝わったのかおじ様は笑顔で続ける。
「あはは、ごめんね、怖がらせてしまったかな。君は僕の事を知らなくても私は君の事をよく知っているんだ」
「どういう事ですか?」
「君の事はよく凌牙から聞いていた」
「!!」
発せられたのはよく聞き慣れた名前。そして最近聞く事も呼ぶ事も少なくなってきた名前。突如として10年前に行方不明になった親父の名だった。
「父ちゃんの事知ってんのか!?」
「?……恋から何も聞いていないのかい?」
即座に恋の顔を見ると唖然とした顔をしていた。
「きせってまぁ割とある名前じゃないすか……はは。そっか凌牙さんの息子なのか……」
恋さんからおちゃらけた雰囲気が消え、少し表情が沈んだように見える。上から数えた方が早いくらい偉い恋さんがさん付けで呼んでいる。父ちゃんのここでの立場をなんとなく理解した。
「彼……凌牙は私の右腕であり、友であり、良き理解者だった。そして何よりこの世で初めてアイドル因子を覚醒させた人間でもあった」
「なんだと……」
んだよサラリーマンなんてやっぱ嘘じゃねぇか。あんな強面と内面でどうやって一般社会で生きてるのか疑問だったが謎が解けた。そういや言われてみればよく怪我して帰ってきてた気がする。
「少し歴史の話をしようか」
「今から20年前の2003年。原因不明の連続失踪事件が相次ぐようになっていた。原因は察しの通り憎愚によるものだ。奴らは何の前触れもなく突然現れ、人々を喰らい続けていた。勿論人類は憎愚に抗う手段を持ち得ていない。認識する事も抗う事もできないまま捕食される事しかできなかった」
「そんな中で一人。憎愚に争う人間の存在が現れた。それが君の父親である輝世凌牙だった」
「彼との出会いは私が憎愚に襲われそうになった時。絶体絶命の窮地に彼は駆けつけ私を救ってくれた。それから私と凌牙は協力し合い憎愚を打倒すべく力の源を探り、憎愚とは何なのかを研究し、憎愚に対抗する組織を形成していった。そして今に至る」
20年前に憎愚が湧き始め、初めてのアイドル因子の覚醒者が父ちゃんだった。今の話の要点をまとめるとこうだ。
今の話を理解した上で俺にはどうしても聞きたい事がある。
「ここに……父ちゃんがいるのか?」
ほんの少しの沈黙が続いた。次に発せられた言葉は俺のほんの少しの期待をへし折るものだった。
「いない」
「なっ……」
俯きながら下國さんは言う。じゃあ……と続けようとしたが引っ込めた。一つの可能性が頭をよぎった。最悪の可能性だ。
「10年前。我々と憎愚との間で大規模の戦争が起こった。凌牙も勿論参加していたよ。そこの彼もね」
何かを悔やんでいるような険しい表情を浮かべながら恋さんが語り始める。
「俺達と憎愚との全てを賭けた総力戦だった。この戦いで憎愚との因縁にケリをつける。俺たちはそう決意し凌牙さんと共に戦った。だが形勢は圧倒的にこちらが不利だった」
「力の差は五分五分。決定的に違かったのは戦力差、憎愚の数は俺達の約100倍の数だった。俺達の想像より遥かに憎愚は産み出されていた」
「その膨大な数の憎愚を凌牙さんは俺達を守る為に、最後の力を振り絞って一人で立ち向かい、憎愚達を殲滅した。大きな爆発の後駆け寄ったがそこに凌牙さんの姿はなかった」
俺は呆然とするしかなかった。要するにそれは
「くそっ……!!!」
父親の行方を気にかけていなかったといえば嘘になる。今までここ10年間連絡も何もなかったから俺の日常から父ちゃんの存在は薄れていきつつあった。そうでもしないと元気に自由に生きていくことが出来そうになかったからだ。
でもよ。行方がわからないと言ってもよ。本当に死んでるなんて思わねぇじゃんかよ。なぁ父ちゃん。
「勧誘しておいて申し訳ないけど今ここで辞退してもらっても構わない。君にはその権利がある。これから先、過酷な戦いになる事は間違いない。凌牙さんの息子を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「僕もそう言いたいところだけど達樹君自身に決めてもらいたい。今まで通り平穏な日常に戻るか私達と共に憎愚と戦ってくれるか」
「……んなもん決まってる」
――――――――――
『父ちゃんも母ちゃんもな。達樹には元気でいて欲しいし怪我なんかしてほしくない。でも何より、お前は自由に、やりたい事を全力でやり切って欲しい』
『お前の知らない色んな世界は父ちゃん達がいっぱい見せてやる。その中でお前の大事な物を何か一つでも見つけろ。その大事な物がお前が体張ってでもやらなきゃいけない事だってんなら俺は止めねぇよ』
――――――――――
父ちゃんは真っ直ぐ曲がったことが大嫌いだった。人を陥れようとする奴や陰湿な奴を何より嫌っていてこうはならないようにと口うるさく言われ続けてきた。
きっと父ちゃんのやりたい事が憎愚と戦う事だったんだ。でも夢半ばで終わっちまったんだろ?なら俺のやる事は一つだ。
「俺が父ちゃんの意思を継ぐ。もっともっと強くなって憎愚を全部ぶっ倒す。そんでもって父ちゃんにも負けねぇくらい強くなる。それが俺のやりたい事でもあるから」
(曇りない眼で真っ直ぐ訴えかけてくる……私と君が初めて会ったあの時と同じだな。凌牙……)
「わかりました。私たちも君の活動を全力でバックアップさせてもらおう」
「俺達がお前を絶対死なせない」
恋さんもまた俺の目を見つめて力強くそう言ってくれた。
ひと段落して話は戻る。先ほどの話の続きが始まった。
「10年前は空前のアイドルブームが到来していたからね。憎愚が比にならないくらい湧いて出ていた」
「?……アイドルブームと憎愚が増えるのに何の関係があるんだよ」
なんでここでアイドルが出てくるのか理解出来なかった。アイドルブームが到来していたからなんだってんだ?下國さんへ聞く。
「重要な事だから覚えておいてほしい。憎愚はアイドルに関係した者からしか産まれない」
「??……人の負の感情が化け物になった物が憎愚なんじゃないのか」
「50点ってところかな。確かに人間の負の感情から憎愚は生まれるよ。でもその発生源は主に二つ。アイドルからかファンからか、そこらにいる人間を介していない雑魚でも必ずどちらかからの負の感情により形成されている」
学校でのいじめや痴漢冤罪、交通事故、盗難、テロ、殺人、ストーカー。人の負の感情が湧き出しそうなものなんて山ほどある。
だがそれだけじゃ憎愚は産まれない。それらの要素が『アイドル』という存在を経由することで初めて憎愚は産まれると下國は言う。
「わからねぇな。負の感情とアイドルになんの関係があるんだよ」
「偶像という言葉を知っているかな?」
「知りません」
わからない事はきっぱりわからないという。数多のバイト先で学んだ事だ。
「アイドルを日本語で訳すと偶像になる。偶像とは神や仏のように崇拝の対象となっているものを指す」
「偶像を信仰の対象として重んじ尊ぶこと、あるものを絶対的な権威として無批判に尊ぶこと。これを『偶像崇拝』と言う。これらは宗教的な意味合いだが現代のアイドル文化にもほぼ当てはまる」
「偶像がアイドルで崇拝がファンってこと?」
「そう。アイドルはいわば偶像崇拝の文化に則り、定義すると神に等しい存在と言える」
話のスケールが想像してたよりでかくなってきたな。いよいよ神様まで干渉してきちまいやがった。後話が底辺校に通う身からしたら聞き慣れない単語ばかり出てきて付いていくのがギリギリだ。
「神様は尊ぶべき存在であり、そこに一滴の曇りもあってはならない。何故なら神様だから。絶対的存在であり続けなければいけない。神様は全てに平等であり、決して崇拝者を裏切ってはならない。その関係性を維持し続ける事が神であり続ける絶対条件」
俺の頭上に?マークが浮かんでいる事を察知してくれたようで下國さんがこほんと先払いしまとめに入ってくれた。
「わかりやすい話。アイドルの不祥事、スキャンダル、彼氏、彼女バレといった行為はアイドル=神という概念への冒涜、裏切りを意味する」
「偶像崇拝という神と人間との絶対的関係性に亀裂が生じる。絶対にブレてはいけなかった関係性が崇拝者の負の感情により呑まれて行く。崇拝者から尊ぶ事をされなくなった
「うーん……だいたいは!」
「元気が良くてよろしい!君の現状の課題は力の使い方をマスターし、君の内に眠るアイドル因子の特性を知る事。そうする事で君の力はより強力な物になる。そして迅速な成長には実践が必要不可欠!というわけで『奏者』としての記念すべき初任務を授けよう!」
「奏者?」
「俺達の名称の事だ。忍者とか死神みたいなもんだよ」
「おっけ理解!!」
ビシッとサムズアップを決める。徐々に心の底から闘志が湧き上がってくるのを感じる。
「君と同じくアイドル因子の覚醒者が近辺で現れたと情報が入った。その子に事情を説明し、願わくば仲間に引き入れて欲しい。名前は
「おおっ同い年っ!?」
要は勧誘してこいって話だ。同い年の仲間が増えるって事だろ?ろくに知り合いもいない環境なわけだから同期って存在ができるのは何より心強いってもんだぜ。
「ただ一つお願いがあってね。申し訳ないんだけどこの会話が終わったらすぐに向かって欲しいんだ」
「そ、そんな急ぎなのかよ」
「彼から観測したデータによるとアイドル因子の波状がかなり乱れていた。シンクロ率が低いと言い換えてもいい。最悪の場合、市導光也の自我がなくなり、彼が彼でなくなってしまう」
「なにっ!?」
………………………… to be continued……………………
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