第4話「世界の異変」
さっきの前田けいとの一件の後。卓夫とけいちゃんは到着した救急車と共に病院に搬送された。
俺はというと俺をアイドルにスカウトしてきた頭がおかしい男と共に男が呼んだであろう黒服が運転してきた車に乗り込み夜道をドライブしていた。
「
「へ?」
「俺の名前だよ。お前は?」
「輝世達樹」
「おっけ、じゃあ質問いいよ。なーんでも」
聞きたい事は山ほどあるが最も気になる事はさっきの化け物の事だ。まずあの化け物のことを聞くことにする。
人の原型を微かに残してはいたがあれを人と呼ぶには相応しく無い。対峙して思った圧倒的異形感。
今まで生きてきて感じた事のない本気の殺意を感じた。
「さっきのあれは何なんだ……?」
「あれは
今回のは内在型だったから断片的に憎愚化していたパターン。初期の段階だったからそこまで強くはなかった。
普通なら俺が到着するまでに二人とも殺されてたよ。運が良かったね」
「……あんなもん今まで見たことないぞ。ニュースとかでだって」
「憎愚の存在は基本的には見えないし聞こえないし認識できる物じゃない。
それに存在を公の場に晒すことでより負の感情は強まり、憎愚が産まれる事は明白。
上も公表はせずひた隠しにして俺達みたいなのがこうやって夜な夜な駆り出されてるわけ」
「ちょっと待てよ俺達ハッキリ見えてたぜ。けいちゃんの事」
「憎愚は人を憎む心から産まれる。憎愚に支配された人間が憎むべき対象とカテゴリしてる人間に対してはより鮮明に見えるようになる。
君の友人はあの子のファンなんだろ?だからあのおデブ君には彼女を視認する事が出来たわけだ」
今までの説明を踏まえるに常人には憎愚ってのは認識ができない。憎愚の元になった人間に認識されてればそいつにはハッキリと見えると。
だがその理論でいくと俺が視認できた事の説明がつかない。
何故なら俺は会った事もないし何ならけいちゃんのことを知ったのは昨日の事だ。
「それは君の中に眠るアイドル因子のおかげだよ」
「アイドル……因子?」
今までの話はまだ脳内で整合性を保ててたが一瞬にして崩壊させられた。アイドルて。
人間の負の感情とアイドルになんの因果関係があるってんだよ。てか何より
「アイドル因子ってなに?」
「よく漫画とかである超能力者に突如目覚める!ってあるでしょ?あれだよあれ。君は今覚醒の真っ只中にある」
思い返すとけいちゃんの武装から放たれた攻撃は常人が抗える程の威力を間違いなくに超えていた。
並の人間が正面からよってたかっても勝てそうなビジョンが浮かばない。
それを真っ向から拳で受け止めた時の違和感は相当なものだった。
今尚俺の手がまともな形を維持してるのも特殊な力によるおかげだって言われれば納得がいく。
「最近女の子の夢とか見たりしてない?」
そう言われるとつい目を見開き男の方を勢いよく振り向いてしまった。
男はやっぱりなと言った表情で続ける。
「アイドル因子の覚醒の第一段階目として、無意識内での精神的干渉が多く見られるんだよ。他の形で現れる事もあるけどね」
「その言い方だと二段階目もあるって事だよな?」
「そうだね。因子とは言っても君のイメージしてるものとはちょっと違うと思う。
因子とは言っても意思や自我を持ってる。一つの生命体と捉えていいだろう。今君の中には一つの命が目覚めようとしている」
俺の中に一つの命……
「俺……妊婦ってこと?」
「ははっ!ウケる。まぁ、完全に否定はできないかな」
いやいや笑い事じゃないんだけど。命が目覚めるって…どこに?俺の中に?俺が育てていかなきゃいけないの?高校生なのに?ごく普通の一般男児なのに?
その他諸々聞きたい事が毎秒ごとに増えていたわけだが車は俺の自宅前へと到着する。
「ここからが本題。君には僕達と一緒に憎愚と戦ってほしいんだ。勿論戦い方は教えるし学業も優先してもらっていい」
「ちょ!急展開すぎだろ!しれっと引き込もうとしてんじゃねーよ!」
「あらそう?お前みたいなのはすんなりオッケーしてくれると思って話してたんだけど」
「しねーよ!俺には大事な大事な日常生活があるんだよ!平穏で楽しいスクールライフがな!!」
断固として拒否してやった。あのままの流れだと俺は完全にあの化け物達と激闘を繰り広げるバトル漫画の生活へとシフトさせられそうだったからな。
すると男は気だるそうな表情を浮かべ紙切れに何かを書き出した。
「まぁいいや。これ俺の番号だから気が変わったら連絡してよ。あ、後さっきの話は他言無用ね」
じゃあまたね。と男達は去っていった。
どうせすぐ気が変わって連絡してくるだろと言わんばかりの態度に少し腹が立つ。
釈然としないまま何はともあれ腹は減った。自宅の扉を開ける。
「ただいま」
「おかえり〜〜ってちょっと!なんか全身汚れてない!?喧嘩でもしたの?」
「あーー……まぁそんなとこなのかな?」
化け物とやり合ってたなんて言っても信じるわけないし心配させるだけだ。それに俺も全貌を理解してないしな。
洗面所へ移動する。
きちんと帰宅したら手を洗い、うがいもちゃんとしてから飯は食べる。これは幼少期からずっと口うるさく言われてた。真面目ってのもあるだろうけどそれ以上に心配なんだろうなって思う。
食卓に着く。今日の献立は大好物のクリームシチューだった。
腹ペコすぎた俺はいただきますと元気良く言い切り、飯をかき入れていく。
「最近進路のことで元気なかったでしょ?それ食べて元気出しなさい」
やっぱり親には子の悩みなんてもんはお見通しらしい。
進路か……憎愚の事とか俺の中のアイドル因子とかの問題もあるけど進路についても考えていかないといけない。考える事が山積みな事に絶望しついため息をこぼす。
「見つからない?やりたい事」
「……うん」
「まぁ達樹が真面目に公務員やってるとこなんて1ミリも想像できないしなぁ」
これが実の母親からの評価か……苦手教科もちゃんと向き合おうかなと思うほどぐっと心に沁みた。
「でも!俺も働かないとずっと母ちゃんに無理させちまうし……」
「10年前、お母さんが達樹に言ったこと覚えてる?」
昔を振り返る。この家には10年前まで父親がいた。仲睦まじい家族だった。今でも父親との楽しい思い出は覚えてる。
だがある日を境に行方がわからなくなった。俺は泣いた。母親に勿論聞いた。父親は何処にいってしまったのかと。何故いなくなってしまったのかと。母親はこう答えた。
「お父さんはどこか遠くへ行ってしまったの。でも決して私達を見捨てたわけじゃないわ。いつか必ずまた会える。今は会えなくても絶対に私達をずっと見守ってくれてる」
「私はあの人を絶対に嫌いになったりしない。身勝手だなんて思わない。私が達樹を元気いっぱいな良い子に育てて見せるから。達樹に求めるのは一つだけ」
「自由に生きて」
…………………………
『自由に生きて』10年前母親から言われた言葉で今でもハッキリと覚えてて生きる指針にもしてる。
だが自由に生きろという考えは俺がもっとガキだった頃父親からもずっと言われてた事だった。
一番覚えてるのは俺が小1だった時。莉乃がいじめられてるのを見て俺がいじめてる奴らに刃向かった時のことだ。
…………………………
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