第127話 前人未到。規格外のレベル

「な、なんだそのレベルはぁあああああああああ!?」


 吟遊の魔王、神聖ヘブラァは汗を飛散させた。


 何リットル出してんだろうな?

 干からびて死んでしまいそうだよ。


「あ、あり得ない……。なんだその表示は!?」


 どうやら、俺のレベルが信じられないらしい。

 と、いうか、見たことがないのかもしれないな。

 まぁ、そりゃそうか。パッと見。誰もわからんだろう。

 実際。俺だって、この単位を見たのは今日が初めてなんだからな。


「レ、レベル100……。なんだ? その単位は?」


 それは漢字3文字。

 存在を知っていなくては読み方すらわからない。

 いわゆる、算数の勉強……。


「億の次の単位が兆なのは有名な話だよな?」


「…………」


「兆の次があることは知っているかな?」


「な、なんだと……?」


「兆の次はけい、その次はがい。そして、𥝱じょじょうこうかんせいさいごくと続くんだ」


「な、なにを言っている? なんの話だ??」


「数字の単位さ。さぁ、ごくの位から上は3文字の単位が始まるぞ。 恒河沙こうがしゃ 阿僧祇あそうぎ。そして──」


 そう、俺のステータス画面の、レベル項目に書かれている単位がこれだ。





「── 那由他なゆただ」


 


 ヘブラァは口をパッカリと開けたまま、時間が止まったように何も言わなかった。

 いや、驚きすぎて声が出ないのかもしれない。

 まぁ、そりゃそうか。こんなレベル、どんなゲームでも見たことがない表示だからな。




「俺のレベルは100 那由他なゆただ」




 自分でも驚いている。

 まさか、これほどまでにレベルが上がるとは思っていなかったんだ。


「ひゃ、ひゃ、100 那由他なゆた……。レベル100 那由他なゆただとぉ。あぐぐぐぐ……」


「まぁ、実感は難しいと思う。それにそのレベルに到達した経緯もわからんだろうしな」


 よし、


大賢者の輝く部屋ワイズマンルーム!」


 それは大賢者カフロディーテが最期の魔法として使った大賢者の究極魔法ラストスペリオン

 俺とヘブラァは8畳くらいの光る部屋に入った。

 その場所は、あらゆる情報を 同期シンクロし、条件付きのチートを可能にする。


「なにぃいいいいいいいいい!? ラ、大賢者の究極魔法ラストスペリオンだとぉおおおおお!? レベル100億のわれでも使うことができないのに!?」


「どうやら、俺は、全ての魔法が使えるらしい」


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


「もちろん、俺の場合、大賢者の究極魔法ラストスペリオンでも命は使わないからな。何度でも使用が可能だ」


「あぐぬぬ……」


「じゃあ、説明が面倒だから、過去の情報を教えてやるよ。俺がレベル100 那由他なゆたになった経緯だ」


「あ、あああああ……。脳内にイメージが……。流れ込んでくる」


 条件付きで情報を 同期シンクロさせた。

 それは、カフロディーテが 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームを使って、攻撃補助魔法 攻撃力2倍バイカール レベル2倍バイカールに変更したことから始まる。

 1人につき1回。使った者は死ぬ。俺がレベル100 那由他なゆたに到達した経緯。

 

「バカなぁああああああああああああああああああああああああああ……」


「ああ、これでも途中で辞めたんだぞ」


「……へ?」


「レベルを倍化するのは途中で辞めたんだ」


「……な、なんだと?」


那由他なゆたの上が 不可思議ふかしぎであり、その上が無量大数なんだがな。レベル100億の相手を倒すのには少々上がり過ぎている気がしたんだ」


「…………………」


「仲間の数が多かったからさ。レベル100 那由他なゆたになった時点で強化をストップしたんだよ」


 オーバーキル。

 強くなりすぎるのも問題があるかもしれないしな。

 事実。防御なんかしなくても、奴の攻撃は無力化ができてしまった。

 バトルとしては、もう勝負にならん。


「は、はははは……。こんな世界いるもんかぁああああああああああああああああああああ!! ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ヘブラァは 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームを破壊して飛び上がった。


 なんだ? 攻撃でもするつもりか?


「この世界を消滅させてやる! 存在ごと空間ごと全部なぁあ! あらゆる時間を消滅させてやるぅうううううううう!! メタルパイナプールでも復活ができないほどにぃいいいいいい!! 貴様の脳内からも世界の情報を消し去るくらいになぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!  無力世界への招待ウェルカムトゥノーン!!」


 それは真っ黒いオーラとともに襲いくる重力の魔法だった。

 空間をひん曲げて、存在を消滅させる魔法。


「フハハハハ! この攻撃はガードができん! ブラックホールラビットで吸うことも、移動させることもできない! 放出されたが最期。絶対に発動する攻撃魔法なのだぁあああああああああああ! 元の世界のことを覚えているのはわれだけになる。おまえは全てを忘れるのだ! 仲間のことも、生まれ育った領土のこともなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 存在したあらゆる事象を破壊してやるぅううううううううううううう!!」


 やれやれ。ガードができない……か。


 俺はゆっくりと片腕を天にかかげた。




「無駄だ。 特異点防御シンギュラリティガード




 ヘブラァの放った攻撃は渦を巻いて中央に集中した。

 それは小さな点になるように、渦を巻いた中心部分に吸い込まれる。

 やがて、小さなビー玉のような真っ黒い球体が生まれた。

 

「な、なにぃいいいいいいい!? ガードはできないはずなのにぃいいいいいいいいいいいいい!?」


 俺は黒い球体を拾った。


「そうなんだよな。ガードはできないんだ。だから、小さな点に変化させた」


「ああああああああああああ……。そ、その玉が……。 無力世界への招待ウェルカムトゥノーンなのか!?」


「ま、そういうことになる」


「バカなぁああああああああああああああ!! そ、そんなことはできないんだぁああ!!  全宇宙知識事典スペースサイクロペディアにもガードが不可能と記されているんだぁあああああああああああああああ!!」


「ああ、おまえの事典にはそうかもな。でも、俺の事典には載っているんだよ。 無力世界への招待ウェルカムトゥノーンの防ぎ方がな」


「ああああああああああああああああああああああ!! 違うぅううううう!! 違うぞぉおおおおおおお! 世界の王はわれなのだぁあああああ! 貴様は雑魚魔族。われが世界の王なのだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!  闇の兵士誕生ダークソルジャーバース!!」


 大地から無数の骸骨兵士が湧き上がってきた。

 闇の兵士を作り出す魔法。全身真っ黒の骸骨モンスター。

 かなりの数だな。地平線までびっしりだ。

 

「ブラァアアアアアアアア!! 100億匹のダークソルジャーを誕生させたぁああああああああ!!」


 ダークソルジャーの大群は俺に襲ってきた。

 やれやれ。1匹がだいたいレベル1万程度のモンスター。

 そんな兵士で俺が倒せるわけもないのにさ。


 俺が片手を軽く振ると、ダークソルジャーは群れになって吹っ飛んだ。

 まるで、大きな津波のごとく、固まって吹っ飛ぶ。


 こんな兵士な。


パチン……!


 と指を鳴らす。

 すると、


ドバッ!!


 一瞬にして消滅。

 100億匹のダークソルジャーが塵と化した。

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