第124話 前代未聞のパワーアップ
俺の眼前は人集りだった。
もう数なんか数えきれないほどの人数。
こ、こいつらが、自分の命をかけて俺のレベルを2倍にする……だと!?
口火を切ったのは聞き覚えのある声。
美人で優しい俺の侍女、メエエルだ。
「ザウス様。一生お供いたしますからね」
そういって優しく微笑んだ。
「いや、待て!」
「
「待て! メエエルゥウウウウ!!」
瞬間。
俺のレベルは2倍になった。
ステータス画面の数値がレベル99万からレベル198万に変更されたのである。
カンストだった表示が変わったんだ。
いや、そんなことはどうでもいい!
「ああああああああ……!」
メエエルが倒れている……。
ま、まさか、し、死んだのか?
息もしていない。心臓も動いていないぞ。
そ、そんなぁああ!?
「メエエエエエエエエエエエエエエルッ!!」
それからは止まらない。
「オラ、ザウス様んためなら命かけるランド。
「
「俺も!
「ザウス様! 魔王に勝ってくださいね!
「私の命を使ってくださいリザ。
「俺の命を使ってください。
「ザウス様。今ままでありがとうございましたハピ!
「貴方様のお陰で幸せな人生が送れました。本当に本当にありがとうございました。
次々の詠唱しては倒れていく。
いや、死んでいく。
「待てぇえええええええええええええええええ!!」
俺はこんなパワーアップは望んでいないぞぉおおおおおおおお!!
みんなの命はメタルパイナプールがないと復活できないんだ。
しかも、そのアイテムはすでに使ってしまっている。
つまり、みんなの命を助けることはできない!! 復活は不可能!!
絶対に助からないんだ!!
「「「
モンスターも領民も、みんなが俺に魔法をかける。
そして、死んでいく。
「待てぇえええええええええええええええええええええ!!」
背後からはカフロディーテの声。
「のぉ。ザウス。
「わ、わかった! 他の方法を考える!! だから一旦待っ──」
「ザウス。世界を救えるのはお主しかおらん。大好きじゃよ。
カフロディーテは目の前で倒れた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
……………………
……………
……
☆
〜〜三人称視点〜〜
セキガーハラ平原では、吟遊の魔王、神聖ヘブラァが大きな事典を読んでいた。
その事典は空中に浮き、特別な魔法で出現させたものである。
その事典には、この世の全てが記されていた。
大賢者の
事典の名前は
レベル100億のヘブラァだけが使える、情報収集魔法である。
ヘブラァの前には光り輝く霧が発生していた。
これは
「ブラァア……。この霧はあらゆる攻撃を無効化する効力を持っているらしい。まぁ、それも、制限時間は10分だけだな。じき消える」
彼のいうとおりだった。
霧は次第に弱まって、そこには1人の男が立っていた。
黒マントの魔公爵、ザウスである。
その手にはカフロディーテを抱いていた。
「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアア! 待っていたよザウスくぅうううううん!」
「…………」
「そいつはカフロディーテだな。ククク。
「…………」
彼は無表情だった。
いや、というか、なにかを探っているような顔色である。
それはまるで、ゲームの説明書を読むかのような、ゲーマーの顔をしていた。
ヘブラァは気が付かない。
彼の眼球に異変があることを。
ザウスの右目には、小さな文字の羅列が浮かび上がっていた。
そこには、宇宙の全てが記載されている。
そう、その文字は
ヘブラァが大きな事典として出現させていたものを、彼は薄いコンタクトレンズのようにして発現させているのである。
「ククク。ザウス君。メタルパイナプールを使ったね?」
「…………」
「フフフ。驚くのも無理はない。
ヘブラァは
だから、殺したはずのザウス重騎士団が復活したのも把握できたのだ。
しかし、そこに少しだけ違和感を覚える。
メタルパイナプールは究極の復活アイテム。どんな状況でも復活できるアイテムである。そのアイテムを使っているのならば、カフロディーテは生き返っているはずなのだ。
それが、明らかに死んでいる。彼にとって、これが若干の違和感となった。
しかし、ヘブラァにとっては些細な出来事だった。なにせ、レベル100億。全宇宙、最強の存在には小さな違和感だったのだ。
それに、都合が良かった。彼女が死んでいるならば、再び
「ハハハ。見たまえ」
ヘブラァが片腕を広げると、そこには巨大な檻に閉じ込められたザウスの仲間たちがいた。
その中のほとんどがザウス重騎士団のオークたちである。そして、魔神殺しのアルジェナをはじめ、商人のナンバ、僧侶のミシリィたちもいた。
みんながメタルパイナプールの効果で蘇っていたのだ。
檻の中の者たちは、ただヘブラァの言葉に不安げな表情を覗かせた。
「フフフ。逃げないようにね。
「…………」
「もちろん、ショーのためさ。フフフ。こいつらの使い道はショーのため。ククク。わかるだろ?」
「…………」
「おやおや。
「…………」
「さぁ、ショーを見せてあげようかな。絶望しかない、地獄のショーをね」
ヘブラァはリュートを構えた。
リュートとは、ギターと三味線を足したような弦楽器である。
「このリュートの音が、開始の合図さ。さぁ、見せてあげよう。最高のショーをね」
ボローーーーン!
リュートの弦は超音波を発生させた。
それは全てを消滅させる衝撃波。周囲の岩山を破壊し、ザウスの仲間も塵と化した。消滅したのは、レベル100万を超える者たちである。そんな力さえも一瞬で消し去ってしまったのだ。
残ったのはヘブラァとザウスだけ。
周囲は何もない荒野と化した。
「ハハハハ! どうだい!? 面白いショーだろ? クハハハハハハ!!」
「…………」
「おやおや。言葉が出ないようだね。それとも、攻撃範囲を考察しているのかな? 回復させる方法を模索してるとか?」
「…………」
「フフフ。大丈夫。教えてあげるよ。ククク。全てを破壊したんだ。全てだよ! アハハハ! ここにいる君の仲間たちも、
「…………」
「さっきの音は破滅のリュート。絶対に復活ができない絶望の曲だったのさ! アハハハハ! 君が守ってきた全てを破壊してしてやったぞ。もう奴隷にすることなんてやめたのさ。そんなことより、君を絶望させることを優先したんだよぉおおおおおおおお! そっちの方が面白いからねぇえええええ!! ザウスくぅううううううううううん! 今、どんな気持ちぃいいいいいい?」
「…………」
「そういえば……。メタルパイナプールならば復活は可能だったな。ククク。まぁ、それもさっき使ってしまったからねぇ。残念だったな。ククク。おそらく、
「………………よし。だいたい理解できた」
「おやぁ? ようやく目が覚めたのかい? 現実は理解できたかな?」
ザウスはカフロディーテを抱えたまま、片手に魔力を集中させた。
「アイテムコピー。メタルパイナプール」
すると、その手には鉄肌のパイナップルが出現した。
「なにぃ!?」
ヘブラァが驚くのも束の間。
メタルパイナプールは強烈な光を発して消滅した。
すると、死んでいたはずのカフロディーテは息を吹き返し、その瞼はゆっくりと開いた。
「ザ……ザウス……?」
「おはよう」
「ど、どうして? わ、
「助けるって言ったろ?」
それは奇跡的な光景だった。
さっきまでも荒廃した平野とは打って変わって、岩山は復活し、元の光景に戻っている。
ザウス重騎士団のオークたちをはじめ、アルジェナやナンバ、ゴブ太郎たちも、全員が元どおり復活しているのだ。
「バカなぁああああああああああああああああ!? さっきのメタルパイナプールが本物だとぉおおおおおおおおおおおおお!? あり得ない!? どうしてぇええええええ!?」
「アイテムコピー。1度でも使ったアイテムは何度でも復元ができる魔法だ」
「ア、ア、アイテム……コピー……。だとぉおおおおおおおおおおおおおお!?」
ヘブラァは大きな事典を出現させた。
それはレベル100億の知識が詰まった
「ない! ないぞ!? そんな魔法は載ってないぞぉおおおおおおおおおお!? どういうことだぁあああああああああああああ!?」
魔公爵城前の広場では、死んだはずのみんなが復活していた。
領民たちは、それがザウスの力だと確信する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます