第123話 人生最大の絶望

 魔王を倒す希望が見えてきた。

 まさか、レベル100億の魔王を倒す見通しが立つとはな。思いもしなかったよ。


 それはレベルを倍にする魔法 レベル2倍バイカールの重ねがけ。

 すでに 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームの力によって魔公爵領土には周知徹底されている。

 あとは、俺がその魔法を受けるだけだ。


 大賢者カフロディーテは、 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームを使って領民たちを魔公爵城に集めようとした。

 その時である。


「まいったの……」


 と、眉を寄せた。


「なにかトラブルか?」


レベル2倍バイカールを放つにはそれなりの代償を伴うようなのじゃ。領民の理解はそのデメリットも認識してもらわなければ成立はせん」


「デメリット……?」


「うむ。実はな──」


 驚愕の事実に驚きを隠せない。


「なに!?  レベル2倍バイカールが命を使うだと!?」


 つ、つまりそれって……。


「俺に レベル2倍バイカールを付与したら……。し、死ぬってことか?」


「うむ……。重ねがけという強力なメリットには、それ相応のデメリットが存在するということじゃな」


「…………」


 いやいや。

 デメリット大きすぎだろ。


「しかし、安心せぇ! その条件を込みで領民たちには伝達をしておいた」


「え?」


「みんな、それを承知で魔公爵城前の広場に集まってくれたんじゃよ」


 あ、集まったって……。

 何人だ!?

 命がかかっているんだぞ?

 

「で、でもさ。たとえ死んでも 時空修復タイムリペアがあるよな。時間を戻して復活できれば問題ないか」


「そんなことをすれば レベル2倍バイカールの効果も消えてしまうわい」


 うう……そうか。

 あくまでも、命の代償での重ねがけ。時間を戻しては意味がない。

 待てよ、なら、


「メタルパイナプールがあれば復活は可能だよな? 死んで復活することになるんだし。命を使ったことにはなる」


「たしかにの。それはそうじゃな。じゃが、メタルパイナプールはもう見つからんぞ。アイテムドロップの確率を触れるのは1度きりじゃ。あのアイテムを手にいれるには10万年に1度という順当な確率で探すしかないのじゃ」


 そんな時間はない。


「じゃあ、俺に レベル2倍バイカールを使った者は……。確実に死んでしまうということだな?」


「そういうことじゃな。ちなにみ、蘇生の魔法も使えんぞ。レアアイテムの復活の効果さえ無効化するようじゃ。魔法の重ねがけを許可したデメリットじゃな。死んだ者を蘇らせるには、強力な復活アイテムの効果しかない。つまり、メタルパイナプールしかないということじゃな」


「…………」


 デメリットが大きすぎる……。


「ほれ。この部屋と魔公爵城前の広場を繋げてやったぞ」


 と、彼女が指差す方向には扉が出現した。


「あそこを開ければ、みんなが待っておる。 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームの力で瞬間移動をして集めてやったのじゃ」


「ま、待つったって……」


 命がかかっているんだぞ?

 

「さぁ。ドアノブをひねるのじゃ」


「いや……。だって……」


  レベル2倍バイカールを付与したら死ぬんだぞ?

 なんのメリットがある??


 領民が、俺を援助することって、自分たちの命を守るメリットがあるからだよな?

 じゃあ、命を捨ててまで、俺を強くするメリットなんて存在しないじゃないか!


「ほれ、どうした。早くせぇ。みんな待っておるぞ」


「いや……。あの……」


 この扉の向こうに領民が待っている?

 いやいや。

 1人も待ってないんじゃないか??

 だって、自分の命がかかっているんだぞ??


「ほれぇ。早よぉせぇ。もう 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームの効果は1分しかないのじゃぞ」


 いやいやいや。

 ひ、1人もいないんじゃないか??


 この扉の向こうには1人も待っていないんじゃないのか!?

 

 この扉を開けるのって、絶望しかないだろうよ。


「ザウスよ。優れた領主には人望がついてくる。それが今、証明される時じゃな」


 いやいやいやーーーーーーー!

 待て待て待てーーーーーーー!


 それはまずい!!


 は、はっきりいうが、俺に人望はない!!


 どうせゲームの世界だし、俺は悪役キャラだしなって。


 悪役ムーブしまくってたぁあああああああああああああああああああああ!!


 あああああああああああああああああああああああ!!


 やっちまったぁあああああああああああああああああああああああ!!


 た、楽しかったんだ……。

 他人のことを気にしない。絶対の力で服従させる悪役が楽しかったんだぁあああああああああああああああああああああ!!


 やりすぎたぁああああ。

 好き勝手やりすぎたあぁあああああああ!


 ああああああああ……。


 こ、ここに来て……。

 こんな仕打ち。


 じ、自業自得か……。


 自分のことばっかり考えていたから、こんなことになる。


「ほれぇ。ザウス。早よぉ開けぇ」


「…………」


 な、何人待っているんだ?


 メエエルは待ってくれているだろうか?

 彼女くらいなら……。


 ……い、命がかかっているんだぞ?

 待つ理由あるか……?

 

 いや、ない。


 待つ理由なんてない!


 1ミリもない!!


 侍女のメエエルすら待つ理由がないんだからな。


 この扉の向こうに、誰も待っていない可能性が高い……。


 あああああ、さ、最悪だ。

 こんな状況で、絶望することになるなんてな。


 俺は恐る恐る扉を開けた。


ガチャ……。


 もう怖くて目を開けることができない。

 

 扉を開けると外の風がブワッと入ってきた。


 ああ、最悪だ……。


 そんなことを思いながら、ゆっくりと瞼を上げていく。


 すると、扉の向こうには青空が広がっていた。


 どうやら、扉は空中に出現しているらしい。


 つまり、魔公爵城の広場は、この下にあるということだ。


 恐る恐る、下を見下ろす──。




「え………………………………!?」




 そこには数えきれないほどの人集りがあった。

 みんなは笑顔で両手を振る。


「ザウス様ぁああああああああああああああ!!」

「わぁああああああああ!! ザウス様ぁあああああ!!」

「ザウス様ぁあああ! 大好きです!!」

「ザウス様ぁあああ!! 魔王に負けないでください!!」

「ザウス様ぁああ!! 私たちがついていますよぉおおおお!!」

「ザウス様ぁあああ!! 応援しています!!」

「ザウス様ぁあああああ!! 大大大好きです!!」


 おいおい……。

 老人に……子供まで混ざっている。


 マジか。

 

 ザウスタウンのほとんどがいるんじゃないか?

 い、命がかかっているんだぞ?

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