第120話 大賢者の想い
〜〜大賢者カフロディーテ視点〜〜
それは
ザウスは
城内を歩くたびに、部下モンスターたちは恭しく頭を下げ、そして、笑顔を見せる者さえいた。
支配者の城に招かれたことなんぞ、いくらでもあったのじゃ。
しかし、こんな温かい空気は初めてじゃ。
ザウスは
彼は眉間に皺が寄っているのがデフォルトなので、まぁ、こういう感じなのだろう。
そんなしかめっ面の支配者が、妙に部下に好かれているのはどういうことなのじゃろうか?
「のぉ。ザウスよ。部下モンスターはどうやって支配しておるのだ?」
すると、彼はニンマリと笑った。
「ふん。恐怖と絶望に決まっているだろう。ククク。絶対的な力によって、服従させているのだ」
「…………」
と、そこにゴブリンのゴブ太郎がやって来た。
「あ! おはようございますゴブ」
「ああ」
ゴブ太郎は深々と頭を下げるが、それはもう笑顔だった。
リザードマンのリザ丸も、ハーピーのハピ江も、彼に会えたことが、無類の幸せとでもいうように笑顔を見せる。
まぁ、リザ丸は笑っていなかったがの。それでも、すっきりとして敬意を感じられる表情をしておったよ。彼の部下であることが一生の誇りとでもいうような清々しい表情じゃ。
ザウスは子供のモンスターたちにも好かれておった。
「ザウスさま遊んでブゥ」
「遊んで欲しいセイレン」
「ザウス様、こっちきてゴブ!」
「みんなでスゴロクゲームをやっているゴレム」
スゴロクというのはザウスが発案して作ったボードゲームのことじゃ。
サイコロを振って自分の駒をゴールさせるゲーム。
ザウスは子供たちに引っ張られてやむなくやることがあった。
「次はザウス様の番だゴレム。これで6を出したらザウス様の優勝ゴレム」
そんな時。
ザウスは、必ず6以外の目を出した。
不思議と、ゴールする出目は出ないのである。
「あ、ザウス様5が出たブゥ! ってことはゴール一歩手前だから……。ああああ! 振り出しに戻るだブゥウ!!」
「あちゃああ……。やってしまったな」
「「「 わはははは!! 」」」
やれやれ。
風の魔法でサイコロの出目を操作したのをな。
「やれやれ。お前たちの強さにはまいったよ」
「わははは! ザウス様、すごろくゲーム弱いハピ。もっとやりたいハピ」
「今日は勘弁してくれ」
「「「 わははは! また遊んでねーーーー!! 」」」
まったく、この男は……。
「おい。風魔法は反則ではないのかえ?」
「コホン……。な、なんのことだかさっぱりわからんな」
「
「は?」
「わざと負けられても嬉しくはなかろう」
「ククク。カフロディーテよ。なぜスゴロクゲームを城内で流行らせたか知っているか?」
「楽しいからじゃろ?」
「まぁ、それもあるがな。大事なのは計算することなのさ」
「計算?」
「ゴールまでのマス目数と、サイコロの運。この2つを計算して勝ち筋を見つけるのがスゴロクの醍醐味なのだ。しかも、これは実戦にも通じることなのだよ」
「ふむ。たしかに戦いに運はつきものじゃな」
「加えて勝利のカタルシスだ。子供のころから勝つことを覚えさせる。ククク。これは、将来、この子達を戦闘型モンスターにするための洗脳の一環なのだ!」
「そうだったのかえ!?」
「ククク。来たる魔王軍との戦いに備えてな。絶対の勝利にこだわる戦闘型モンスターさ。残虐非道なモンスター。ククク」
「ほぉ……」
城内には子供たちの笑い声が響く。
「「「 ワハハハハハハ! 」」」
「楽しんでいるようにしか見えぬが?」
「ふふふ。洗脳とはそういうものさ。勘違いするんじゃあない。では、俺は修行があるからな」
やれやれ。
戦闘型モンスターの育成、とか言っておきながら、この子らが農業をやりたいといったらそれを許してやるのだからな。
まったく、この男は素直じゃないのぉ。
……でも、そういうところも好きなんじゃ。
ふふふ。ザウスはずっと優しい。
さっきのスゴロクだってそう。最下位になりそうで泣きべそをかいている子供がいたから勝ちを譲ったんじゃ。子供の目は騙せても
まったく……。ザウスの優しさは底なしじゃのう。
ああ、大好きじゃ。
この男のためならば命は惜しまぬ。
だから、これは
『
最強の魔法じゃよ。
☆
〜〜ザウス視点〜〜
「ワ、
『フフフ。世界広ろしといえど、この魔法は
「万能魔法……」
『
たしかに。
俺が気を失う一瞬ではあったが、
『光の霧に一切の攻撃は通じぬ。たとえレベル100億の魔王であろうと干渉はできぬのじゃ。まぁ、こちらから攻撃もできんがな』
ずいぶんと強い魔法効果だな。
このゲームをやり込んだ、俺すら知らない
気になるのは代償だが。
「…………おまえの体はどうなるんだ?」
『ん? ……ふふふ。この空間は
たしかに、俺の受けた傷は
俺の体には貫通した穴が空いていたが、それもすっかり治っっている。
それも全て、
「はぐらかすな。おまえの命はどうなるんだ? と聞いている」
『わ、
「そういう問題じゃあないんだ。おまえは利用価値が高いからな。おまえのことなんかどうでもいいがな。いなくなることは俺の損失に繋がるんだよ」
『損失……。そうか。損失か……』
「あ、あれだ……。その……。おまえは明るい性格だしな。城内のムードメーカー的な役割も果たしている。みんなにとってもおまえの損失は大きいということだ」
『……のぉザウス。
「はぁ? だ、だから今言ったろ。それ以上でも以下でもない!」
『
「な、なにを言ってるんだ?」
突然。
部屋一杯に俺の映像が映し出された。
「な、なんだこれ?」
『ふふふ。
それは顰めっ面だったり。笑ったり、怒ったり。
喜怒哀楽の俺。
『
おいおい。
『1100年生きてきてな。こんな気持ちになったのは初めてなんじゃよ』
「そんなことはどうでもいい。それより、おまえが元に戻る方法を知ることが先決だ」
『ない』
「え?」
『ふふふ。
「10分後はどうなる?」
『……消滅じゃな。
「生まれたことさえ消えるだと?」
『そうじゃ。決して
「…………どうしてそんな技を使ったんだ? 俺は頼んでないぞ」
『……惚れた女の弱みじゃな。ザウスさえ生き延びてくれれば
「却下だ。今すぐ戻せ」
『……無理じゃよ。一度発動したらそれきりなんじゃ。大賢者、最期の大魔法と言ったじゃろうが』
気がつけば涙が頬を垂れていた。
目にゴミでも入ったのだろう。
『
「勘違いするな。目にゴミが入っただけだ」
『ふふふ……。なぁザウス。最期に聞かせてくれぬか?
「それを答えてなんになる?」
『だって……。聞きたいんじゃもん。
「だから言ったろ。おまえは利用価値の高い存在だって。それ以上でも以下でもないさ」
『嘘つきめ』
「は? う、嘘なんかつかないぞ」
『嘘じゃな』
「な、なにを根拠に……」
『ヘブラァが放った攻撃を命がけで庇ってくれたじゃろうが』
「う…………」
『絶対に回復も防御もできない、
「…………」
『もうそれだけでバレバレじゃな。のぉザウス。もう最期なんじゃ。あと5分もすれば
「…………それを答えておまえが元に戻るのなら、何度だって言ってやるがな。今は5分間の無敵時間でなにができるか考えた方が効果的だろう」
『ザウスらしいのぉ……。ふふふ。これからの。お主を別世界に飛ばしてやろうと思うんじゃ』
別の世界?
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