第119話 後悔させたい
ヘブラァは笑っていた。
その体はボロボロで骨まで見えている。
ところどころ、白い湯気が立っているのは超自己再生スキルが発動しているからだろう。
まぁ、このままだと回復魔法で全開されてしまうな。
「ブラァアア……。これで勝ったと思うなよ。
ふむ。
こういうのを聞いているのはよくないよな。
よく、ヒーロー番組とかでさ。悪役が主人公の変身を待ってたりするけどな。
あれはよくないんだ。弱っている敵に逆転のチャンスを与えることになるからな。
俺は悪役貴族だしな。やっぱり間髪入れずにだな──。
「よいしょっと」
それはデーモンソードの一閃。
ヘブラァが回復魔法を使うより早く、奴の体を真っ二つにする。
「ブラァアアアアアアアア! ま、まだ、
「そんなこと知るもんか」
「礼儀というものがあるだろうがぁあああああ!! ブラァアア!!」
「ない。魔公爵にそんなものは存在せん」
こいつは魔核が残っている場合、何度でも再生するみたいだからな。
全ての細胞を消滅するくらいに切り刻んで燃やしてやる。
デーモンソードで細切れにする。
すると、その肉片は蜃気楼のように揺らめいた。
しかし、違和感。
「なに!?
切り刻んだのは残像だ。
本体じゃないのか!?
「ククク。実は貴様に攻撃している時にな。その圧倒的な力量差に、殺すことに執着しなくなったのだ」
「どういうことだ?」
「殺すのは簡単だ。感知スキルで本体を見つけ、ほんの少し力を加えて攻撃してやればいい。貴様を殺すことなんぞ造作もないことなのだよ」
……こいつはレベル100億になったばかりだ。
力の使いかたは不慣れだったはず……。
しかし、もう慣れて来ている。今後、
加えて、全力で攻撃してこないのは明白。こいつには余裕があるんだ。
「絶望させたいのさ。ククク。
「絶望……だと?」
「そうだ。絶望だ。ククク。貴様の仲間……。今頃、どうしているだろうなぁ?」
そう言って
とんでもないことになった。
「
俺はみんなの元へと戻る。
そこはセキガーハラ平原。魔王軍と勝ち抜き戦をやった場所だ。
「な、なんてことだ……」
その悲惨な光景に目を疑う。
5千を超えるザウス重騎士団。そのオークたちが全滅しているのである。
血だらけで横たわる者。四肢をもがれている者。全員、絶命している……。惨憺たる光景だ。
ポローーンポローーン!
ヘブラァはリュートを鳴らしていた。
「やぁ。ザウス君。遅かったね。今、別れの詩を奏でていたんだ」
「俺を倒せば、オークたちはおまえの部下になったんじゃないのか?」
「別れたもう地上の思い出。恨むならば主人の弱さにせよ。ザウスの弱き力が、おまえたちの落命に繋がったのであろう。地獄まで恨むのだ。主人の無力さを。絶望するのだザウスの貧弱さを。さぁ、奏でよう。恨みの詩」
ポローーーーーーン。
「ふふふ。良い詩だろ?」
「こんなことをしてなんになる?」
「ははは。さぁ、なんになるんだろうね?」
……まだ、3分は経っていないはずだ。
時間を戻すことができるなら、まだ間に合うはずだ。
「おっと。
奴の後ろには巨大な粘土状のうねりがあった。
それは赤いスライムのような物で、生きているようにウネウネと動く。
そこにはアルジェナをはじめ、ゴブ太郎、ガオンガーと、俺の部下たちが捕まっていた。
俺が抵抗したら瞬時に殺すパターンだな。
「ザウスゥウ! レベル100億は強すぎる。逃げるのじゃああああああ!!」
カフロディーテの悲痛の叫び。
どうやら状況は伝わっているらしい。
「早うせぇええ! 逃げるのじゃぁあああ!!」
逃げたところで捕まるのがオチだ。
「ははは! 美しい仲間愛だねぇ。ククク。ザウス君。彼女らを助ける方法があるんだがな。聞くかい?」
「……聞こう」
「フフフ。
やれやれ。
奴隷契約か。
「君は、レベル666だったころの
「…………」
「レベル100億の奴隷紋だ。ふふふ。一生消えない奴隷の証だよ。死ぬまで
そんなことをすれば、一生こき使わるだけだ。
生き地獄の始まりか。
「ははは。決断が遅いね。よし。1人殺そう」
「待て!」
「大賢者にしようか。さっきからうるさいしな」
ヘブラァは白い光線を手のひらから出した。
それは強力な魔力の塊。少しでも喰らえば骨すら消滅するだろう。
俺はカフロディーテの前に立った。
とてもガードが間に合わない。両手を広げ、背中で受ける。
「ぐぁあああああああああああああッ!!」
うぐ。
凄まじい攻撃だ。
「ふはあぁあああああああ!! ザウスゥウウウウ!! なんで
「か、勘違いするな。おまえは利用価値がある。ただそれだけだ」
「バカバカバカ! 勘違いするわい!
しかし、バチンと火花が出るだけ。
「うなーー! 魔法が弾かれたのじゃーー!!」
以前として、俺の背中には激痛が走っている。
「ククク。
俺が持っていない技か……。レベル100億の力。
回復魔法が効かないなら、
俺の背中だけ時間を戻すんだ。
バチン……!!
と、火花が出た。
「なに!?」
これもさっきと同じか!?
以前として背中は痛む。
「ははは。
レベル100億はここまですごいのか。
「レベル100億ともなると、スキルと魔法が1000種類以上もあるのだよ。だから、最適な技を繰り出すのには少し時間がかかるのだ」
まいったな……。
隠していた実力に差がありすぎる。
やはりレベル100億は桁違いの世界だ。
ヘブラァは空中に自分のスキルと魔法を表示させてスライドしていた。
「ほぉ。こんな技もあるのか。面白そうだな。使ってみるか」
選択肢は2つか。
①俺が奴隷になれば、みんなが助かる。
②断れば、みんなが死ぬ。
奴隷になるくらいならば死んだ方がまし。
そんな選択もあるだろう。しかし、②はそう簡単なことではない。
ヘブラァは楽には殺してくれてないはずだ。
なにせ、最強の存在に逆らったのだからな。
俺たちを苦しめるのは必然。生まれたことを後悔するくらいの、殺害方法を実行するだろう。
…………簡単だな。
①を選ぶことがもっとも効率がいい。
この状況では仕方がない。
ヘブラァには部下がいないからな。俺が奴隷になれば仲間は解放されるはずだ。
もちろん、みんなもヘブラァの配下に加わるのは必須だがな。
だがしかし、これがもっとも効率のいい選択なんだ。
「ブラァアア。
「待て!」
「おっと、もう条件は変わった。仲間を1人だけ殺すことに決めた」
「なに!?」
「君を絶望させたくなったのだよ。ザウスくぅううん。
土下座だとぉおお!?
「あ、一瞬考えたね。はい。時間切れ。大賢者を殺そうか」
「ま、待て!」
「ハハハ! ダメダメ。ルールは
それは光線のような攻撃だった。
凄まじいエネルギーの塊。
一直線にカフロディーテに向かう。
ああ、バカだな。俺……。
防御不可能って聞いていたのにさ。
こんな効率の悪い行動を取ってしまうなんてさ。
よりにもよって、カフロディーテの前に立つなんてな……。
瞬時に出した魔防門はあっという間に貫通して、俺の体を貫通する。
「グフッ……!!」
その
ああ、なんかごめん。
俺が、土下座しとけば、おまえは助かったかもしれないのにさ。
俺も、彼女も死んでしまうなんてな。最悪のパターンだ。
カフロディーテの悲痛の叫び。
「ザウスゥウウウウウウ!! ああああああああああああああああああああああああああ!!」
彼女も貫通したのか……。
と、思いきや、カフロディーテの体は光に包まれ、霧状になって散乱した。
な、なんだ?
光る霧が俺たちを覆う。
「ブラァアアアアアアアアア!! なんだこの霧は!?
何が起こった!?
俺は、状況を理解できないまま気を失った──。
どれくらい眠っていたのかわからない。
「ザウス……。ザウスよ。目を覚ますのじゃ」
カフロディーテの優しい声がする。
耳心地のいい。優しい声だ。
見渡すと光る部屋。
8畳くらいの広さかな。
家具はなくて、全体が淡く光っている。
俺……1人だ。
「なんだここ? 俺は死んだのか?」
「ふふふ。そんなわけなかろう」
彼女の声だけが響く。
そういえば背中。痛くないぞ!?
「あれ!? 傷が治っている!?」
貫通した傷すらない。
どうなっている!?
「ふふふ。ザウス。助かって良かったの」
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