第118話 新しい技

〜〜ザウス視点〜〜

  

 吟遊の神聖ヘブラァは強い。

 想定はしていたが、まさかレベル100億とはな。

 ここまで強いのはちょっと想定外だった。


 とはいえ、格上相手に作戦を考えていたことは確かだ。


「広範囲攻撃は無能認定させてもらう」


 ここまで念を押していれば、闇雲な広範囲攻撃はやらんだろう。

 本物のザウスタウンはここから千キロ離れた場所になるんだがな。ヘブラァの攻撃なら一瞬で消滅してしまうだろう。

 念には念をだ。こいつのプライドを刺激して、不必要な破壊行動は避けてやる。

 それに、


「周囲100キロの地形には 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンを付与している。だから、絶対にザウスタウンの場所はわからないようになっているのさ」


「ふん。くだらん小細工を」


 そうでも、ない。

 実はザウスタウンは1000キロ先の場所に存在しているんだ。

 100キロ以内と、1000キロ先とじゃあ10倍以上は違うからな。


 さて、街の安全は確保できた。次はどうやって倒すかだな。


「ブラァア……。街の破壊などはくだらんさ。おまえを倒せばわれの物になるのだからなぁ」


「……そういうことさ」


「だったら、決着をつけようじゃないか」


「だな」


 ヘブラァはフッと姿を消したかと思うと、瞬時にして俺の眼前に現れた。

 動きが速すぎて見えない。


「ブラァアアッ!!」


 それは単なる拳の攻撃。

 しかし、やつのレベルは100億だ。対する俺のレベルはレベル7920万。

 とても敵う次元じゃないよ。一撃でもガードすれば相当なダメージを覚悟しなければならんだろう。


 俺の体はグニャリと曲がって消滅した。


「ちぃ……!  物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンか」


 そういうことだ。幻影を作る魔法で自分そっくりの体を作った。

 本体の俺は、そこから100メートル離れた場所にいるのさ。

 俺はヘブラァの後ろに新しい自分の幻影を作った。


「ブラァアア! それでも魔公爵かぁあああ!? 本体が出て来て正々堂々と戦え!!」


「まぁ、これも戦法の一つさ」


「……くだらん。どうせ貴様も幻影だろう」


 ヘブラァは目を凝らす。

 すると、幻影のチラつきを見抜いた。


「チィイ! ならば感知スキルで──」


 その瞬間。

 ヘブラァは黒い斬撃に囲まれる。

 それは360度。全方位から。


 一撃がレベル7億9千の斬撃。それがダークスラッシュ。

 そんな斬撃のラッシュさ。

 その名も──。


「ダークスラッシュ 流星メテオ


 100発は撃ったからな。

 レベル7億9千レベル × 100発。つまり、総合ではレベル790億の斬撃って計算になる。

 まぁ、やつのステータスの詳細がわからないからなんともいえないがな。たとえレベル100億だろうと、無傷ではいられんだろう。


 ヘブラァはそんな斬撃を一斉に浴びた。

 それは巨大な爆発を起こす。 

 漆黒の爆炎が吹き荒れる。


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ふむ。半分以上は命中したな。

 一撃なら簡単に薙払えた斬撃だろうと、流石に100発はキツイよな。

 ここまで高次元の戦いとなると一瞬の隙が命取りになるのさ。


 煙が消えると、中から傷だらけのヘブラァが現れた。

 それは血だらけで肉が削げ落ちで骨まで見えそうな勢いである。

 しかし、


「ブラァ……。 最上級エキストラ 回復ヒール


 やれやれ。

 一瞬で回復か。

 以前として無傷だな。

 

「ふん。技の連撃で工夫したのか……。認めてやろう」


 俺は幻影で答えた。


「そりゃどうも」


「本気でやってやろうか?」


「…………」


「ククク。われが本気を出せば、貴様も、貴様の領土も。一瞬で無と化すのだぞ」


 やれやれ。

 こいつが言っていることは本当だ。

 ダークスラッシュ 流星メテオを喰らって肉体が残っていたことがなによりの証明。

 本来ならば魂さえも消滅する威力。肉体が残るほどのダメージしか与えられなかったのだからな。

 レベル100億の強さは伊達じゃない。


「そうだ。チャンスをやろう」


「ほぉ……。気前がいいんだな」


われは優しいのさ」


「だったら、たくさんくれるとありがたいな」


 ヘブラァは目を細めた。


「……降伏しろ」


「それがチャンスか?」


「貴様の命が唯一助かるチャンスさ」


「…………」


われには部下がいない。全て吸収してしまったからな。そこでおまえが部下になれば幹部クラスは確約されるのだ」


「ほぉ」


「大チャンスだぞ?」


「なるほどな」


「ククク。さぁ、誓うのだ!」


「却下だ」


「んぐ! いいのか? 貴様と仲間が助かるチャンスだぞ?」


「貴様の配下になっても、俺たちに利益なんてないさ」


「ふん。後悔するがいい。地獄の曲を奏でてやるさ」


「攻撃が当たらなけば意味はないだろ?」


「ブラハハハァ! 貴様の本体の位置などぉ。とっくの昔に把握しているのだぁ!」


 突然、頬に強烈なダメージが走る。


 うぐぅ!


 気がつけば、ヘブラァの拳が俺の頬に命中していた。


 どうやら、実体を隠すことは通用しないようだ。

 レベル100億に小細工は通用しないか。


「ブラハハハハハハハァアアア!!」


 拳の連撃。

 早すぎて目が追いつかない。

 

 しかし、クリーンヒットは避けれている。

 奴の拳が、俺の体に触れる瞬間。小さな門を出して、それで防御できているからだ。


「ふん! 魔防門まぼうもんか! 打撃の威力を亜空間に吸収する究極の打撃防御魔法だな」


 そういうことだ。

 巨大な魔法攻撃を無力化するのは 全ての攻撃を無力化する門ディフィーザンスゲート。打撃に特化した小さな門が魔防門ってことだ。レベル100万くらいの攻撃なら余裕で無力化する。

 ……100万くらいならな。

 

「くだらんな。こんなもん」


 奴は少し力を増しただけ。たったそれだけで、魔防門を破壊して、俺の体に拳を叩き込んだ。


「ぐはぁあ!」


 骨は折れたが、辛うじて防御できた。受けたダメージは、 最上級エキストラ 回復ヒールで瞬時に回復できるから問題ない。

 魔防門が効果を発揮している。わずかだが打撃威力を吸ってくれているのだ。

 もしも、この門がなかったら、俺の体は一瞬にして貫かれていただろう。

 とにかく凄まじいパワーなのは間違いない。

 だったら、数で勝負だ。


 俺の前には、小さな門が大量に発生した。

 それは俺の体を覆い隠すよう。千個以上は発生しているだろうか。まるで、大量に発生した蝶が、俺の体を覆い隠しているようにさえ見えた。


「ふぅ……」


 これだけあればちょっと休憩ができるか。

 受けたダメージは 最上級エキストラ 回復ヒールで回復してっと。


「ほぉ。魔防門の大量発生か。とにかく数で受け切ろうとう作戦だな? くだらん」


ボロォン!


 ヘブラァはリュートを鳴らした。

 すると、音波の衝撃が発生。それは一瞬にして俺が作った魔防門を破壊した。

 まるで連発する花火のように、ドパドパっと音を立てて、全ての門が木っ端微塵に弾け飛ぶ。


「ぷはっ! 防御手段がなくなったなぁ。ザウスよ」


 やれやれ。


「そらぁああ! どうやって防御するんだぁあああ??」


 そりゃ、モロに食らうしかないわな。


ボコォオオオオオオオオオオッ!!


 と食らうや否や。

 俺の体は消滅した。

 なにせレベル100億の一撃なのだ。

 まともに食らえば肉体を保てるわけもなく──。


 しかし、俺の体はグニャリと曲がって、まるで蜃気楼のように消滅した。


「ブラァアッ!?  物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンか!?」


 はい。正解。


「魔防門を大量に発生させたのは、防御するためじゃなかったのか!」


 それも正解。


 さて、次はわかるかな?


「なにぃいいいい!?」


 ヘブラァは黒い斬撃に包囲されていた。

 それは無数の──。


 さっきは100発だったからさ。


「今度は1000発に増やしてみた」


 レベル7億9千レベル × 1000発。


 だからな。

 実質総合はレベル7900億の斬撃って計算になる。


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 時間は十分に稼げたさ。

 ほんの数秒あればこういう攻撃ができるんだからな。


「ブラァアアアッ!! われも魔防門が使えるのだぁああああ!! こんな斬撃ぃいいいいいいいいい!!」


 と、魔防門を出現させるも、


 ああ、一手遅かったかもね。

 高レベルの戦いはさ。0.1秒が命取りなんだ。


ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!!


 はい。全弾命中。

 技名を付けるならそうだな……。さっきの100発は超えているから……。

 ダークスラッシュ、スーパー流星メテオ。に、しておこうかな。

 究極の呪い武器。デーモンソードが放つ黒い斬撃のラッシュだ。





「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」





 ヘブラァは漆黒の爆炎に包まれた。


 さて、倒したかな?


 黒煙が風に吹き飛ばされていく。


 わずかに見えるのは指──?


 それはボロボロで、肉は削がれて中の骨がわずかだが見えている。

 それはわずかだが動く。

 

「ま、まだ終わらんさ。ブラァアアア……」


 やれやれ。

 しぶとい奴だな。

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