第117話 高レベルの戦い

 ザウスは安堵する。


「こんなこともあろうかとな。 土人形ランドールはあらかじめ作っておいて亜空間収納箱アイテムボックスに忍ばせておいたのさ」


 しかも、その 土人形ランドールとは通信ができるように設定していた。

 よって、ヘブラァの会話は丸聞こえだったのである。

 

「やれやれ。レベル100億か」


 面倒くさそうに頭をかく。

 それは自分の思考を整理するような独り言だった。


「俺がデーモンソードを装備した状態で戦えばレベル7920万で戦うことが可能だ。レベル100億 対 レベル7920万になる構図だがな。なにも絶望することはない。歴史のドラマでこんなのがやっていた。『沼田城の戦い』。その戦では2千人の兵士で7万人の軍勢に勝ってしまったそうだ。その差、実に35倍。そんな兵力差でもな。応用ができれば勝てるんだよ」


 これは彼が以前から考えていたことである。

 もしも、魔王が自分より強かった場合の戦略だったのだ。

 咄嗟に思いついた戦略ではない。

 念には念を。以前から周到に練られていた作戦の一つであった。


 と、丁度その時。

 神聖ヘブラァが現れた。


「ブラァアアア!! 見つけたぞザァアアウウスゥウウウ!!」


「よぉ。遅かったな」


「ま、街が復活している……!?」


「ああそうだな。おまえがレベル100億を自慢している隙にな。元通り再生させてもらった」


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ザァアアアアアアアアアアアアアアウスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」


 ヘブラァはリュートをポロンと一弾きした。

 すると、巨大な衝撃波が発生してザウスタウンを爆発させる。


「ギャハハハァアアア!! こんな街ぃ! 何度でも破壊してくれるわぁああ──んん!?」


 と、目を疑う。

 それもそのはず。

 爆破した街が、土煙の中から無傷の状態で出現したからである。その光景にはノイズが走り、若干のチラつきを見せる。


「イ、 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョン……だと!?」


「まぁ、そういうことだな」


「ど、どういうことだ??」


「本物の街はすでに再生済みなのさ」


「な、なにぃいいいい!?」


「おまえの知らないどこかでな」


「ブラァアアアアアッ! 本物の街を 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンで隠したのかぁああああああ!?」


 ザウスは珍しく胸を張った。

 その気持ちは、昔の自分に戻っている。

 あまたのボスを倒し、ゲームを攻略してきた自分への誇り。


「ゲーマーの努力。舐めんなよ」


 彼はしてきたのだ。

 この戦いに向けて。

  土人形ランドールを相手に組み手をやってレベルを上げ、 七段階強化チャクラ イヴォークを2段階まで習得して、更に強さを増した。超キングメタルヒトデンを狩りに狩りまくって、領内一のレベルにまで到達したのはいうまでもない。

 強さは限界まで到達。

 そして、作戦は念を押して。


 彼は、この日のために努力してきたのだ。

 ザウスタウンが 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンに包まれているのは、敵が自分のレベルを上回った際の、作戦の一つなのである。

 ついさっきレベル100億になったヘブラァと、以前からレベル7920万だったザウスとは大きな壁があるのだ。


「周囲100キロを 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンで包み込んだ。本物のザウスタウンは、何気ない景色に擬態しているよ。おまえにはわからない、どこかの場所でな」


「クソがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! ブラァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「おっと、先に確認しておくがな。闇雲に地上を攻撃するのはバカのすることだぞ


「は!?」


「まぁ、俺はいいんだ。場所がわからないんだもんな。力任せに広範囲を攻撃する方法もあるだろう。数撃ちゃ当たるかもな。しかし、それでもしも、破壊できなかったらどうするんだ? はっきり言えば無能中の無能。確実に無能判定をさせてもらうからな」


「な、な、なにぃいいいいいいいいいい!?」


「考えてもみろよ。自分の領土になるかもしれない場所を不必要に破壊するんだぞ? なんのメリットがあるんだよ?? 支配者としては愚行だろう。場所がわからないから闇雲の広範囲攻撃か……。うん、誰だって思いつく攻撃方法だな。子供だって思いつく手段だ。まさか、ははは。そんな安易な攻撃。吟遊の神聖ヘブラァはやらないよな? レベル100億だもんな。ふふふ」


「うぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅううううううううう……!!」




ーーセキガーハラ平原ーー


 アルジェナたちはザウスの身を心配していた。


 望遠魔法で様子を見ていた大賢者カフロディーテは汗を垂らす。


「魔王のレベルは100億じゃ」


 みんなは大声を張り上げた。


「「「 ええええええええ!? 」」」


「反則やないか!! モンスターを吸収して自分だけ強くなるなんて狡すぎるで!!」

「ザウスさん……。心配です」


「ふふふ。しかし、流石はザウスじゃよ。いい勝負をしておるのじゃ」


 モンスターたちは天に祈る。

 魔神殺しのアルジェナは拳を叩いた。


「うう。悔しいわね。あたしたちが加勢できればいいんだけど」


「レベル100億ゴブよ。オイラたちの力じゃ、とても力になれそうにないゴブ」


 獅子人のガオンガーは思いついたように、


「でもよぉ。ザウスの旦那はデーモンソードがあるんじゃねぇガオ? それ使って、ダークスラッシュを撃てば20倍の攻撃ができんじゃねぇか」


「もう使っておるよ。それでもザウスのレベル7億9千レベルじゃからな。神聖ヘブラァは片手で弾き飛ばしたわい」


「「「 ひぃえええ…… 」」」


「とても、真っ向勝負では勝てそうもないのじゃ……」


「で、でもよぉお。そんな状態でいい勝負って、どういうこったい??」


「ふむ。みんなにも見えるようにしてやろうか」


 カフロディーテは望遠魔法を空中に表示させた。

 それはドームに設置される中継テレビのような大きな画面。若干のノイズを出しながらもヘブラァとザウスの2人を映しだす。


「ふむ。まぁまぁの画質じゃの。わしの魔力はザウスの力に焦点を絞ってこの映像を映し出しておる。2人の動きが早過ぎて見失う時もあるがの。大方、この映像でなんとか状況は把握できるじゃろ」


 場内からは大歓声が湧き起こる。

 ザウス重騎士団のオークたちは大喜び。


「ザウス様。ご無事だブゥウウ!!」

「ザウス様。無傷だブゥウウウウ!!」

「レベル100億にすごいブゥウウウウ!!」

「ザウス様、がんばれぇええええええええええええええ!!」


 みんなは、ザウスの勝利を祈るのだった。

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