第116話 神聖ヘブラァのレベル


 吟遊の神聖ヘブラァは、弦楽器のリュートをポロンポロンと奏でながらニヤリと笑った。


「ふふふ。力の使い方に慣れてなくてね。新しい力を試したいんだ」


 今は レベル20倍強化セカンドバーストの発動中。

 よって、レベル3960万になっている。

 俺もこいつ同様、これだけのレベルで敵と戦うなんてまずないからな。バトルを楽しみたい気持ちがないわけではない。

 とはいえ、こちらはタイムリミットがあるんだ。

 こいつが消滅させたザウスタウン。再生させるには 時空修復タイムリペアを使う必要がある。

 その時間が3分以内と決まっているんだ。

 ザウスタウンの領民32万人の命がかかっているからな。楽しんでいる場合じゃないのさ。


 俺のステータス画面には時間の表示があるからな。

 これを利用すれば、 時空修復タイムリペアのタイムリミットがわかるんだ。

 ザウスタウンが消滅したのがこの時間だから……。残り時間は2分5秒といったところか。

 もう時間がないぞ。

 時間がすぎれば時空は記憶を定着させてしまう。

 ザウスタウンが消滅した時空は定着して、時間を戻すことができなくなるんだ。

 だから早く──。


「君の曲を奏でてあげよう!! 死の曲をね!!」


 魔王の打撃攻撃。


 速い……。


 ガードに徹する。

 それを見越したのか、連打がきた。


バババババッ!!


 すべて受け切るが、一撃が重い。

 急所である、顎、後頭部、溝内、股間。それらを守るようにガードを決め込む。

 急所に入れば一撃で勝負が決まってしまう。なんとしても急所へのクリティカルヒットは避けるんだ。


「ハハハ! どうしたザウス君。攻撃してこないのかい? ブラハハハ!」


 攻撃が速すぎる。

 防御だけで精一杯だ。

 一旦、距離を取る。


 俺は 飛行フリーゲンの魔法を駆使して、やつから距離を取った。


「あれ? 逃げるのは卑怯だよ。ザウス君」


 腕が動かない……。

 骨がボロボロに砕けているんだ。


最上級エキストラ 回復ヒール


 よし。回復魔法で全快した。

 以前としてノーダメージだが、やつの攻撃力が強すぎる。

 時間がないんだ。一撃で決めてやる。


 俺は亜空間から漆黒の剣を取り出した。


「デーモンソード」


 この剣の効果でレベルは2倍になる。

 よって、レベル7920万だ。

 そして、デーモンソードから繰り出す剣技は10倍の威力を持つ。

 つまり、実質レベル7億9千万の斬撃──。




「ダークスラッシュ」


 


 それは凄まじい斬撃の波動だった。

 明るかった空の光を吸収し、すべてを闇が包み込む。

 漆黒の稲光をバチバチと発する。

 その斬撃は嵐を纏い、轟音とともに相手を襲う。

 触れずとも、近づくだけで肉体は消滅する。

 しかし、ヘブラァは避ける気配がない。いや、そんな余裕がないのかもしれない。


 よし、命中する。


「ブラァアアッ!」


 なに!?

 片手で薙ぎ払うだと!?


 ダークスラッシュの斬撃波動は消滅した。


「あれぇえええ? ザウス君。もしかして、さっきの攻撃がとっておきだったのかなぁ?」


「…………」


 さぁ、困ったぞ。どうするか?

 タイムリミットが1分を切った……。59秒、58秒、57秒……。

 

われを失望させないでくれよなザウス君。ふふふ。われはまだ、半分の力も出していないのだからな」


ポロンポロンポロン……♪


 やれやれ。

 嫌な情報を聞いた。

 

「そうだ。参考までにわれのレベルを教えてやろうか?」


「聞きたくない、といっても言いそうな勢いだな」


「ククク……」


 ヘブラァはリュートを奏でるのをやめて、自慢げに笑う。





われのレベルは100億だ」




 

 残り時間……。10秒、9秒、8秒……。


 静けさの中。

 再びリュートの音が鳴り始めた。




〜〜3人称視点〜〜


 神聖ヘブラァは無邪気に笑う。


「クハハハ! 大丈夫! 安心しなよ。全力でやらないからさ。ハハハハ!」


 その笑いは激しさを増した。


「あ、ダメだ。止まらん! ブハハハ! 腹痛い。クハハハ!! ブラハハハハーーーーッ!!」


 それもそのはず。

 彼は知っていたのだ。


「ザァアアウス君。時間を気にしていただろう? クハハハ! ザウスタウンが破壊されてなぁああ。ククク。それを復活するのに時間を気にしていたんだよなぁああ?」


 ザウスは黙ったままだった。


「グハハハハ! 3分だよな? プクク。 時空修復タイムリペアで時間を戻せるのが3分だもんなぁああああああ!! グハハハハァアアアアアアアアア!!」


 空中で笑い転げる。


「ヒィーー! 腹痛い……! ククク。もう3分は過ぎたよなぁ? クハハハ! 終わったなぁ! グハハハハハ!! 絶望だなぁあああ!! 32万人を助けられなかったんだ。グハハハハ!! 笑いが止まらん!!」


「…………」


われが知っている理由を説明してやろうか。ククク」


「…………」


われも使えるのだよぉ。ククク」


「…………」


時空修復タイムリペアわれも使えるようになったのだよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!! レベル100億だからなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ポロポロポロポロ♪

 ジャカジャカジャカ♪


「絶望だなぁああ!! ザウス君んんん!! ザウスタウンは消滅して、32万人はあの世逝きだぁあああああ!! ブラァアアアアアアアアアアアアアア!! 声も出ないかザウス君んんんんん!! 聞きたまえ! これが絶望のリュートだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「…………」


「絶望しちゃうよなぁ! われのレベルが100億だもんなぁああ!! グハハハハ──ッ!? ブラァッ!?」


 ふと、違和感に気が付く。

 ザウスの反応が妙に弱いのだ。

 生物にはあるまじき、無機質な感じ。


「な、なんだ? ザウス??」


 目を凝らすと、それは人形だった。


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 と、手で薙ぎ払う。

 すると、ザウスの上半身はいとも簡単にもげた。中から出てきたのは土である。


「ブラァアッ!  土人形ランドールだ!!」


 そう、それは修行の時に使っていた土属性魔法で作った人形だった。

(参考55話)

 正体がバレた人形は、たちまち、土色の肌に変化した。

 

「チィイ!!  土人形ランドール 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョンをペーストして実体に見せていたなぁああああ!!」


 さて、いつの間にすり替わったのであろうか?

 当の本人は一体どこに?


「騙しおったなぁああああ!! ザァアアアアウスゥウウウウウウウウ!!」


 ヘブラァの声は大空に響く。


 そんな中。

 ザウスは300キロ離れた先の上空にいた。


「ふぅ。間に合った」


 地上には見事に復活したザウスタウン。

 街中には3分前と変わらず、32万人の領民たちが生きている。

 神聖ヘブラァが消滅させた街が、 時空修復タイムリペアによって元通りに再生させられていたのである。


「ふふ。ダークスラッシュを撃った瞬間にな。 土人形ランドールと入れ替わっていたのさ」


 そう。彼はあの一瞬に 加速アクセル 帰還魔法リターンを使って移動していたのである。


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