第115話 吟遊の魔王、神聖ヘブラァ


〜〜ザウス視点〜〜


 それは真っ白い魔王だった。

 身長2メートル程度。

 以前の奴に比べれば随分と小さくなったがな。

 おそらく魔王ヘブラァ……だと思う。

 顔立ちの基礎は同じだ。

 ただ、色が白い。驚きの白さ。全身真っ白。


 持っているのは弦楽器だ。

 アコースティックギターみたいな。

 たしか、リュートと言ったっけ。ザウスタウンで演奏する人間を何人か見たことがある。


ポロンポロンポロン……♪


 ヘブラァはリュートを奏でるのをやめてニヤリと笑った。


 その笑みに汚れはなく、妙な透明感を覚える。


「やぁ」


 それは、まるで級友に挨拶をするように。

 本当に気さくな感じだった。


「おまえ……。ヘブラァか?」


「……そうだよ。すべての魔族を吸い込んだね」


「…………」


 ステータスが無いな。

 どういうことだ? まるでモブキャラじゃないか。


「レベルの概念は天啓によるものだということを知っているかい?」


「……ああ、そうだな」


 まぁ、天啓というか、ゲームを作っている制作会社というかだがな。


われはその概念を打ち破ったらしい」


「……なるほど」


 だから、ステータスがないのか。

 つまり、文字通り規格外ってやつだ。


「少し力を見せようか」


 ポロン、とリュートの弦を鳴らす。

 すると、俺の真横に衝撃波が発生し、それは地面を抉って遥か先まで見えないほどの溝を作った。


 ……これくらいのことは俺でもできるが?


「この先になにがあるか知っているか?」


「……ザウスタウンだな」


 しかし、街の前にはオークの 贅肉の防御ファットガードがあり、その前には俺が作った 全ての攻撃を無力化する門ディフィーザンスゲートが存在する。

 攻撃を加えたところでなんなく防御できるはずだが……。なんだ、この違和感? まるで、 全ての攻撃を無力化する門ディフィーザンスゲートが破壊されたような、不思議な感じだぞ。

 魔王の発生させた衝撃波は全て、俺の防御魔法で無力化するはずだが、この感じ……妙だ。


 望遠魔法で遠くの状況を確認していたサイ蔵が、血相をかけて大きな声を張り上げた。

 

「ザウス様ぁああ!! ま、街がぁあああ!! ザウスタウンが消滅してしまったでござるぅううう!!」


 やれやれ。とんでもないことになったな。

 あの一瞬で、俺の 全ての攻撃を無力化する門ディフィーザンスゲートを破壊し、オークたちの 贅肉の防御ファットガードをも通過したということか。

 確実にパワーアップしている。さっきの魔王ヘブラァとは比べものにならないくらいな。


「ククク。ブラァ。失った領民たちの命はわれが曲にして奏でてやろうか」


ポロンポロン♪


 余裕の笑みを見せる。

 俺が汗をかくのを待ち望んでいるかのようだ。


 ふぅ……。落ち着け俺。

 今、パニックになれば、全員が殺される。

 ザウスタウンの修復は、俺が レベル10倍強化ファーストバーストを発動して、 時空修復タイムリペアの魔法を使えばなんとかなる。

 3分ルール。本来、 時空修復タイムリペアは破壊された時間と空間を治す魔法だが、応用的に3分以内なら、どんな状況だって元の時間に戻すことが可能なんだ。

 ダメージを受けた領土だけに 時空修復タイムリペアを使えば3分だけ時間を戻すことができる。しかし、3分をすぎれば時空の記憶状態が消滅して戻すことは不可能になるんだ。

 

 ここからザウスタウンまでは300キロ以上はあるだろうか? 音速の移動でも相当な時間を食うだろう。

 しかし、距離は問題ではない。

 究極移動魔法 加速アクセル 帰還魔法リターンを使えば1秒以内で戻ることが可能だ。よって、移動の時間は考慮しなくても済む。

 現場に行って、被害を目視で確認し、 時空修復タイムリペアによって3分前の状況に戻す。これができれば以前としてノーダメージだ。

 必要なのは3分以内に現場に着くこと……。

 


「フフフ。われのことは、神聖ヘブラァ。と名乗らせてもらおうか。曲を奏でながら世界を再構築する……。そうだな……吟遊の魔王、神聖ヘブラァだ」



 名前なんてどうでもいいさ。

 ……今、ここを離れるわけにはいかない。

 俺が 加速アクセル 帰還魔法リターンを使えば、ここにいる部下たちがどうなるかわからない。

 慎重に隙を見て移動する。残り2分と50秒……。

 会話をしながら隙を探る。


「神聖とは、清らかで汚れがないということだ。おまえは、ザウスタウンに住む32万人の命を奪ったんだ。神聖とは程遠い」


「ククク。清らかで汚れなんかないさ。われは純粋な『悪』だ」


「なるほどな」


「全てを破壊して、再構築してやるさ」


「そんなことはさせん」


「力を試したくなった。協力してくれないか? ザウス君」


 リュートの音がやむ。

 突然。やつの拳が俺を襲った。


ドンッ!


 速い!!

 しかも、圧倒的パワーだ。


 ギリギリ防御できたが、すさまじいスピードでぶっ飛ばされている。

 以前のヘブラァとは比べ物にならん。


 咄嗟に レベル10倍強化ファーストバーストを発動していたが、素のレベルなら体ごと消滅していたな。


 俺は 飛行フリーゲンの魔法を使って、空中に静止した。


「おやおや。到着が遅かったなぁ。ザウス君」


ポロ〜〜〜〜ン……♪


「ははは! もっと力を試させてくれよぉおお! ザウスくぅううん!」


 やつの拳が再び俺を襲う。

 なんとか防御はできているが、軽く叩くだけで、凄まじい激痛だ。

 瞬時に回復魔法を使っているが追いつかない。


 だったら、マックスパワーでやってやる。



七段階強化チャクラ イヴォーク  レベル20倍強化セカンドバースト!!」



 これで、俺のレベルは3960万だ。


 真剣バトルでここまでの状態になるのは初めてのこと。

 さて、魔王は──て、

 

「あれ……?」


 ヘブラァは上半身が吹っ飛んでいた。

 下半身からピューーっと真っ黒い血が噴き出ている。


 どうやら、 レベル20倍強化セカンドバーストを発動した衝撃で、やつの上半身が消滅したっぽいな。

 もしかして、勝ったのか?

 これなら、すぐに移動してザウスタウンを元に戻せる!


 しかし、ヘブラァは傷口をウニョウニョとスライムのようにうねらせて、肉を増殖していった。

 それは瞬く間に上半身を形勢し、元の姿に戻る。

 魔王が持つ、超自己再生能力だ。チートにもほどがあるよな。


「まぁ、そんなに甘くはないか……」


「ブラァ……」


 ヘブラァは少しだけ不服そうな顔で俺を睨みつけていた。


 ザウスタウン再生までのタイムリミット。

 残り2分と10秒。

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