第107話 ザウス VS 魔王


〜〜ザウス視点〜〜


 魔王ヘブラァは俺を挑発した。


「さぁ、ゲームは終わりだぁああああああ!! ブラァアアアアア!!」


 やれやれ。

 

「まだ、副将戦があるんだがな」


「まどろっこしいとは思わんか? お遊びはおしまいなのさ」


 ゲームはこいつが言い出したことなんだがな。

 まぁ、そのおかげで領民の避難は完了した。

 いい時間稼ぎにはなってくれたよ。

 これでめいっぱいやれるな。


「どうしたザウス? われと戦うのが怖いのか? ククク」


「…………」


 怖くない、といえば嘘になるな。

 戦いはなにが起こるかわからない。

 それは、レベルの差があっても負ける可能性があるということだ。

 事実、フグタール戦がそうだった。

 彼女と戦った獅子人のガオンガーとゴブリンのゴブ太郎は、彼女よりも確実にレベルが上だったはずだ。

 しかし、負けた。

 つまり、戦いにおいて、負ける可能性はゼロではないのだ。


 魔王のレベルは隠蔽の魔法によって見ることはできないが、これは逆をいえば好都合ともいえる。

 魔王のレベルが俺より高ければ、シンプルに脅威に感じてしまうし、俺の方が高ければ油断してしまうだろう。

 つまり、レベルが見えないということは、必然的に慎重にならざるを得ないのだ。これは好機といっていい。


 慎重に行く。

 勇者セアと戦った時よりも、数十……、いや、数百倍慎重に進む。

 全身の注意を研ぎ澄まし、絶対の勝利を確信するまでは安心はできない。


 これは負けられない戦いなのだ。

 俺が負ければ俺の全てが魔王に奪われる。

 仲間も領土も、なにもかも。

 そんなことはさせない。

 俺は絶対に勝つ!


 瞬間。


 巨大な衝撃波が俺の横をかすめた。

 それは大地を抉り、山を削って遥か先まで飛んで行く。


 どうやら、魔王の人差し指から発生させた衝撃波のようだな。


 なんのつもりだ?


「ブラァアアアアアアアアア……!」


 と、舌を出してニヤニヤと笑う。


「す、すげぇえ、威力だブゥ……」

「さ、流石は魔王様だドラ」

「あんなの食らったらひと溜まりもないブゥ」

「お、おそろしいドラ」


 ……いや、全然すごくないだろ。

 食らったところで痛みすら感じないはずだ。

 一体どういうつもりなのだ??


「クククク。ブラァアアア。挨拶さ。ククク」


 あ、挨拶だと?

 戦う前の準備運動的なやつか?

 そ、それにしてはしょぼすぎる……。

 いや、待て待て。

 俺を油断させる作戦かもしれないぞ。


 よし。

 じゃあ、俺もやってやる。

 

 俺はデコピンを空に放った。


 すると、連動して、衝撃波が生まれる。

 それは魔王の横をかすめて飛んでいった。



ドドドドドドドドドドドドドォオオオオオオオン!!



 くっ!

 しまった失敗だ。

 同じくらいの衝撃波を出すつもりだったのに!!

 

「ゲェエエエエ! ザウス様のが強い衝撃波ブゥウウウ!!」

「ま、魔王様より数十倍の威力ドラ!?」

「もう全力で戦っているのかブゥウウ!?」

「す、凄まじいドラ!」


 い、いかん。

 これは誤魔化しが必要だ。

 こんなところでひよってどうする。


「じゅ、準備運動だ」


「ブラァアアアアアア!! な、なにが準備運動だぁあああ!! おもいっきりやったくせに!! 見苦しいぞ!!」


「くっ……」


 もう騙し合いは始まっているのか……。

 魔王の言うとおりだ。

 これは準備運動なんかじゃない。


 準備運動の前段階の準備なんだからな。

 

 こんなパワー調整もできないようでは舐められてしまう。


「ブラァアアア! 調子に乗るんじゃないぞ。雑魚魔族がぁ」


「…………」


 ちょ、調子に乗る余裕なんてない。


「ククク。いいだろう。力の差というものを見せつけてやる。われは片手しか使わん。これならば我を倒すチャンスだぞ。ククク」


「ほぉ。サービスがいいんだな」


「クハハハ! 絶望を与えてやる!! 我にダメージを与えることができるかな?」


「…………」


 油断させる作戦か? それとも罠?

 まぁ、いいさ。

 どちらにせよ、俺から攻撃を仕掛けられるのは好機だ。


 よし、行くぞ。


「ブラハハハッ! さぁ、来るがいい。雑魚の攻撃なんぞ片手で受けきってくれるわ!!」


 俺はやつの頬に向けて拳を放った。

 もちろん、軽くだ。

 余力を残すことは最も優先される行為。

 神経の集中を他の動きにも張り巡らせる。魔王を注意深く観察するんだ。

 どんな罠であろうと、対処できるように柔軟に。


 俺の拳は魔王がガードする右腕にめり込んだ。


ベキィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 や、柔らかい……。


「ぬぁんだとぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 その拳は右腕を貫いて魔王の頬に到達。


ベゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!


「へげゃああ……!!」


 そのまま顔面を粉砕した。


 え?




バション……………ッ!!




 が、顔面を破壊してしまった……。


「げぇえええええ! ザウス様すごいブゥウウ!!」

「魔王をやっつけたブゥウウウウウウウ!!」

「魔王様ドラァアアアア!!」

「そんなぁああああああああああああ!!」


 いやいやいやいや。

 どうなっているんだ!?


 その時。

 瞬時にして魔王の顔面は再生された。


 お!

 超自己再生能力だ。

 魔王の設置スキルだな。


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! なぜだぁあああああああああ!? なぜ雑魚魔族が魔王であるわれに攻撃が通るのだぁあああああ!? こんなことはあり得ないぃいいいいいいい!?」


「いや……。そういわれても」


 プリンみたいに柔らかかったしな。


われには 魔王壁デヴォルウォールがあるのにぃいいい!! ダメージを与えられるのは勇者だけなのだぁああああああああああああああッ!? ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ああ、そういうことか。

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