第106話 フグタール VS アルジェナ


〜〜魔神殺しのアルジェナ視点〜〜


『さぁ、続いては、参謀のフグタール選手と魔神殺しのアルジェナ選手の戦いや! その前にちょっと、宣伝やでぇ! キンキンに冷えたエールと旨みのギッシリ詰まった干し肉は魔公爵ギルドが売ってるさかいな。ぜひ、購入して観戦したってやぁ!』


 ったく。

 ナンバったら、ここに来てまで商売をするんだから、キモが座っているわよね。



『第四試合の開始やでぇええ!!』



 よぉし、やってやるわよぉおおお!


「ふふふ。勇ましいのね。おブスさん」


 むぅうう!


「あんたってば、よほど見た目に自信があるのね」


「ほほほ! 当然でしょ。あなたとは体のできがちがいますのよ」


「ふん。じゃあ、その自慢のボディをギッタンギッタンに斬り刻んでやろうかしら?」


 あたしは剣を構えた。


「ふふふ。できるものならやってみなさいな。その剣で自分の体を斬るように仕向けましょう。 魅了眼チャームアイ


 フグタールの瞳がピンク色に輝く。


「ほほほ! バカというか無謀というか。魅了の魔法を使う私を直に見るなんてねぇ。さぁ、操ってあげましょう」


「ふーーん。あたしを操るねぇ。どうやってやるんだろ?」


「な、なに!?  魅了眼チャームアイが効いていない!? 私の瞳を見たはずなのに!?」


「相手の実力がわからないことの方が滑稽だとは思うけどね」


「ど、どうして!?」


魅了チャーム系の魔法は 魔法マジック 防御ディフェンスで防ぐことができんのよね」


魔法マジック 防御ディフェンスですって!? いつの間に発動していたの!?」


「この試合が始まる少し前からね」


「で、でも、魔法壁が見当たりませんわ! 透明の壁が出現するはずなのに!?」


「瞳の前にね。薄く小さな面積で魔法壁を張っているのよ」


「んぐ! 部分付与……。魔法を極めた者だけが使える究極の魔法技術……。まさか、あなたが使えるなんてね」


 ふふふ。

 レベル上げを頑張ったからね。

 超キングメタルヒトデンを狩りまくった成果で魔法の技術もグーーンと向上してんのよ。


「ほほほ! でも残念ね! 私の力は魅了魔法だけじゃないですわよ!」


 え?

 フグタールがいっぱい!?


『おおっこれはすごい!! 舞台上にフグタール選手がぎょうさん現れよったでぇええええ! 前回の試合でも使った幻影の魔法やな!! その数……。5、6、7、8……。30人以上はいるようや!』


 なな、


「どういうつもりよ!?」


「ほほほ。 物真似擬似映像魔法イミテーションヴィジョン。これで本物がどれかわからないでしょう?」


 そういってフグタールは大鎌を構えた。


「あなたの首をちょんぎってあげるわ」


 本物が隠れているってわけね。

 試しに1人を斬ってみると、それは蜃気楼のように消滅した。


「ほほほ。42人の幻影を出しましたわ。ちょうど「42」なら 42死にと読めますものねぇ。さぁ、本物はわからないでしょう? 死になさい!」


 ピュッ! と奴の鎌が私の肩をかすめた。


 やれやれ。


「結局、実体は1人でしょ? 幻影の攻撃は当たっても無害だしね。じゃあ、怖くないじゃない」


「ほほほ。でも、実体がわからなければ、本当の攻撃は避けれないですわ。喰らいなさい!  物真似擬似全方位攻撃イミテーションカーニバル! 今度は外しませんわ!!」


『ああっとぉおお!! 42人の一斉攻撃ぃいいい!! フグタール選手の大鎌が光るぅうう!! アルジェナ選手ピンチかぁああああ!?』


 ふふ。

 結局、目眩しか。


「大したことないわね」


「戯言をぉおおお! 死ねぇええええええええええええ!!」


七段階強化チャクラ イヴォーク  レベル10倍強化ファーストバースト!!」


 これであたしのレベルは240万よ!


「ほほほ! 42人の一斉攻撃は見切ることは不可能ですわ!」


「だったら42人を一斉に仕留めればいいだけじゃない」


「え?」


 レベル240万の必殺技ぁ。




「ブレイブスラッシュ!」




 それは強力な一閃だった。

 あたしが振り下ろした剣筋は、稲光を発しながら巨大な真空波を発生させる。それは42人のフグタールにダメージを与えた。


「ぎゃああああッ!!」


 41人が消滅して、1人だけがボロボロになりながらも床に倒れる。

 どうやら、こいつが本物のようね。


 んじゃ、とどめを……。


 と、思うやいなや、フグタールはすぐさま起き上がって汗を飛散させた。


「み、認めますわ!」


「はぁ?」


「あ、あなたは、つ、強いですわ!」


 認めるの早っ。


「……じゃあ、降参するの?」


「あは……あはは……。さすがにそんなことはできませんわ。魔王軍を代表する戦士は降参宣言なんてできませんもの」


「じゃあ、とどめを刺さないとね」


「ま、待ちなさい! このまま場外に出れば私の負けですわ!!」


 やれやれ。

 わざわざ場外負けにするのか。

 まぁ、魔王軍だって色々と事情があるようだしな。見届けてやるか。

 

「じゃあ、早く出なさいよ」


「おほほほ……。じゃあ、出ますわ」


 そう言って場外に向かって歩き始める。

 このまま舞台の外に出ればあたしの勝ちだ。


 と、その時だ。

 あたしの後ろから声がする。


「騙されましたわね」


 振り向くより早く、フグタールは大鎌を振り下ろした。


「場外に向かったのは幻影ですわぁああああ!! バーーーーカ! 本物はこっちですわぁ! あははは! 騙されましたわね! 死ねぇえええええええ!!」


 やれやれ。


「別に知ってたわよ」


「なに!?」


「だって、あんたの香水は匂いがキツイもんね」


「し、死ねぇええええええッ!!」


「後ろにいることくらい、とっくの昔に察知していたっての」


 あたしは大鎌の刃先をガシッと掴む。


「はい。残念でした。まともにやったら相当な実力差がありそうだね」


「げぇッ!? す、素手で掴んでる!?」


「どうやら、バカはあんたの方だったね。自分から外に出てりゃあ、痛い目みないで済んだのにさ」


「あわわわわわわッ!!」


「じゃあ、悪い子ちゃんにはお仕置きが必要だね」


「待っ、こ、降参しま──」


「ああ、それ遅いわ。降参宣言の受付時間は、さっき終わったところですから」


「ひぃぃッ──!」


 あたしの拳は彼女の顔面にめり込む。


「オラァアアアッ!!」


「はぎゃぁああああああッ!!」


 んじゃあ、


「正義の拳で、制裁タイム♡ いってみますか! ジャスティス アルジェナ マシンガンパンチ!!」


 拳の連打攻撃。


「オラオラオラオラオラァアアアアアアアアア!!」


「アベベベベベベッ!!」


「これは獅子人のガオンガーの怒りぃいいいいい!! オラオラオラァアアアア!!」


「あがががががががががががががががッ!!」


「ゴブリンのゴブ太郎を馬鹿にした分だぁあああ!! オラオラオラオラオラァアアア!!」


「ヌボボボボボボボボボォオオオ!!」


 綺麗な顔を重点的にめった打ちよ!!

 自慢の整った顔をスライムみたいにしてやるわ!


あたしの怒りもおもいしれぇええええええ!! オラオラオラァアアアアアッ!!」


「ウゲゲゲゲゲゲゲゲボァアアアアアアアアッ!!」


 そして、最後にぃいいいい! 

 悪を滅ぼす正義の鉄拳。


 渾身の一撃。


 あたしのアッパーはフグタールの顎にめり込んだ。


 あたしを騙そうとしたり、馬鹿にしたりコケにしたりぃいいいい。

 あたしのことをブスって言ったりぃいいい。


 正義の──





「なんか、ムカついた怒りだぁあああああああああああああああああ!!」




 

 フグタールは青空に飛んでいく。

 色気のない間抜けな声とともに。


「ほげぇらああああぁぁぁあ……!!」


 ふん! あたしを怒らせるやつは許さん。

 悪は成敗よ!!


 しばらくすると、場内にドスンという落下音が響いた。


『おおっとおおおおおお! フグタール選手、舞台外に落ちたぁあああああ!!!! 場外ぃいいいいい!! 勝者、アルジェナ選手ぅうううううう!!」


 ふぅーー。

 すっきりした。

 例えるなら、生理が終わった3日目の朝って感じね。


『えーー。次の試合は、アルジェナ選手と邪神龍 ジャルメ・ゲバザバハマール選手の戦いやで!』


 突然、魔王ヘブラァが立ち上がる。


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアア!! ぬぁああぜ魔王軍が負けるのだぁあああああああ!!」


 魔王は一瞬にして舞台を吹っ飛ばした。


 ええええええええ……!?


「くだらーーん!! もう、こんなお遊びはおしまいだぁあああああああああ!! 出てこいザーーーーウスゥウウウウウウウ!!」


 いや、あんたがやり始めたゲームでしょうに!

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