第104話 フグタール VS ガオンガー

〜〜三人称視点〜〜


 舞台に出たのは魔王軍参謀のフグタールだった。

 彼女は妖艶な淫魔。いわゆるサキュバスの種族である。


 中でも、彼女の才能は種族間では飛び抜けており。魔力、攻撃力と、ずば抜けて高い。

 いわば、サキュバスのエリートだった。


「うふふふ。いい男ねぇ」


 フグタールは、アイシャドウたっぷりの瞳でウィンクをした。

 露出の高い服装で、その美貌と合わさって、彼女の笑みは魅惑的である。

 街行く男がその仕草を見れば、誰もが振り返ってしまうだろう。

 まぁ、だがそれは、普通の男の場合である。

 獅子人のガオンガーは、目を細めた。


「気持ち悪いガオ。戦いこそが我が命。貴様の色仕掛けには乗らん」


「あらん。冷たいですわね」


 商人のナンバは魔法の拡声器、マイクを使って声を響かせた。


『魔王軍は参謀のフグタール選手対、魔公爵軍は獅子人のガオンガー選手! さぁ、第三試合の開始やでぇええええ!!』


 彼女の号令で互いが睨み合う。


「俺様は女でも容赦はしないガオォオオ!!」


「ふふふ。どうやらレベルは高いようですわねぇ。先ほどの戦いでかなりのステータスと見ましたわよ」


「だったら早めに降参するんだなぁああガオォオオオオオオオ!!」


「ふふふ。おそらく私のレベルでは勝てないでしょう」


「ガハハハ! だったらぶっ飛ばして場外にしてやるガオォオオオオ!!」


「正攻法ならね──」


 その瞬間。

 フグタールの瞳がピンク色に輝いた。


「── 魅了眼チャームアイ


 それを見たガオンガーは動きが止まる。


「か、体が動かねぇぇええええええ!!」


「ほほほほ! 私の 魅了眼チャームアイを見た者は体の自由が効かなくなるのよ!」


「ク、クソがぁあああああ!! チャームの魔法なんて俺様の力で解除してくれるガオォオオオ!!」


 ガオンガーの体からバチンバチンと火花が散りはじめる。

 それは 魅了眼チャームアイの呪縛を破壊するように見えた。


「あら、解かれるのも時間の問題かしら。でも、この一瞬が命取りなのよね。 究極アルティメット 雷魔法サンダー


 巨大な落雷がガオンガーを襲う。


バリバリバリィイイイイイイイイインッ!!


「ヌグォオオオオオオオ!!」


 その威力は凄まじく、一つの村ならば一撃で消滅してしまうほどの衝撃であった。

 ガオンガーの体は無事だったが、所々焼けこげて、それなりにダメージは通っているようである。


「ぐぬっぅう……!」


「やっぱりダメね。 究極アルティメット 雷魔法サンダーの威力ならば、レベル1万以下のモンスターは消し炭と化すのだけれど……。流石の防御力ね」


「ガォオオオ……!! ま、負けるかぁあああ!!」


(やれやれですわ。この動けない隙に色々な攻撃をしたいのですが、時間がないようですわね。早めに決着をつけないと 魅了眼チャームアイの効果が破壊されてしまいますわ)

「ほほほ! 散歩をしましょうか。さぁ、歩きなさいな」


「むぐぅううううううう!! か、体が勝手にぃいいいい!!」


『おおっとぉおおおおお!! ガオンガー選手、舞台の外側に向かって歩き始めたでぇえええええ!!』


「ヌグゥウウウ!! と、止まらないぃいいいい!!」


『あああああっとぉおおおお!! 場外に出たぁあああああああ!! ガオンガー選手失格ぅううう!! フグタール選手の勝利やでぇえええええええ!!』


 場内は沸いた。

 ガオンガーを嘲笑する者、フグタールを賞賛する者。

 主に盛り上がっているのは魔王軍側である。


 そんな中、ガオンガーはザウスに頭を下げた。


「申し訳ありません。旦那ぁあああああ!!」


「いや。2人抜きしてくれただけでも大きな成果だ」

(あの 魅了眼チャームアイ 魔法マジック 防御ディフェンスじゃないと防げないな。次鋒のゴブ太郎は防御魔法が使えないからな)


 ザウスはゴブ太郎を呼んだ。


「俺が付与してやるよ」


 と、手をかざした時である。


「ブラァアアアア!! ザウスよ。それは反則ではないのかぁ?」


「隠蔽の魔法は、すでに付与されているんだ。追加の 魔法マジック 防御ディフェンスくらいいいだろう?」


「隠蔽の魔法はチーム戦が始まる前から付与されていたからな。チーム戦のルールに追加の付与魔法はないのだよ。それが実力というものだろう? それとも、部下の実力に自信がないのかな? だったら卑怯な手段は使っても構わんがな。ククク」


 ゴブ太郎は勇ましく笑った。


「大丈夫ですよザウス様。オイラ、なんとかやってみるでゴブ!!」


 ナンバが次の試合の選手を紹介する。


『さぁ、第三試合は参謀のフグタール選手とゴブリン族のゴブ太郎選手やでぇええ!! ああっと、なんやぁ? ゴブ太郎選手、目に布切れを巻いてるでぇええ!! あれじゃあ前が見えへんでぇええええ!!』


 目に布を巻いて見えなくすること。それが彼の秘策であった。


「へへへ。これで 魅了眼チャームアイは効かないゴブ」


『ほな始めるでぇえええええええ!! 第三試合、スタートやぁあああ!!』


 フグタールは勝利を確信したように笑う。


「アハハハ。視界が殺された状態でどうやって私に勝つのかしら?」


 彼女がしなやかな腕をヒラリと動かすと、空中に100本を超える氷の氷柱が出現した。その尖った先はゴブ太郎に向けられる。


 そんなことを知らないゴブ太郎は力を手の平に集中していた。


「魔法は移動魔法くらいしか使えないけどさ。攻撃スキルは得意なんだゴブ」


「ホホホ。だから、なんだというのかしら? 対象の見えない攻撃が、私に当たると思って?」


「魔力集中ゴブ! はぁあああ……!!」


 フグタールは勝利を確信していた。

 それもそのはず。彼女のレベルは12万なのだ。

 

(フフフ。この勝負も勝ちましたわ。以前、カクガリィダンと戦ったゴブ太郎のレベルは4万が限界だったはず。私は3倍強い。くわえて視界が見えないのですからね。フフフ。負ける要素はありませんわ)


「私は3属性の魔法が使えますのよ。水、雷、氷とね。今、発生させた氷柱に雷属性を付与しましたわ。フフフ。お喰らいなさい! ボルティックアイスニードル!!」


 氷柱はゴブ太郎に向かう。

 その瞬間。

 ゴブ太郎は手の平を前に押し出した。



「大魔力破壊砲ゴブ!」



 それは魔力の塊だった。

 強大は魔力がレーザー光線のように、手の平から発射される。

 それは全ての氷柱を消滅させて、フグタールの真横一閃を通り過ぎた。


ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!


 凄まじい破壊力。

 大魔力破壊砲が通った後には物体は残っていない。

 彼女が振り返ると、山が抉れて長く続く溝になっており、遥か遠くに地平線が見えるだけだった。


「嘘……」


 場内は静まり返る。その威力に言葉が出ないのだ。


「ナンバさーーん。オイラ勝ったゴブか?」


『は、破壊砲はギリギリ外れたで……』


「なんだ。んじゃ、もう1発撃つゴブ。はぁあああ……!!」


 ザウスは眉を寄せた。


「やれやれ……。やりすぎだよ」




────



チーム戦の状況です。


⚪︎=勝利 ×=敗北


魔王チーム。

×先鋒 竜人族ドラゴニアス。

×次鋒 ヴァンパイア族ブラディアン。

⚪︎中堅 参謀フグタール。

副将 邪神龍 ジャルメ・ゲバザバハマール。

大将 魔王ヘブラァ。


魔公爵チーム。

×先鋒 獅子人族ガオンガー。

次鋒 ゴブリン族のゴブ太郎。

中堅 魔神殺しのアルジェナ。

副将 大賢者カフロディーテ。

大将 魔公爵ザウス。

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