第101話 竜人族 VS 獅子人族
〜〜竜人族のドラゴニアス視点〜〜
獅子人族のガオンガーは勝利を確信したように笑った。
「ガハハハ! ザウスの旦那ぁ。俺様を一番手に持ってくるなんてわかってるでガオ!! 戦いたくてウズウズしてたんでさぁああッ!!」
やれやれ。
下品な笑いをするやつだドラ。
獅子人族のくせにずいぶんと威勢がいいな。
体格は同等か。私も身長は3メートルを超えているからな。同族の中でも大きな方だ。
鎧などの装備品はまぁまぁか。背中に背負っている大きな斧が得意武器のようだドラ。
まぁ、あれだけの大きさだ。私のスピードを捉えることはできんだろう。攻撃を躱し、私の剣がやつの首を斬れば試合は終了だドラ。
しかし、そんなに簡単にとどめは刺さん。裏切り者にはそれなりの報いを受けてもらうドラ。
圧倒的な敗北感を味わい絶命する。ククク。それがこの獅子人には相応しい末路だドラ。
「俺様の名はガオンガー! 獅子人族の長にて一族最強の戦士ガオォオオオオ!! ザウス様のために、正々堂々と戦うことをここに誓うガオォオオオオオ!!」
ぷっ……。
名乗りあって同等の戦いを希望するのか。
バカが、それは同格の場合だけに該当するのだ。
私は竜人族の戦士。獅子人族なんぞ、雑魚魔族にすぎん。
「一族最強ねぇ……。最弱の一族の中で最強を名乗れても困るドラ」
「な、なにぃいいい!?」
「こちらとしても、どう捉えていいかわからないドラ。なぁ仔猫ちゃんよ」
「こ、仔猫ちゃんだとぉおおお?」
「ああ、そうだよ。仔猫ちゃん。私たち竜人族に比べれば、おまえなんか可愛いペットなんだよ。モフモフの仔猫ちゃん」
「……なるほど。たしかに、竜人族は格上の種族だガオ。獅子人族が竜人族に勝った歴史はないだろう」
「あははは! わかっていればいいのだドラ。種族間地位は絶対ドラ。上位種が下位種に負けるわけがないのだ。竜人族は獅子人族より格上の種族なんだドラ」
お互いに隠蔽の魔法を使っているからな。加えて、天啓を受けていない身分というのもあって、相手のステータスを見ることはできん。
しかし、その実力は天と地であろう。竜人族と獅子人族。従来ならば倍以上はレベル差がある。わざわざ数値で判断することもない。
商人の女、ナンバがマイクを使って声を響かせた。
『さぁ、魔王チーム対魔公爵チーム。第一試合の開始やでぇええええええええええええええ!!』
ククク。
「よし。ハンデをやろうか? おまえと私。どれほどの差があるのか、腹部を1発殴らせてやるドラ」
「なに?」
『おおっとぉお! これはドラゴニアス選手、どうしたというんやぁああ!? おもむろに腹部を突き出したぁあああああ!! これでは攻撃してくださいといわんがばかりやでぇええええ!!』
ククク。
この生意気な猫には、私がどれほどの防御力なのか、知らしめる必要があるドラ。
実力差を示すならば、隠蔽の魔法を解いてレベルの差を見せつけるのが最も手早い方法ではあるがな。そんな簡単に絶望させてしまっては興が削がれてしまうだろう。
ここまで観衆がいるのだ。実力差というものを見せつけてやらねばならん。
ククク。
「さぁ、殴るがいいドラ。不意打ちなんかしないドラ。それともおまえは不意打ちを狙うかドラ? 汚い戦法を使うかドラ? ククク。私はどっちでもいいドラよ」
「……防御力に自信があるのかガオ?」
「ハハハ! まぁ、余興だドラ」
「ふむ。いいだろう。ならば、互いの腹に1発決め込むってことで準備運動にしようじゃねぇかガオ」
「互いにだと? プっ……。プハハハハハハ! いいのか? 私が攻撃しても?? それで試合が終わってしまう可能性があるのだドラ?」
「1発ずつなら公平ガオ」
「ハハハハハ! 公平ぃいいい? グハハハハハハ! 獅子人が竜人に公平性を求めるかぁあああああ!!」
これには周囲から笑いが起きた。
獅子人族が竜人族の下位種族であるのは、魔王領でも常識なのだ。
「ククク。いいだろう。劣等種族の涙ぐましい抵抗を受けていれてやろうじゃないかドラ。じゃあ、互いに1発ずつ。腹部に拳を入れる。このルールでいいかドラ?」
「ああ。それでいこう」
「ハハハ! 凄みのある顔だなぁあああ。怖い怖い。よしよし。では、先手は譲ろうじゃないか。流石に私からやるのは気が引けるドラよ。ククク」
「うむ。感謝するガオ」
「ハハハハ! 上位種ならば当然のことドラ。ああ、それと安心していいからな」
「安心?」
「私は軽くやってやるドラ」
「そうか、ならば俺様も軽くやろう」
「プハッ!」
バカが。
こんな千載一隅のチャンスで手を抜くなんてありえんだろうが。
全力でやるのが定石に決まっているドラ!
わずかでもダメージを与える。
それが下位種族に与えられた、ほんのわずかな勝機なのだよぉおおお!!
「じゃあ、いくぞ? 準備はいいガオ?」
「ククク。さぁ、やるがいいドラ」
「よし。よっと」
ガオンガーの拳は私の腹部にめり込んだ。
ボコォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
はぅうううううううううううううッ!
な、なんだ……この重い一撃はぁああああああ!?
私はそのまま10メートル以上吹っ飛ばされた。
「あぐぅう……」
こ、こ、この野郎ぉおおおおお!
軽くとか言っておきながら思い切り全力でやりやがったなぁあああ!!
「き、き、汚いドラ……。ゆ、油断させやがってぇえええええ!!」
「は? 軽くやったが??」
ダ、ダメだ……。
相当に体力が減ってしまったドラ。
「
ぬぐぅ……。
ま、まさか、こんな下位種族の一撃で回復魔法を使うとは……。
「褒めてやるよ。騙し討ちとはな」
「なんのことガオ?? それよりおまえ鍛えてるのかガオ? スポンジケーキみたいに柔らかい腹筋だったガオ」
「!?」
この野郎ぉおおおおおおおお!!
騙し討ちをしておきながら私を罵倒するとはぁああああああ!?
この泥棒猫がぁあああああああああああああああああああ!!
制裁を加えてやるぅうううううう!!
「次は私の番だよなぁあああああああああああ!?」
「ああ。いつでも来いガオ」
「ふふふ」
軽くやると言っていたが前言撤回だ。
思いっきりやってやるドラ。
貴様がやったようになぁあああああああああああああああああ!!
後悔するドラ!
私を怒らせてしまったことをなぁあああああああ!!
泥棒猫に制裁だぁああああああああああああああああああ!!
「ぬらぁあああああああああああ!!」
私の拳はやつの腹部を貫い──。
ガンッ!!
え!?
硬い?
瞬間。
ボキッ!!
その拳は変な方向に曲がった。
『おおっとぉおお!! ドラゴニアス選手の拳がボキッというたでぇええええ!! これは骨が折れたんとちゃうんかぁああああああああ!?』
痛ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!
拳がぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!
「竜人族はよくわからんガオ。さぁ、準備運動は終わったガオ」
そういって斧を構える。そして、獅子特有の大きな咆哮を響かせた。
「ガオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ぬ、ぬぐ……!
空気が震えるドラ……。
こ、この野郎ぉおおおおおお!!
い、威圧しやがってぇえええええええ!!
泥棒猫のくせにぃいいいいいいいいいいいいいい!!
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