第100話 ザウスと魔王の思惑

 魔王へブラァは5人の魔族を前に出した。先鋒、次鋒と続き、最後の大将は魔王自らが名乗り出る。

 まるで勝ち誇ったような、嫌な笑みを見せた。


「ククク。我を含んだ、この5人を倒すことができれば、無条件降伏してやろうではないか。同じ条件ならば犠牲者は5人だけで済むだろう」


 そうなると、こちらの5人が負ければ俺の領土は魔王のものになるということ。

 つまり、


「団体戦の勝利が、この戦いの終結ということだな」


「そういうことだ。ブラァァア」


 ふむ。

 効率的で悪くないな。

 1万匹のドラゴンの攻撃を受けるより、はるかに理にかなっている。

 さながら、周りにいる魔族たちは勝敗の承認者ということか。

 よし、


「勝敗のルールを聞こう」


「ククク。降参宣言と死亡によって勝負を決める。おっとそうだ。舞台を用意しようか」


 魔王が片手を動かすと大きな地響きが起こった。

 すると、大地はわずかに盛り上がり、平坦な舞台となった。

 長さは200メートルくらいだろうか。丸い形をした舞台。


「せっかく舞台を作ったのだ。場外というルールも追加しようか」


 ふむ。

 ルールをまとめよう。


「5対5の団体戦。勝敗は降参宣言と対象者の死亡。そして、舞台の外に落ちる場外。代表者の5人が負ければ全ての領土を明け渡す。ということだな?」


「ククク。そういうことさ」


 …………戦いの結末はわからない。

 よって、できる限りの準備は必要だろう。

 もしかすると、この団体戦自体が時間稼ぎで、魔王軍の追加動員があるかもしれないからな。


 ちょうどその時、俺の横にサイ人族のサイ蔵が現れた。


「ザウス様。追加の重騎士団が到着したでござる」


「各都市部の防御はどうなっている?」


「オーク種によるザウス重騎士団の配置が完了してるでござる。ドラゴンの吐く竜火球の攻撃はすべて 贅肉の防御ファットガードで防ぐことが可能ですサイ」


 よし。


「領民の避難はどうなっている?」


「ハーピー族に任せているでござるが、もう少し時間がかかるようでサイ。都心部を離れる領民はかなりの数がいるようでござる」


 ……やはり、時間が必要か。

 そういえば竜火球の流れ弾が領内に被弾していたな。


「負傷者は出ているのか?」


「怪我人の報告はありません。ゼロ人サイ」


 よし。


「防御を徹底しろ。ハーピーには領民の避難を急がせるんだ」


「御意」


 なんとしても、この戦いは負傷者ゼロ人で乗り切るぞ。


「さぁ、そちらの5人を選抜するのだ。ブラァアアア」


 5人の代表か……。勝ち抜きなら俺が先陣を切るのがいいかもしれん。

 俺が先鋒に立って勝ち抜けば部下へのダメージはないからな。


「そうだザウス。ここまで観衆がいるのだからな。互いの部下の強さを見せ合おうではないか。ククク。それとも自信がないかな?」


 やれやれ。そうきたか。


「両チームの大将は支配者が務めるべきだろう。そうしなければ盛り上がらん」


 魔王の言葉に獅子人のガオンガーは凛々しい笑みを見せた。


「旦那ぁ。俺様を先鋒にしてくだせぇ! 魔王軍なんかぶっ倒してやりますガオ」

 

 ふむ。こいつは力が強く、チームの中では一番血気盛んだ。先鋒戦は向いているかもしれん。 

 では、大将は俺として、残り3人だな。


 次鋒はゴブリンのゴブ太郎しようか。努力家で、安定して強い。

 中堅は魔神殺しのアルジェナ。メタルヒトデンを大量に狩って、相当にパワーアップしていると聞く。彼女の力は期待できる。

 副将は大賢者のカフロディーテだな。頭脳、魔力と、仲間ではナンバーワンだ。


「俺のチームはこの5人だ」


「ブラァアアアア!! グフフフ。さぁ、ゲームの開始だ」



〜〜魔王視点〜〜


 ヌフフフ。

 ブラァアアアアアアアアアアアアア!


 まんまと乗ってきよったわ。グフフ。面白いゲームが始まったぞ。


 ククク。

 このゲームには意味がある。

 ザウス軍は隠蔽の魔法によってステータスが見えない。そこだけは妙に引っかかる部分なのだ。

 まぁ、こんなことはあり得ないがな。万が一にも我が軍勢のレベルが低かった場合、大きな損失を負うことになる。

 被害を最小限にするためにも様子見としてゲームで実力を見てやるのだ。ククク。


 まぁ、どうせ勝ちは決まっている。

 事前情報ではザウスの限界レベルは24万だった。そこから考慮して、修行によるパワーアップをしていたとしても30万が精一杯だろう。

 われのレベルは66万。ザウスと比べて2倍以上の差があるのだ。

 大将にわれが入っている時点でわれの勝ちは100%確定しているのさ。

 それに万が一ではあるが、ザウス軍がルールを無視して共闘した場合、その総合レベルがわれのレベルを超えるパターンが考えられる。

 そのパターンでもまったく問題はない。

 なぜなら、われには 魔王壁デヴォルウォールがあるからだ。

 これは魔王種だけに与えられた絶対の特権。魔族は魔王種に攻撃ができないのさ。

 ククク。ザウスのバカが、この事実を知る頃には絶望していることだろうよ。想像するだけで笑いが込み上げてくる。

  魔王壁デヴォルウォールを破ることができるのは勇者の証だけだ。貴様が勇者セアを倒した時点でわれの勝ちは確定しているのだよ。

 ククク。笑わずにはいられんな。どれだけレベルの差がつこうと、われの体にはダメージを通すことはできんのだからなぁ。

 ククク。われはこの絶対の勝利が確定している状態で、ザウスを絶望させることだけを考えればいいのさ。


「はいはーーい! ルールは聞かせてもらったでぇ! みんなちょっと聞いてぇなぁ!」


 なんだ、あの女は?


 褐色肌のやたら胸の大きい少女。

 商人のようだが、舞台の真ん中に立って、妙に声が大きく聞こえる。反響する大きな声質は拡声魔法を使っているのか?


「これなぁ。カフロディーテはんに作ってもろたんやけど、魔力の拡声器でな。マイクっていうんやて。魔力で声を大きいするさかいに便利なアイテムなんや」


 やれやれ。そういうことか。

 それにしてもどういうつもりだ?


「何者だ? この余興を邪魔するのならば排除するぞ」


「ちょ、ちょっと、待ってぇな! うちは商人のナンバ・アキンダーラ。ザウスはんの領内で魔公爵商業ギルドを営んでおるんや」


「ふん。商人がなんのようだ?」


「ゲームを盛り上げるんは商人の勤めですわ。なにごともビジネスやな」


 盛り上げるだと?


「ゲームにルールがあるんなら、状況の解説者は必要でっしゃろ? それをうちがやろうって寸法や」


「ふん。そんなことをしてなんになる?」


「せやからビジネスなんですってば。ミシリィはん。リザ丸はん、始めたってやーー」


 すると、ナンバという女の号令で、荷台を運ぶ者が現れた。

 リザードマンが荷台を引いて、僧侶の格好をした女が物資を販売する。


「アイスにクッキー、干し肉にエールがありまーーす。ゲームの観戦が楽しくなりますよーー」


 魔王軍に販売をするとは、


「どういうつもりだ?」


「ですからビジネスですわ。なにごとも儲け主義なんです」


「まさか、毒など盛っていないだろうな? われには無毒化スキルで通用せんぞ?」


「ははは。そんなあこぎなことはしまへんわ。魔公爵商業ギルドは信用第一でやらしてもらってます」


「ふん。それで、解説とはなんだ?」


「魔王軍と魔公爵軍。援軍を含めると2万人以上も観客が集まっております。そんな状態やさかいな。試合の状況を解説した方がみんなにわかると思うんや」


 なるほど。

 そっちの方が、ザウスの失態をより強くアピールできるというものか。

 ククク。いいぞ。これはいい案だ。


「もちろん、うちは商売ですからな。解説者の報酬はいただきますで」


「ほぉ……ちゃっかりしている。いいだろう払ってやろう」


「おおきに!」


 魔王軍の部下たちは荷台で売っているエールに飛びついていた。

 よほど上質なのだろう。「美味い美味い」と上機嫌で飲んでいる。


 魔公爵商業ギルドか。

 このナンバという女、なかなかいい仕事するようだ。

 欲しいな。

 ククク。ザウスが負けて、魔公爵の領土が我が領土になれば、この女はわれの部下になるということだ。


「さぁ始まりました! 魔王軍対魔公爵軍による5対5の勝ち抜きチーム戦。司会を務めさせていただきます! ナンバ・アキンダーラですぅ! どうぞよろしゅう!!」


 場内は大歓声に包まれる。


「やれぇえええ! ザウス軍をぶっ殺せぇえええドラァ!!」

「魔王軍なんかに負けるなブゥウウ!!」

「殺せ殺せぇええええええドラァアアッ!!」

「ぶっ倒せブゥウウ!!」


 殺伐とした空気が一気にお祭り感が出た。


 ククク。いいぞ。

 この中でザウスが大敗すれば、やつの価値はだだ下がりだ。

 未だに、やつが勇者セアを倒したことを賞賛している魔族がいるからな。

 反旗を翻したザウスには見せしめとして制裁を与えねばならん。


 圧倒的な敗北。

 それこそがやつに相応しいのだ。


 それに、やつが負ければ魔公爵領はわれのものになる。


 ブラァアアアアアアアアアアアアア!!

 この戦いに勝って、魔公爵商業ギルドを魔王商業ギルドに変えてやるわぁああああ!!

 

「いけ。ドラゴニアス。竜人族の強さを見せつけてやるのだ」


「は! 獅子人族など、たんなる子猫の一族でドラ。竜人族がペットに負けるわけはありませんドラ」


 ナンバは大きなボードを立てた。

 そこには10名の名前が連なる。



魔王チーム。

先鋒 竜人族ドラゴニアス。

次鋒 ヴァンパイア族ブラディアン。

中堅 参謀フグタール。

副将 邪神龍 ジャルメ・ゲバザバハマール。

大将 魔王ヘブラァ。


魔公爵チーム。

先鋒 獅子人族ガオンガー。

次鋒 ゴブリン族のゴブ太郎。

中堅 魔神殺しのアルジェナ。

副将 大賢者カフロディーテ。

大将 魔公爵ザウス。



 ナンバは声を張り上げた。


「さぁあああああ!! 第一試合が始まるでぇええええええ!! 先鋒から順番にやる勝ち抜き戦や! 魔王軍は竜人族のドラゴニアス選手。対する魔公爵軍は獅子人族のガオンガー選手やでぇええええええ!!」

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