第98話 魔王軍と魔公爵軍

〜〜魔王ヘブラァ視点〜〜


「ブラァアアアハッハッハッハァアアアアアアアアアアアッ!!」


 ヌフフフフ。

 笑わずにはいられん。


 込み上げてくる高揚感。


 絶対の勝利が約束されている状況にいたっては気分が上がったしまう。

 得に、自分を強いと思い込んでいる存在を叩きのめすのは最高だ。

 グフフフ。想像するだけで笑いが込み上げてくる。


 ザウスは独自の修行によって強化をしているようだがな。

 フフフ。われはそれ以上に強くなったのだよ。

 強くなってしまったのだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!


「ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ヌフフゥウウウ。

 さて、1万の部下モンスターを連れて来たわけだがな。

 別に全勢力でやろうというのではないのだ。

 グフフ。部下モンスターはあくまでも観客にすぎん。

 このわれの実力の目撃者なのだ。


 ザウス軍との戦いには広い場所を選んだ。

 ここ、セキガーハラ平原。見渡す限り岩と草木しか見えない平凡な平原だ。

 ここならば、なんの気兼ねもなく戦うことができるだろう。


 そして、われらの前にはオークの軍勢が立ち塞がる。

 その数、5千はいるだろうか。


「私たちはザウス重騎士軍だブゥ。ここより先はザウス様の領土にて、これ以上先は通さないブゥ」


 ふん、生意気な。

 雑魚がどれほどのレベルなんだ?


 ん? ステータスが見えないな。

 どうやら隠蔽の魔法を使っているらしい。


 くだらん。

 隠すほどのものか。


「薙ぎ払え」


 われの号令に部下モンスターであるドラゴンたちは呼応した。

 口の中から巨大な火球を吐き出す。


 ドラゴンのユニークスキル、竜火球。

 あらゆるモンスターを殲滅する強力な技だ。


 ふっ。終わったな。


ボワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 竜火球はオークたちに命中して大爆発。

 豚の丸焼きの完成だ。


 と、思うや否や。

 煙が収まるとオークたちの姿が見えた。

 傷一つついていない。


 オークたちは胸の前で腕をクロスさせて、光り輝く壁を発生させていた。


「スキル  贅肉の防御ファットガード


 やれやれ。

 オーク種だけが使えるというユニークスキルか。 

 上位種であるドラゴンの攻撃を防ぐとはなかなかだな。


 しかし、どこまで耐えられる?


「追加だ。やれ」


 われの号令に、再びドラゴンは火の玉を吐いた。


 部下モンスターでもわれ方が上なのだ。

 竜は豚には負けないのさ。

 雑魚は雑魚。

 豚は竜に勝てん。


「徹底的にやれ」


 追加の号令で、ドラゴンたちは連続して竜火球を吐いた。

 セキガーハラ平原は大爆発を起こす。


 ここまでやれば豚の丸焼きの完成だろう。


 しばらくすると、風が煙を吹き飛ばした。


「ザウス様が到着するまで耐えるのだブゥ! スキル  贅肉の防御ファットガード


 なにぃいい!?


 豚の存在でぇえええ!!







〜〜ザウス視点〜〜


 魔公爵城は騒がしかった。

 魔王の侵攻に対して、その態勢を整えるために総動員で動いているのである。

 シフトで動いていた兵士は控え室から飛び起きて鎧を纏う。兵士の食事を作る台所は3倍の火力で食事を作り始めていた。


「各、街や村にはザウス重騎士団を配置しろ! オークのスキル 贅肉の防御ファットガードで魔王軍からの攻撃を防ぐんだ」


 魔王が連れているのはドラゴンの軍勢。

 竜族はモンスターの中でも上位種だ。やつらの吐く竜火球は威力が高い。流れ弾が被弾すれば領内に大きなダメージが出るだろう。

 しかし、オークのスキルは、大勢が集まれば大きな防御壁を作ることが可能だからな。

 スタミナが続く限り領内への被弾は防ぐことができるだろう。


「なんとしても防御は徹底しろ。領民を守るんだ!」


 この戦いで死亡者はゼロにする。

 俺の領土にダメージなんか与えさせるもんか。


 突然。


ドドドドドーーーーーーン!!


 と、巨大な音が鳴り響く。


「なんだ!?」


「ドラゴンの竜火球の被弾です! 魔公爵城の近くに被弾したと思われます!」


「近く?」


「はい! 銃騎士団がいない場所です! 単発の飛来と思われます」


 どうやら、ここを狙っているというわけではないらしい。

 おそらく、前線で耐えているザウス銃騎士団に向けたれた竜火球の流れ弾だな。

 ……そうか。主要都市の攻撃は 贅肉の防御ファットガードで凌げるが、それ以外の流れ弾が領土を破壊するんだ。


 とにかく、


「領民を一箇所に固めろ。街の外から出ないようにするんだ」


 オークの数は限られているからな。散開している領民を守れるほど万能ではない。


「領民の呼びかけにはハーピーを使え。上空から領民を探して回収するんだ」


 よし。

 あとは、部下モンスターに任せよう。

 粗方の指示は終わったから、現地に行くか。


 と、そんな時。


「ねぇ、ザウス。前線で戦うならあたしたちも行くわ」


「アルジェナ……。それにみんなもか?」


 彼女の後ろには、大賢者カフロディーテ、ゴブリンのゴブ太郎、獅子人のガオンガーが立っていた。


 そういえば、こいつらは独自の修行をしてずいぶんと強くなっていたんだったな。


「僧侶のミシリィは城に残ってみんなを守るって言ってるわ。サイ蔵は部下モンスターを連れてあとから来るって。今から前衛の重騎士団と合流するんでしょ?」


「ああ。相手は魔王ヘブラァだ。油断はできない」


あたしたちも行くわよ。これでもずいぶんと強くなったんだから」


「…………そのようだな」


 隠蔽の魔法でステータスが見えないな。

 しかし、彼女たちのたたずまいで、その腕前はなんとなく理解はできる。


 よし。


「わかった。じゃあ、みんなで行こう。俺の手を握れ。 加速アクセルで移動する」


「ふっ。舐めないでよね」


「え?」


「油断してると置いてっちゃうわよ」


「なんだと?」


加速アクセル


 なに!?

 高速移動の魔法だと!?

 まさかアルジェナが習得していたとは!?


 そればかりか、カフロディーテもゴブ太郎もガオンガーまでもが高速移動で遥か彼方まで進んでいた。


 やれやれ。

 高速移動くらいは簡単だということか。

 うかうかしていると置いていかれるな。


加速アクセル


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!


 俺たち5人は魔王軍がいるセキガーハラ平原へと向かった。

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