第97話 アルジェナの強化計画⑤

 ズゥルイ伯爵は大声を張り上げた。


「殺せぇえええええ!! 1人残らずやってしまえ!! 証拠は残すなぁ!!」


 眉を寄せたのはボディガードの大男たち。


「し、しかし、伯爵。自警団は王都と繋がってますぜ?」


「構わん! 理由なんて後からつければいいんだ!! モンスターにでも襲われたことにすればいいさ!!」


 やれやれ。

 こういう悪事っていくらでも思いつくのね。


「へへへ。だっら思い切りやれますね」


 と、3人の男たちはボキボキと指を鳴らした。

 やる気満々だけどさ。レベル50程度だからなぁ。


「ククク。可愛いお嬢ちゃんだぜ。殺すだけはもったいないなゲヘヘヘェ」


 ああ、相手のステータスも見れないのになにを言ってんだか。


 あたしは、3人のボディガードを1発で吹っ飛ばした。


ボカッ! ズカッ! ドカッ!!


 はい、KO。

 ただのパンチで決まりね。

 必殺技を使うまでもないわ。


 残りは伯爵だけね。


「あわわわわわわわわ……。い、一撃だとぉおお……。ダンジョンを攻略できたのはラッキーではなかったのか……。つ、強すぎるぅ……」


 こいつにも制裁は必要よね。

 弱い者に暴力を振るうのは気が引けるけど、こいつはたくさんの悪いことをしてきただろうからな。


「た、た、助けてくれぇええええ……」


「それって都合が良すぎない? あたしたちを殺そうとしたのにさ。それなら殺されたって文句は言えないわよね」


「あわわわわわ……!!」


 やれやれ。

 ビンタ1発で許してやるか。


バシィイイイイイイイイイン!!



「ほげぇえええええええええええええええええッ!!」



 あ、もちろん手加減してるからね!

 まぁ、前歯は全部飛んでいったっぽいけど……。


 自警団が呆れて見ていたので、


「今のは正当防衛ですから!」


 とアピっておいた。

 命を狙われたのは事実だしね。


 こうして、伯爵は逮捕された。

 自警団の団長らしき男はあたしたちに礼をいう。


「凄まじい強さでした。ご協力感謝いたいします」


「まぁ、他にも余罪はありそうだから、入念に調べといてね」


「はい! 本当にありがとうございます。伯爵の悪行は以前から困っておりました。王都は魔草の使用者で溢れかえっておりました。あなたの偉業は王都の治安維持に貢献してくれたのです」


「そんな大袈裟な」


「あなたが倒した3人の大男は王都が指名した賞金首でした」


「そうだったんだ」


「王都に来ていただければ賞金を渡すことが可能です」


 ああ。お金は欲しいけど。目立つのは困るわよね。

 あたしたちは、人間に敵対する魔公爵領の者だからな。

 

「え!? 賞金を辞退する? もったいない!!」


「ははは……ちょっと忙しくてね」


「では、なにか他にお礼ができればよいのですが……」


 ああ!


「なら、魔寄せのダンジョンに自由に入れると助かるんだけど」


「なぜですか? あのダンジョンは自警団の管理下になります。魔草が取れるダンジョンは危険ですからね」


「魔寄せの笛が欲しいのよ」


「持っているじゃありませんか?」


「ふふふ。1つだけより大量にあった方がなにかと便利でね」


「わかりました。では、魔寄せのダンジョンに自由に入れる手形をお渡ししましょう。これは自警団の団長が出す許可証です。これを警備の者に見せれば簡単に中に入れることができますよ」


 あは!


「ありがとう。助かるわ」


「こちらこそ。大助かりです。本当にご協力、感謝いたします!」


「うん。じゃあ、あたしたちはこれで」


「あ、あの……。あなた、アルジェナさんといいましたか?」


「ええ、そうよ」


「も、もしかして……。魔神狩りのアルジェナ……ですか?」


 ふふ。

 

「じゃあね」


 自警団はあたしの背中越しに声を出した。


「え? まさかぁ。魔神狩りのアルジェナがあんなに若いわけがないよ」

「そうだよ。若すぎる! しかもあんなに華奢だなんてあり得ないだろう」

「し、しかし、凄腕だったぞ!?」

「魔神狩りのアルジェナって剣士なんじゃないのか? 拳を使っていたぞ?」

「でも、剣は携帯してるしな。あの人がそうなんじゃないか?」

「あんな子が……」

「魔神狩りから悪徳貴族狩りに変更したのか……」


 あたしが魔神を狩りまくっていたのは5年前。

 そこから尾ひれがついて、噂が広まってるみたいだけどね。


 さて、笛はゲットしたから、次はメタルヒトデンの捕獲ね。


 それから1週間後。

 外務大臣のスターサに頼んでおいたアダマンタイトの檻が完成した。


 その檻を使ってメタルヒトデンを捕獲。

 捕獲には2日もかかってしまった。だって、めちゃくちゃ素早いんだもん。なんなら笛より苦労したかもね。


 そうして、更に3日後。

 大賢者カフロディーテは笛の出す周波数を解析。メタルヒトデンだけを呼び寄せる音色を特定させた。

 

 そして……。


「完成したのじゃあああああああ!! 魔寄せの笛【メタルヒトデン仕様】!!」


 あは!

 これでメタルヒトデンだけを呼びまくって経験値爆上げができる!


 早速、呼び出してみる。


「ピューー!」


 すると、メタルヒトデンが5匹も現れた。


 それぞれのレベルは200程度。


 それを一気に狩る。


「ジャスティス アルジェナ マシンガンパンチ!!」


 すると、レベルが一気に上がった。

 レベル312からレベル320。


「うは! これはいいわ!」


 メタルヒトデンの経験値は1匹だけでも1万はあるからね。

 普通のモンスターの10倍はあるのよ。そんなモンスター5匹を瞬殺。

 そりゃあ、ガン上がりよね。


「ドンドンいきましょう!!」


 レベルが一気に上がる快感。病みつきになるかも。


 ある程度レベルが上がるとメタルヒトデンでは役不足になる。

 

「次はキングメタルヒトデンの捕獲ね!」


「ふむ。笛を改造してやろう」


「いや。新しい笛を持って来たからこれ使ってよ」


 と、たくさんの笛を取り出した。

 

 ふふふ。暇を見ては魔寄せの笛を取りに、あのダンジョンに入っていたのよね。


「アルジェナよ。こんなに大量の笛をどうするのじゃ?」


「部下モンスター用に取ってきたのよ」


「ほぉ。部下モンスター用とな?」


「いちいち改造をしなくてもメタルヒトデン用、キングメタルヒトデン用、超キングメタルヒトデン用、として3種類を用意しておくの。それをいくつも作っておけば、各自のレベルに合わせてレベル上げで使えるでしょ?」


「おおお! ザウス軍の底上げに繋がるのか! それはいいアイデアじゃああ!!」


 さぁ、ドンドン強くなるわよぉおおおおおおおお!!




〜〜ザウス視点〜〜


 俺は超キングメタルヒトデンを狩っていた。

 もう何十万匹狩っただろうか?


「なぁ、サイ蔵。本当にメタルパイナプールはこのモンスターからドロップするのだろうか?」


「間違いないでサイ。古文書によれば10年に1度。手に入るアイテムだと記されているでござる」


 10年に1度なぁ……。


 そもそもの遭遇率が低いモンスターだからな。

 それを10万匹以上も狩っているんだぞ?

 もう10年どころか100年分は狩ってんじゃないのか?


「それ、本当に10年なのか?」


「ええ。間違いなく10年……。んん??」


 と、目を見張る。

 サイ蔵は古文書に目を寄せた。


「申し訳ありませんーーーーーーーーーーーーー!!」


「どうした?」


「10年ではありませんでしたでサイーーーーーーーーーーー!!」


 おいおい。


「一体、何年なんだ?」


「10万年の読み間違いでしたでサイーーーーーーーーーーー!!」


 そりゃ、長いわ……。


「その古文書の信憑性は?」


「はい。これはレアアイテムの収穫方法が書かれた書物なのですが、ザウス様に先にお渡ししたコウモリネクタイもイノシシキングの牙も、この古文書による情報でござる。つまり、信憑性は100パーセントと言ってもいいんでサイ」


 やれやれ……。

 10万年に1つのアイテムかぁ。


 と、そこへ、ゴブリンのゴブ太郎がやって来た。


「ザウス様!! 魔王軍が攻めて来たでゴブ!!」


 弱り目に祟り目だな。

 まだ、納得のいかない中途半端な強化状況だが、やるしかないか。

 油断は禁物だな。


 監視クリスタルには、数え切れないほどのドラゴンの軍団が見える。

 空を飛ぶ翼竜、地を這う地竜と、そのタイプは様々。

 その真ん中には立派な装飾品を纏った翼竜がいて、その背中には魔王が乗っていた。


 魔王は意気揚々。両肩を上下に揺らしながら自信満々に高笑いをしていた。


 いよいよ決戦だな。

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