第96話 アルジェナの強化計画④

 あたしたちは、魔寄せのダンジョンに潜むサソリ竜を倒すことができた。


 目的である魔寄せの笛もゲットできたし、ちょっと成長を確認してみますか。


 魔神狩りのアルジェナ、ことあたしのレベルは312。

 大賢者カフロディーテはレベル305。


 そして、僧侶のミシリィはレベル160にまで成長した。


 今回の探索では彼女が一番成長したかもしれないわね。

 ダンジョンに入る前はレベル70だったから、倍以上に上がっているわ。


「アルジェナさん。カフロディーテさん。ありがとうございます! おかげで成長できました!」


 ふふふ。

 みんなで強くなるって最高よね。


「魔草の収穫も十分じゃ。目的達成じゃな」


 ズゥルイ伯爵との魔法契約は1週間だった。

 それを超えると、あたしたちは伯爵の奴隷になってしまう。

 ふふふ。3日は覚悟していたんだけどね。順調だったわ。


「じゃあ、今晩は宿屋に泊まって、温泉に入って、美味しい物を食べましょうよ! 伯爵の屋敷には明日に行けばいいしね」


「あは! 温泉、楽しみですね」


「ミシリィよ。女の価値は胸の大きさではないからの。そこだけはわかっておくのじゃぞ」


 いい宿の情報はミシリィが知っていた。

 彼女はまだ15歳だけれど、ザウスから外務大臣を任されるくらいにしっかりした子だ。

 人間の領土については、あたしたちより詳しい。


「ここの宿は、温泉が有名なんですけどね。温泉卵を使ったパフェも絶品らしいです」


「ふぅむ。ミシリィよ。どこでそんな情報を仕入れるのじゃ?」


「外交職をやっていると領土の情報収集は自然と根付いてしまいましたね」


「なるほど。お主がおると、いい宿に泊まれるから得してしまうの」


「えへへ……。役に立てて嬉しいです」

 

 戦闘の要はあたしとカフロディーテだったけど。

 ダンジョンの情報や、宿屋のこと。細かなフォローは彼女が活躍してくれたな。

 あたしたちって最高のパーティーなのかも。


 街では男にナンパされまくった。

 どうやら2人の魅力が異性を惹きつけるらしい。

 

 ミシリィもカフロディーテも可愛いからなぁ。


「さっきの人はアルジェナさんが目当てだと思います」


「えーー? そんなわけないじゃん。あたしなんか全然可愛くないのにさ。ミシリィとカフロディーテ目当てに決まってるじゃない」


「くだらぬ。異性はザウスだけでよいのじゃ。わしに興味があるのならば、奴隷にして一生こきつかってやろうかの。ヌフフ」

 

 その夜は楽しんだ。

 温泉に入って、豪華な食事をして、温泉卵のパフェを堪能する。

 お土産コーナーでは3人でワイワイ言いながら買い物をした。

 クマのぬいぐるみを見てはしゃいでいるカフロディーテが印象深い。

 ちょっとした旅行気分ね。

 

 そうして、次の日。


「アルジェナよ。どこへ行くのじゃ? 伯爵邸ならあっちじゃろう?」


「ふふふ。ちょっと寄り道。まだ、やることがあったのよ」


 そう言って、魔法契約書の控えをピラピラと振った。


 これって約束を守らないと雷が落ちるんだけどさ。

 約束さえ果たせれば燃えて消えてしまうのよね。

 だったら、消滅する前に利用しない手はないわよ。ふふふ。


 街で用事を済ませた後。

 あたしたちは伯爵の屋敷を訪問した。


 ズゥルイ伯爵は大きな声を張り上げた。


「なにぃいいい!? ダ、ダンジョンを攻略したぁああああ!?」


「ええ。おかげでレアアイテムの魔寄せの笛をゲットできましたよ」


「そ、そんな……バカな。たった2日でダンジョンのボスを倒したというのか……」


「正確には1日ですね」


「なにぃいいいいい!?」


「終わったのが夕方でしたから、その後は温泉宿でゆっくりしました。温泉卵のパフェは美味しいですよね」


「た、たった1日で……」


「あとは魔草を渡せば条件はクリアですね」


「う、うむ……。そうだったな。魔寄せのダンジョンに入るには、魔草を1週間以内に持ってくるのが約束だった」


「屋敷の外に用意していますから。一緒に行きましょう」


「外に? そんなに大量に採ってきたのか?」


「ええ。伯爵にはお世話になりましたからね。領内のダンジョンに入る許可と、温泉を楽しめたのは伯爵のおかげです」


 伯爵はブツブツと呟く。


「…………チッ。奴隷にする計画が水の泡か。まぁ、魔草だけでも儲けることができたから良しとするか」


「え? なにか言いました?」


「い、いや。なんでもない。案内してくれ。どこに魔草があるんだ?」


 屋敷の外には麻袋に入った大量の魔草があった。


「おおおおお! これは依頼している3倍はあるんじゃないか?」


「ええ。お世話になりましたから。迷惑なら規定量だけにしますね」


「い、いや。迷惑だなんて。グハハハ。魔草はいくらあってもいい薬草なのだよ。グフフ」


「じゃあ、渡しましたよ」


「うむ。契約完了だな」


 その瞬間。

 あたしたちが持っていた魔法の契約書は青白い炎とともに消滅した。


「うん。スッキリ」


 伯爵は魔草の入った袋を部下に運ばせていた。


 さてと。


「伯爵。魔草が違法なのは知ってました?」


「それがどうした? ちょっとダンジョンを攻略したからって小娘の冒険者ふぜいがいきがるなよ。用が済んだのならとっとと消えなさい」


「ええ。まぁ、そうしますけどね。バトンタッチをしようと思いまして」


「バトンタッチだと?」


「ええ。交代です」


「なんのことだ??」

 

「温泉街は王都と伯爵の領民が入り混じる特殊な領域のようですね」


「なんの話だ?」


「そこには王都直系の自警団が存在していて、組織は王都の法律で街を警護している」


「……ふん。まさか、この魔草を取り締まるとでも言いたいのか? ククク。自警団を呼んでも無駄だぞ。やつらが来るころには魔草のありかはわからない。私の部下がどこに運んだかはわからんだろう?」


「秘密の保管場所があるのですか?」


「ふん。まぁ、そういうことさ。証拠がないなら取り締まりはできん。そればかりか、通報をした者には、それ相応の制裁が与えられるのだよ」


「正義の行動を取った者に罰が下るのですか?」


「正義だと? ククク。バカなまねは良した方がいい。私の領土では私が法律なのだ」


「同盟協定。各国では共通の法律があるはずです。その中で、魔草の所有は禁止のはず」


「ふん。自首しろとでも言いたいのか?」


「そうです」


「クハハハハ! 小娘が! いい気になるんじゃない!! そもそも魔草の取引きをしたおまえにだって罪があるだろうが!?」


「事情を相談したら許してくれることになりましたね。あたしたちの目的はあくまでもダンジョン探索ですから」


「な、なんだと!? それじゃあ、もう通報したというのか?」


「ええ。温泉宿を出たついでにちょっと」


「愚か者が!!」


 伯爵は指をパチンと鳴らした。

 すると、身長2メートルを超えるであろう大男が3人ばかりやって来た。

 筋肉隆々で、背中には大剣を差している。

 3人ともレベル50前後といったところ。

 どうやらボディガードみたいね。


「なにをしようというんです?」


「グフフフ。制裁だよ。私に生意気な発言をしたことを後悔させてやるのさ」


「ふーーん」


「グフフ。安心したまえ。命までは取らないさ。その見た目なら十分に利用価値がある」


 やれやれ。どこに行っても男ってスケベねぇ。力を使って女の体を求めようとする。

 少しはザウスを見習って欲しいわね。


「じゃあ、自首する気もないみたいだしね。交代しましょうか。自警団のみなさーーーーん。出番でーーす」


 あたしの呼びかけで自警団がゾロゾロと現れた。

 それは鎧を纏った兵士たちで、槍や剣を構えて伯爵たちの周りを囲う。


「ぐぬぅう! もう呼んでいたのか!?」


「現場を抑えるのが鉄則でしょう。外に呼んだのはそのためよ。魔草を渡す取引はバッチリ見てもらったからね」


「まさか、自警団が小娘のいうことを信じるとは」


「説得力は魔法契約書の控えで十分だったわよ」


「ぬぐぅうううううう!! や、殺れぇええええ!! 1人残らず殺ってしまえぇえええええ!!」


 そう言ってボディガードに命令を出す。

 自警団はレベル20程度だからな。

 ちょっと苦戦するか。


 じゃあ、加勢してやらないとね。

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