第95話 アルジェナの強化計画③

 あたしたちは魔寄せのダンジョンに潜っていた。


  湧き出る怪物ワイテデールはウジャウジャ出てくる。

 でも、あたしたち3人は、抜群のチームワークでモンスターを倒し、ついには最深部にまで到達した。


「すごいです……。ダンジョンに入ってまだ2時間くらいしか経っていませんよ」


 と、僧侶のミシリィは目を見開く。

 彼女いわく、このダンジョンを攻略するには1週間以上はかかるということらしい。

 

 ふふふ。

 ダンジョン内は複雑に入り組んだ迷宮になっているけどね。

 あたしたちには大賢者カフロディーテがいるんだもん。


「ふむ。あっちは大きなトラップがあるようじゃの。遠回りになるが迂回して進むのじゃ」


 彼女は空中に浮かんだ地図を見ながらそう言った。


 これは彼女の魔法、 迷宮案内ラビリンスガイド

 ボスルームまで最短のルートを教えてくれる反則級の魔法だ。

 しかも、トラップまでも表示するみたい。楽チンね。


「あ、見てください! 大きな門がありますよ!」


 ミシリィが指差した先には豪奢な装飾がされた、いかにもな門が見えた。


「うむ。あれがボスルームじゃな」


 ボスはたしか……。


「サソリ竜だっけ?」


「はい。巨大なハサミを持った竜のモンスターです。事前情報ではレベル60程度との話ですが……」


 雑魚モンスターが軒並みパワーアップしてるからな。

 ボスモンスターもおそらくは強くなっていると思う。


「アルジェナさん、カフロディーテさん。体の調子は大丈夫でしょうか?」


「ふむ。わしはピンピンしておる」

「右に同じ。あたしも全然、疲れてないわ」


「ふはぁ……。お二人がすごすぎて、私の出番がありませんね」


「そんなことないわよ。擦り傷の治癒とかやってくれてるじゃない」


「…………私、あんまり役に立ててないんですよね」


「回復役ってそんなものよ。気にしなくていいってば」


「で、でも……。経験値だけ貰って申し訳ないです」

 

 パーティを組んだ場合、討伐の経験値は共有されるからな。

 彼女のレベルはずいぶんと上がっている。ダンジョンに入る前はレベル70だったけど、今は150だ。 

 

「みんなで強くなればいいじゃない。そしたらザウスの役にも立てるしね」


「……私。バトルではお荷物なんです。勇者セアとの冒険では、いつもバカにされてばかりでした」


 ははは……。

 それは辛い過去だってば。


「あんなクズ勇者のことは忘れなさいよ。今はザウス軍なんだしね」


「は、はい……」


 うーーん。

 ちょっと、元気付けてやるか。


「それにしてもミシリィ。今日はずいぶんとレベルが上がってるわよね?」


「お二人のおかげです」


「ふふふ。その成長したステータスをザウスに見せたら褒めてもらえるかもね?」


「え!?」


「だって、レベル70だったミシリィが100を超えているんだもん。ザウスってば仲間の成長には敏感だからね。きっと、褒めてくれるわよ!」


「ほ、褒めてくれる!! ザウスさんが!?」


「うんうん。あいつってば部下の努力に対する褒めは、絶対に欠かさないやつだからね。確実に褒めてくれるわよ。なんなら、アレが出るかもね?」


「ア、アレ……?」


「そうアレ」


 と、手を横に振ってみる。


「な、なでなでですか!?」


「ふふふ」


「むふぅううう!! い、行きましょう!! いざ、ボスルーム!!」


 やれやれ。

 もうやる気になっている。

 わかりやすい子だなぁ。


「のぉアルジェナよ! その、なでなではわしにもあるんじゃろうか?」


「なんでよ? あんたはそんなにレベルが上がってないじゃない」


「なぬ!? ミシリィばかり狡いのじゃ!!」


「でもさ。メタルヒトデンの大量狩りができるようになれば、レベルの爆上がりができるわよ」


「ふほ! そうなれば、なでなでじゃな!?」


「かもね」


「ふほおおおおお!! 行くのじゃああああ!!」


 ここにもわかりやすいのがいたか。

 ったく。ザウスのなでなでなんて、一体なにがいいのやら……。


 ザウスの……なでなで。


 ザウスの……。


 そ、そういえば、あたしだけ、なでなでしてもらったことないな……。


 ……べ、別に、きょ、興味ないけどね!


 ふん!

 いいわよ。なでなでなんて。

 別にそんな、なでなでしてもらわなくたって、死ぬわけじゃないしね。

 全然、気にしてないし。はっきりいって興味の対象外ってやつよ。

 そもそも、城内の者たちは、なでなでに価値を見出しすぎなのよね。

 あんなの、ただ頭を撫でているだけじゃない。

 ザウスのなでなでなんて、本当にどうでもいいんだからね!


「ザ、ザウスさんの……なでなで。ヘヘヘ」

「ザウスのなでなでか。楽しみじゃのぉ。グフフ」


 …………………べ、別に興味ないわよ!


「い、行くわよ!!」


 あたしたちはボスルームに入った。


『キッシャァアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 と、奇声を張り上げたのはボスモンスターのサソリ竜。

 体高20メートルを超える巨大な 湧き出る怪物ワイテデールだ。

 大きなハサミと甲殻類の皮膚。毒の針を持った尻尾が特徴的。

 こいつを倒せば魔寄せの笛が手に入るってわけね。


 敵のステータスはどんなものかしら?


「アルジェナさん! 敵のレベルは600です!!」


 やっぱりね。

 ボスも強くなっていると思ったわ。


「アルジェナ! この魔法で行くのじゃ!  攻撃力2倍バイカール!」


「オッケーー!!」


 攻撃力を倍化させる強化魔法。

 これであたしの攻撃力は2倍になった!

 現在レベル310だから、実質レベル620の攻撃力よ!


 そして、これはあたしが日々の修行で身につけた新技よ。


 ブレイブスラッシュの力を拳に溜めて放つ打撃攻撃。

 あたしが放つ正義の鉄拳。

 勇者セアと戦った時にヒントを得た技。

 名付けて、


「ジャスティス アルジェナ マシンガンパンチ!!」


 その攻撃力は通常レベルの3倍。

 つまり、実質レベル1860の攻撃になる。


 正義の拳を喰らいなさい!!



「オラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアアアア!!」



 これは正義の連打攻撃なのよぉおおお!!


「す、すごいです!! 硬い体のサソリ竜が手も足も出ません!! そればかりか、硬い甲殻を破壊しています!!」


 魔王の力になんて屈しない。

 正義の力。


「オラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアアアア!!」


 邪悪な心に打ち勝つ、曇りのない正義の心。


 そして、レベルを上げてザウスになでなでを……。

 

 いや、なでなでなんて今はどうでもいいわ!


「オラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアアアア!!」


 あ、でも、あたしのレベルが爆上がりしたら流石のザウスも驚くかな?

 『よく頑張ったな』とか褒めてくれるのだろうか?

 そして、なでなでを……。


 いやいや、

 そんなことはどうでもいいわ!

 邪心なき正義の心で悪を討つのよ!!


 こんなところで止まってちゃいけないわ。

 あたしはこいつを倒して強くなる!!

 そして、ザウスになでな……。


 いやいや。

 だから、そんなことはどうでもいいってば!


 なでなでは忘れるのよ!


 正義の心。


 正義の心で悪を討つ!!


 あたしは渾身の一撃を放った。




「なでなでぇええええええええええええええええッ!!」




 サソリ竜は吹っ飛んで絶命した。


「ア、アルジェナさん……。今の掛け声はなんだったんですか?」


「…………」


 しまった。

 なんか妙なことを口走ってしまった……。


「そんなことより、見てミシリィ! サソリ竜の死体がアイテムに変わったわよ!!」


 それは魔寄せの笛だった。


「やったーーーー! 魔寄せの笛ゲットぉおおお! これで、なでな──。じゃなかった。メタルヒトデンを大量狩りできるわぁあああ!!」


「あとは魔草の採取じゃな」


 ああ、そうだった。

 このダンジョンはズゥルイ伯爵領の場所なのよね。

 入るには違法薬草の魔草を持っていくのが条件だった。

 魔草を1週間以内に届けないと伯爵の奴隷になってしまうんだ。


「じゃあ、今度は魔草探しね」


「ふむ。それも 迷宮案内ラビリンスガイドを使うかの」


 と、空中にダンジョンの地図を出す。


「その魔法便利ねぇ」


「未知のアイテムは探せんがな。魔草はわしが知っておるからの。知っているアイテムなら、その場所まではこの魔法で案内が可能なのじゃ」


「遠くなければいいけどね。どこまで行くのかしら?」


「なんじゃ。魔草はボスルームにあるようじゃぞ」


「じゃあ、ここじゃない」


「カフロディーテさん! あそこに生えている草がそうじゃないですか!?」


「うむ。そのようじゃな」


 あは!

 順調だわ。


 そういえばレベルが上がってるかもしれない。

 さっき倒したサソリ竜の経験値が入ったからね。


 どれだけレベルがアップしたかな? ちょっと見てみよう。

 

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