第94話 アルジェナの強化計画②

 ズゥルイ伯爵は自分の部屋でほくそ笑んでいた。


 彼の趣味は英雄画を集めることである。

 英雄画とは噂になった冒険者たちを、その噂話に基づいて描かれる絵画のことだ。

 この世界の人々にとって、噂話こそが興味の関心であり、それが偉業であった場合は、その冒険者に憧れや尊敬の念を抱かずにはいられない。

 そんな伯爵であったが、彼は3つの英雄画を並べて壁に立てかけた。


「ふぅむ……。あの3人の娘たち……。英雄の名前と同じじゃないか……」


 絵画にはタイトルがあって、『勇者セアと僧侶ミシリィ』『大賢者カフロディーテ』『魔神殺しのアルジェナ』と表記してある。


 おおよそ、本人たちのことであろうが、その描かれている人物造形は、かなり美化されていた。

 体は8頭身以上。目はキリリと凛々しく、鼻筋はツンと高くして、本人とは似ても似つかない絵であろう。

 まぁ、それもそのはず、結局、絵師は噂話を元にして絵を描いているので、絵師のアレンジでそうなっているのだ。売れ線を意識すれば美化もされよう。


 カフロディーテにいたっては悪意さえあった。当の本人は幼い子供の見た目なのだが、絵画に描かれているのは8頭身のグラマラスな賢者。本人が見たら目を疑うような美しすぎる英雄画だった。


 伯爵はそんな絵画を見ながら目を細めた。


「カフロディーテは千年以上生きている賢者だと聞く……。あの子の親が英雄の名に因んで名付けたのだろう。他の2人はよくわからんな。同じ名前なのは偶然か? 魔神殺しのアルジェナがあんなに若いわけはないし、僧侶のミシリィは勇者とともに魔王討伐に向かっているからな。どちらにせよ、あの3人は英雄とは無関係だろう。まぁ、そんなことより……。ククク」


 彼は3人のことを思い浮かべていた。


「容姿が抜群にいい……。特にアルジェナは私の好みだ。少し吊り上がった瞳は誘惑的。抜群のプロポーション。大きな胸。グフフ。彼女は専属の奴隷メイドにしてやろう。ミシリィも捨て難いな。ククク。カフロディーテは子供好きの奴隷商にでも売り飛ばしてやるか。あれだけの美しい見た目なら高値で売れるだろう。なんにせよ、あの3人は上玉だ。私の人生を豊かにしてくれる」


 そういって、タバコを吸った。

 これは違法薬草のたっぷり入った違法タバコである。


「それにしても私は天才だな。ダンジョン攻略の期限を1週間と提示したのは抜群に良いアイデアだった。ククク。短すぎても契約せんだろうしな。できそうで、絶対にできない。ギリギリの期間……。ククク」


 彼は思い出す。

 彼女たちとは別の冒険者が、魔寄せのダンジョンに挑戦したことを。

 その時はレベル40程度の冒険者パーティー。結局1ヶ月以上かかってダンジョンの攻略は断念したという。

 

「ダンジョンボスのサソリ竜は強いのだ。ククク」


 彼はそのことをよく知っていたから、アルジェナたちに1週間の期間を与えて挑戦を許可したのだ。


「どうせ無理に決まっている。あんな弱そうな女どもが、魔寄せのダンジョンを攻略できるはずがないんだ。クハハハハ! バカな女どもめ! 傷だらけで帰ってくるのがオチ。グハハハ! 奴隷にして私の糧にしてくるわぁああ!!」


 ちなみに、この世界でステータスを見ることできるのは天啓を受けた者だけである。

 常人が自分のステータスを確認するには神官の力が必要なのだ。もちろん、伯爵にそんな力が与えられるわけもなく。

 彼はアルジェナたちの実力をまったく理解していなかったのだった。




〜〜アルジェナ視点〜〜


 さぁて、着いたわよぉ。

 魔寄せのダンジョン。


 石畳の朽ちた遺跡みたいなところね。

 植物の根っこがあちこちに生えているから、相当に昔からある場所って感じ。

 ジメジメっとして、ちょっとカビ臭いのはどこのダンジョンも一緒か。

 こkの中は迷宮になっていて、奥に潜むダンジョンボスのサソリ竜に遭うのは難しいってことみたいね。


 ミシリィの情報では、レベル20程度の 湧き出る怪物ワイテデールがウジャウジャいるって話だ。

 ダンジョンボスのサソリ竜はレベル60程度……。

 まぁ、それくらいのレベルだったら問題ないんだけどねぇ。


 一応、あたしたちのレベルを確認していおこうかな。


 あたしこと、魔神殺しのアルジェナさんはレベル300ね。

 大賢者カフロディーテはレベル280。

 そして、僧侶のミシリィがレベル70なのよね。


 この場合。

 前衛はあたしで、その後ろにミシリィ。更に後ろにカフロディーテって感じの陣形がいいかしら?

 レベルの低いミシリィをあたしとカフロディーテで庇う作戦ね。

 ミシリィは回復役だし、あたしとカフロディーテが怪我をしなければ何も問題はないわ。


「よし! んじゃ先頭はあたし! その次はミシリィで最後はカフロディーテね。行きましょ」


「待つのじゃ。闇雲に入っても時間を食うだけじゃろう」


 カフロディーテは両手を広げた。


迷宮案内ラビリンスガイド!」


 どうやらダンジョンの地図を表示させる魔法みたいね。


「ふふふ。この魔法はの。ダンジョン地図を表示させるだけじゃないのじゃ。最奥に潜むダンジョンボスまでの道案内も兼ねておるのじゃよ」


「へぇ……。じゃあ、この光ってる道筋通りに通っていけば最短でつけるってわけ?」


「そういうことじゃな」


「うわぁ……。流石にズルすぎない?」


「これも実力の一つじゃわい。大賢者を舐めるでないぞ」


「これなら日帰りでできそうね」


「そういうことじゃな。宿屋で体を拭けるのはありがたいじゃろ」


 ミシリィは思いついたように、


「あ、そういえば、伯爵領では温泉があるらしいです」


「ほぉ。温泉とな」


「日帰りができるなら3人で温泉に入るのもいいですよね」


「ふむぅ……。ミシリィよ。それは良い案なんじゃがな。これだけは言っておかなければならんぞ」


「なんでしょうか?」


「女の価値は胸の大きさで決まらんからの。それだけはわかっておくのじゃぞ」


「ははは……。だ、大丈夫です」


 ふふふ。

 んじゃ、ダンジョン攻略のあとは温泉ね。


「よし! 行こう!!」


 入るなり、いきなりモンスターが襲って来た。


 迷宮に棲むメジャーなモンスター。


「ダンジョンバッドよ! 牙に毒があるから気をつけて!!」


 6匹か。まぁまぁ多いわね。


「ア、アルジェナさん! ダンジョンバッドのレベルが100を超えています!! 本来ならレベル10程度のモンスターですよ!」


 やっぱりね。

  湧き出る怪物ワイテデールは魔王の加護を受ける。

 魔王がイケメンダールの悪魔覚醒によってパワーアップしているなら、ここのモンスターも強くなっていると思ったわ。

 でも、


「肩慣らしには丁度いいっての!」


 あたしは剣を振った。



ズバァアアアアアアアアアアアアアッ!!

 


 よし。


「すごいです!! 一気に3匹も斬ってしまいました!!」


「残りはわしが片付けてやろう。ファイヤーブレード!」


ブボォオオオオオオオオオオオオオッ!!


「ほ、炎魔法の斬撃!! ダンジョンバッドが消し炭になってしまいました……」


 ふふふ。

 怪我をしてもミシリィがいるしね。

 気兼ねなく思いっきり戦えるわ。

 

「んじゃあ! 日帰りダンジョン攻略で、その後は温泉よ!!」


「「 おおーー! 」」


「ミシリィよ。念を押しておくが、女の価値は胸の大きさではないからの」


「は、はい。大丈夫です」


 この調子なら余裕ね。

 でも、油断は禁物。

 石橋を叩くように慎重に進もう。

 ふふふ。誰かさんの受け売りだけどね。

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