第93話 アルジェナの強化計画①


〜〜魔神狩りのアルジェナ視点〜〜


 あたしはアルジェナ。

 魔神狩りの異名を持つ剣の達人。

 現在のレベルは300。


 これでも、剣の修行は欠かさない方だ。

 地道にレベルアップはしていると思う。


 なんだけども……。

 今や、ザウスのレベルは12万以上なのよね。

 魔王軍もめちゃんこ強くなっちゃってるし……。

 はぁ〜〜。とても、レベル300の私が役に立てそうにないわ。


 でも、あたしのレベルが上がれば彼の手伝いもできるわよね?


 と、いうわけで思いついたのが魔寄せの笛【改】を使った強化計画よ。

 今、ザウスは魔寄せの笛【改】を使って超メタルキングヒトデンだけを大量に呼び寄せて狩っている。

 これはレベル上げじゃなくて、超激レアアイテム、メタルパイナプールを獲るためなのよね。


 私が考えたのはレベル上げで笛を使う方法。

 

 超キングメタルヒトデンはレベル1万の強敵。とても私の手には負えないわ。

 じゃあ、その下のモンスター。メタルヒトデンなら倒せるわよねって話。


 メタルヒトデンは素早くてすぐに逃げるけど、倒すことができれば大量の経験値が手に入るわ。

 メタルヒトデンの大群を呼び寄せて狩りまくればレベルの爆上がりができるってわけ。

 ふふふ。あたしって頭いいかも!


「というわけでカフロディーテ! 魔寄せの笛【改】でメタルヒトデンを呼びまくって、あたしたちのレベルを上げまくりましょうよ!」


 この条件ならば、他の部下モンスターにも使えるだろうし、ザウス軍全体のレベルの底上げが可能だわ!

 みんなで強くなるなんて最高じゃない。


「無理じゃな」


「なんでよ?」


「笛がない」


「え?」


「ザウスが使っておる魔寄せの笛【改】は超キングメタルヒトデンだけを呼び寄せるように改良しておるのじゃ。格下のヒトデンを呼びたいのなら笛の音色を変更する必要がある」


 そうか……。


「笛は、無限ダンジョンで1つしか獲れないレアアイテムじゃしな。改造する笛がなくては絵に書いたパンじゃよ」


「ザウスが使っている笛を借りるわけにもいかないもんね」

 

「それに、モンスターには独自の音色を聞き分ける習性があっての。メタルヒトデンだけを呼び寄せるには生捕りが必要なんじゃよ」


 生捕りか。

 そうなると強固な檻が必要よね。


 これには外務大臣のスターサが助け舟を出してくれた。


「アダマンタイトの檻ならドワーフ族に頼めば作ってもらえるわよ。村長のウッドキリングさんは友好的だしね」


「いいわね! じゃあ、檻はスターサに任せたわ!」


 あとは笛ね。


 僧侶のミシリィは地図を指差す。


「えーーと。人間の領土なんですけどね。ズゥルイ伯爵の領内に『魔寄せのダンジョン』という地下迷宮があるんです。そこのダンジョンボスが魔寄せの笛を落とすみたいですね」


「よし、そこに取りに行こう!」


 笛を手に入れて改造をすれば、あとはメタルヒトデンの大量狩りよ。


 そんなわけで、あたしたちはズゥルイ伯爵の領土にやって来た。


 パーティーメンバーは3人。

 魔神狩りのアルジェナことあたし。大賢者カフロディーテ。そして、僧侶のミシリィよ。


 ズゥルイ伯爵領は人間の領土なので、魔公爵領から来たなんて言っちゃうと色々と面倒なのよね。

 なので、あたしたち3人は旅の冒険者ってことにして、伯爵と交渉をすることにした。


 ズゥルイ伯爵はガリガリに痩せた中年の男だったわ。

 目にはクマがついていて吊り上がっている。お世辞にもいい人相じゃないわね。

 なんならザウスより魔族っぽいかも。


「ほぉ……。旅の冒険者」


 伯爵はあたしたちの体をジロジロと見て、ニヤリと笑った。


 やれやれ。

 見た目が女だからって舐めないで欲しいわね。


「魔寄せのダンジョンに入りたい? ギルドのクエストかなにかですか?」


 ここは適当に話を合わせておこうか。


「ええ。まぁ、そうです」


「ふーーん。女3人でねぇ……」


 なんだか嫌な目つきだなぁ。

 

「では、条件を出しましょうか」


 う……。

 条件かぁ。

 なんだか嫌な予感。


 伯爵はタバコに火をつけた。

 独特の臭いがするタバコだなぁ。


「ふふふ。私はコレに目がなくてねぇ。プハーー。頭がハイになってね。最高に気持ちがいいんだ」


 違法薬草のタバコか。

 ザウスタウンじゃ禁止されているやつだな。

 体が痩せているのは違法薬草の効果ってわけね。


「1週間以内に魔草を採って来てください。魔寄せのダンジョンには魔草が生えています。それを期限内に持ってくればいいだけの話。簡単でしょ?」

 

 魔草かぁ……。


「ア、アルジェナさん。魔草といったら違法薬草ですよ」


 そうなんだけどね。

 まぁ、この際、仕方ないか。

 ふふふ。あたしは魔公爵領のアルジェナだもん。

 違法なことにだって手を染めちゃうのよ。


「わかりました。その条件を飲みましょう」


「ふは! 即決とは気持ちがいい。では、魔法契約書にサインをしてください」


 そこには1週間以内で魔草を持って来れない場合は、伯爵の奴隷になる旨が記載されていた。

 この契約書は魔法の効果があるからな。サインをして条件が発動すると強制的に奴隷紋が付与されてしまうんだ。

 ミシリィとカフロディーテはこの条件にいち早く気が付く。


「ア、アルジェナさん! こ、こんな条件は絶対にダメですよ!」


 とはいえ。条件を飲まないとダンジョンに入れないのよね。

 揉めるより条件を飲む方が早い。


「わかりました。サインしましょう」

「ア、アルジェナさん!?」


 背に腹は代えられないのよ。

 あたしはミシリィをなんとか説得してサインをした。


「ふはぁああああ!! いいですねぇええええ!! さぁ、今日から1週間ですよぉおおおおお!!」


 よし。

 魔草と魔寄せの笛。なんとしても1週間以内にゲットするぞ。


「知っていましたか? ダンジョンにはサソリ竜が棲んでいるのですよ? クハハハ! まぁ、もうそれを知ったところで契約書は返しませんけどねぇええええ!! プハハハハ!! サソリ竜はレベル50でも倒すのが難しいといわれています!! 女3人のパーティーでどうやって倒すんでしょうねぇえ? グハハハハーー!!」


 レベル50か。だったら余裕なんだけど……。

 なにごとも慎重に行くのが重要だわ。

 石橋を叩くように慎重にね。

 ふふふ。誰かさんの受け売りじゃないけどね。

 余裕であっても絶対に気を抜かない。全力でぶつかる。


 さぁ、タイムリミットは1週間。

 がんばるわよぉ。

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