第91話 気難しいドワーフを勧誘する
外務大臣のスターサが魔公爵領のいいところばかりを紹介している。
「ザウス様の傘下になれば、こんなにお得な特典が……」
手慣れたプレゼンだな。
ドワーフの村長ウッドキリングはまんざらでもない表情を見せているぞ。
なんだか怪しい勧誘をしてるみたいになってきている。
ここいらで、良いことばかりじゃないことはしっかりと提示しなくてはならないな。
「さてと、ウッドキリング。勘違いだけはするんじゃないぞ」
「な、なんだと!?」
「俺は悪の支配者だ!」
「むぅっ!?」
「俺の傘下になったところで、好待遇が続くとばかり思ってもらっては困る」
「なにぃいい!?」
「あわわわわわ! ザ、ザウス様ぁ。い、今はそのモードはちょっと違うような……」
いや、こういうのはしっかりと提示しておかなければならん。
あくまでも俺の支配下になるんだからな。
「ククク。おまえたちにはしっかりと働いてもらう。俺のためにな」
「ぐぬぅう……。それが貴様の本性か?」
「ククク。当然だろう。俺の領土にはメリットを与えるのが当然の条件だ。しかし、それは、そちら側に利用価値があっての条件だということを忘れるなよ」
「な、なにが目的だ?」
「ドワーフの技術だ。林業に付随する建築、施工技術。金属加工の製鉄技術。ハーブに詳しい知識も欲しいな。それらドワーフの生み出す産業を根こそぎもらうのが、俺の目的さ」
「ぐぬぅう……。いくら脅迫を受けようと、
ふむ。
そういえば、魔王領のドワーフ族がイケメンダールから悪魔覚醒を受けていなかったり、
村長の考えと関係がありそうだな。
「メタルベアからどうして攻撃を受けたんだ?
「
「ほぉ」
やはりか。
村人はのきなみ弱いのはそのせいだな。
「悪魔覚醒は女、子供、老人までも実施する容赦のない強化だ。全てはザウス軍と戦うため。しかし、
「ふむ。つまりは非戦闘員でありたいわけだな」
「そうだ。我々は戦いを好まない。木を切り、鉄を作り、薬草を採って静かに暮らしたいだけなのだ」
「じゃあ、そうすればいい。その生活は永遠に続けてもらう」
「な、なにぃいい!? し、しかし、今は魔王軍との戦争だろう? どうせ、傘下に加われば、
「やれやれ。ドワーフのチンケな力を宛てにするようじゃあ、その戦いは負けが確定だな」
「な、なにぃいいいい!?」
「だから言っただろう。嫌嫌やっても効果は低いと。俺の領土では適材適所。好戦的な種族は戦い、田畑を耕したい種族には農業をやってもらっているんだ」
「な、なんだと!? まさか、
「そうだ。ゴブリンやオークの中には戦いが嫌いで農業に興味があるやつがいる。俺の領土では、そんなやつらに農作物を作ってもらっているんだ」
「なにぃいいい!? モ、モンスターが農業をやるだとぉ!?」
「なにごとも適材適所さ。その方が効率が良い」
「ううむ。信じられん」
「無駄を廃止するのが性分でね」
村長はしばらく考え込んだ。
そして、
「教えてくれ……。魔王軍には勝てるのか?」
「負ける戦いなら初めから挑まないさ」
「ううむ」
「だが、確実とは言えないのが現状だな」
「なにぃ!?」
「メタルベアの強さを見ただろう?
「……し、しかし。おまえさんの力はすさまじいものがあったぞ。メタルベアを一撃で倒してしまった」
「あんな力は当然だ」
「と、当然……」
「
「うううむ」
「だから、今、こうして確実に勝てる方法を模索しているんだ」
「わ、
「そうだ。なんとしてもドワーフの力が欲しい。その技術で俺の力をパワーアップさせるんだ」
「ふぅむ……。わかったぞ!
「いや、檻だ。アダマンタイト製のな」
「な、なんだと!? そんな強固な檻。一体、なにをするのが目的なんだ?」
「超キングメタルヒトデンを生きたまま捕獲する」
「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「超キングメタルヒトデンだけを大量に呼び寄せる魔研究をするためにな」
村長は汗を滝のように流した。
「ちょ、超メタルキングヒトデンといえば伝説の魔獣だぞ。メタルベアより遥かに強い……」
「え? ま、まぁ、そうかな」
「そんな
「ははは。そんなバカな。あの程度の軍団で魔王が倒せるなら苦労はしないさ」
「あ、あの程度だと!? 超メタルキングヒトデンが、あの程度だとぉおお!?」
「ああ。一撃で倒せるしな」
「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
そもそも超キングメタルヒトデンのレベルは1万程度なんだ。
これなら俺じゃなくても部下のゴブ太郎でも余裕で倒せてしまうよ。
「ただなぁ。生きたままの捕獲が難しいんだ。俺がずっと抑えておくわけにもいかんしな」
「あわわわわわわわわわわわわわ……。し、し、しか、しかしだな。
「周辺って?」
「東は
「ああ。それなら大丈夫だ」
「な、なにか手は打ったのか?」
「眠らせてるからな」
「な、なにぃいい!?」
「隣接する10地区は全部な」
俺がかけた
キコリ村周辺の制圧は順番にやっていくつもりなんだ。
詳細を伝えると村長は顎が外れたように口をパックリと開けていた。
「め、めちゃくちゃだな……。で、ではアダマンタイトはどうする? 貴重な金属を集めるだけでも数十年はかかるのだぞ?」
ああ、
「それなら、ドロップアイテムを使おう。カタイ鉱山で遭遇した
そう言って、
「す、すごい……。こんな大量のアダマンタイト……。見たことがないぞ」
「な? 問題ないだろ?」
「…………」
「他に疑問があったら言ってくれ。全部、解決させるからさ」
「………………………」
結局、村長はなんとか納得をしてくれた。
晴れてキコリ村は俺の傘下に加わる。
その夜には友好の宴が開かれた。
「な、なんだ!? この樽の山は!?」
と、ウッドキリングは汗を垂らす。
やれやれ。俺がやる行動には過剰反応しすぎだってば。
「ザウスタウンで作ったエールだよ。おまえたちにはたっぷり働いてもらうからな。このエールは前代金みたいなもんさ。今日はたらふく飲んでくれ」
ドワーフたちはエールに大歓喜。
男たちは輪になって踊り、女たちは歌う。
宴の席では、大勢のドワーフの家族が俺の目の前で頭を下げた。
「ザウス様、主人を助けてくださり、本当にありがとうございます」
どうやら、メタルベアを討伐しようとしていた男たちの家族らしい。
そんな家族たちが、代わりばんこの俺の前へとやってくる。
ドワーフ族は子供が多い。一家族で7人とか普通みたいだ。
小さな子供たちは俺の方を見てニコニコと微笑んでいた。
あ、そうそう。
大人ばっかりは狡いよな。
「子供たちにはパイナプールのジュースを持って来たからな。酒が飲めない者はこっちを飲んでくれ。それと、魔公爵城の倉庫にお菓子の在庫が大量に余っていたんだ。腐らせるのはもったいないから持って来た。良かったら遠慮なく食べてくれ」
村長は、喜ぶ子供たちの姿を見ながら顎が開いていた。
「い、至れり尽せりだ……」
いや、それは違うぞ。
上質なアダマンタイトの檻を作ってもらうのが目的だからな。前代金だよ。
あと、子供に菓子を配るのは将来に向けての投資だ。大人になれば馬車馬のように働いてもらう。
ウッドキリングの話では、アダマンタイトの檻を作るには3ヶ月以上はかかるということらしい。なにせ体高20メートルを超える超キングメタルヒトデンを閉じ込める巨大な檻だからな。それくらいは仕方ないか。
などと思っていると、3週間後。ウッドキリングから呼び出しがあった。
「ザウス様。できました」
目の前には巨大な檻がそびえ立つ。
もうできたのか!?
「早くないか?」
「キコリ村の住民、総出で作ったのです」
聞けば、女、子供、老人までもが檻作りに手を貸したという。
「ずいぶんと無理をさせたな」
「いえいえ。
「驚く?」
「まさか、ドワーフ族の女たちが檻作りに協力してくれるとは思わなかった」
「珍しいことなのか?」
「製鉄の作業は男の仕事です。しかし、女たちが率先して参加した。村人が総出で檻作りをやればずいぶんと楽になる。キコリ村は24時間体制で檻作りを行ったのです」
ああ、だから、こんなに早くに完成したのか。
「村人たちが一丸となって仕事をするなんて、ドワーフの歴史でも初めてのことだ。みんなの生き生きとした顔。ふふふ。ザウス様にもお見せしたかったですよ。どうやら、ザウス様のために働くことは、
うむ。まぁ、楽しんでくれたならいいや。
これで超キングメタルヒトデンの生捕りができるぞ。
──
鉱石の名称に誤字が発生しています。
オリハルコンは誤字で、アダマンタイトが正式名称です。
気がついた方は報告いただけると助かります。
随時チェックして修正しております。
ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません。
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