第90話 ザウスはキコリ村を救う
メタルベアの咆哮。
『グォオオオオオオオオオオ!!』
やれやれ。
すさまじい声だよ。
体高20メートルを超える巨グマの鳴き声だからな。胃袋に響くというか、ちょとした地震が起こっている。
周囲にいるドワーフ族は縮み上がってるな。
メタルベアのレベルは5千だ。
加えて手に生えている爪は鋼鉄で、腕を軽く振るだけで村の周囲の木々を軽々と切断した。
こんなモンスターが相手じゃレベル100以下のドワーフ族は瞬殺だろう。
メタルベアは村の家屋に向かって手を上げた。
おっと、村を壊されるのは困るんだ。
今はまだ俺の領土ではないがな。俺のものになったら、家屋の損壊は俺の損失に繋がるからな。
そんなことは絶対に許されないんだよ。
「ふん!」
俺は片手を振った。
ドバァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
それだけでメタルベアの四肢はもげ、バラバラになって消滅した。
よし、殲滅完了。
「バカな!? い、一撃だと!?」
「ふほぉおッ! 見たか村長! これぞザウス様の真の実力でござる! 我が、主人は最強なんだサイ!!」
メタルベアが消滅した跡に、数人のドワーフ族が倒れていた。
どうやら、メタルベアに食われていたらしい。俺が消滅させたから腹から出て来たんだ。
全身、傷だらけだが、かろうじて息はありそうだぞ。
「
これで全員助かっただろう。
「こ、ここは……? 俺たちは助かったのか?」
「ああ、おまえらはメタルベアに食われていたようだ」
「き、傷が治っている……。それもあんたが?」
「まぁな」
「…………ゆ、夢みたいだ。生きている」
ドワーフの男は周囲をキョロキョロと見渡して、
「村だ……。キコリ村だ。お、俺は生きているんだ……」
その目には涙が浮かんでいた。
死を覚悟していたのだろう。まぁ、クマに食われりゃそうなるわな。
そんな男に数人の子供たちが抱きついた。
「「「 父ちゃん!! 」」」
子供たちの後ろには女が控える。
どうやら奥さんのようだな。
家族の再会か。
いい光景だよ。
そんな時。村長は俺のことを見つめていた。
その視線は、なんとも形容のしがたい猜疑心のある目だ。
でも、さっきまで感じていた敵対心は明らかに消えている。少しはマシになったということか。
「ザウス……。話を聞こう」
村長のウッドキリングは自分の家に俺たちを招待してくれた。
出されたハーブティーはなかなかにいい味だ。
ドワーフ族は薬草にも詳しいらしい。外務大臣のスターサはそのお茶を気に入って飲んでいた。
俺は再び、村長に交渉をした。
まぁ、交渉と言っても侵略の和解交渉だがな。
「
「そうじゃないさ。これは俺の侵略行為だ。おまえたちはやむなしで俺の配下に加わってくれればいいよ」
「や、やむなしって……。こんなに平和的に会話ができているじゃないか」
「当然だろ。嫌嫌、傘下に入ってもいい仕事はしてくれないさ。それなら入らない方がマシだよ」
「むぅ……。おまえたちは
「そういうことだ。もちろん、貰うだけじゃないぞ。与えることもするさ。さっきのメタルベアだってそうだろ? 俺の傘下になれば、この村に損害は与えない。
「うーーむ」
「それだけじゃないぞ。俺の領土で収穫した農作物や、医療技術、工芸品、武器、アイテム、その他もろもろ。全て共有させてもらう」
「う、うーーむ……」
スターサは一覧表を見せた。
「これを見てください。魔王領と魔公爵領の税収を比較した物です。えへへ」
「……あ、あり得ない! ぜ、全部、魔公爵領の方が軽いじゃないか! 麦の年貢が6割だと!? どこの王国がそんな軽い割合でやっているのだ!! あり得んだろうが!!」
「ふふふ。それがあり得てしまうのがザウス様のお力なんですよ。ドワーフ族はお酒は飲まれますか? ザウスタウンでは、エールが1杯、たったの1コズンなんです!」
「なにぃいいい!? た、たったの1コズンだとぉおお!? キコリ村の半値以下じゃないか!? ど、どうせ安価なハーブを大量に混ぜ込んだ粗悪な発泡酒だろう!?」
「ハハハ。そんなお酒は流行りませんよ。麦芽100パーセントの上質なエールです」
「ど、どうしてそんなに安い値段で提供できるのだ?」
「魔公爵城に納める酒税が1割未満ですからね。加えて、エールの定価は製造工程を確認して魔公爵城で決めてしまいます。なので、安い値段で高品質のエールが提供できるんですよ」
「うううむ……」
なんだか、怪しい通販番組を観ているようだな。
まぁ、一応、安い税収にしているのには理由があるんだ。
それは仕事の負担軽減と働き甲斐を増やすことに貢献している。
仕事が楽で、それでいて楽しい。これが一番、領土が発展する要素なのさ。
領土が成長すれば領民が増える。領民が増えれば税収が増えるんだ。この仕組みさえ構築できれば税収は抑えられるのさ。酒税1割、格安で高品質のエールの誕生というわけ。
つまりは、
「楽しいは正義! ……なのです!!」
そうそれ。
結局そういうことなんだ。
ウッドキリングは眉を寄せた。
「うううむ。信じられん……。楽しいは正義か」
「ふふふ。あと、これはですね──」
と、スターサは棒グラフが書かれた表を見せる。
「最近になって魔公爵領に入った元魔王領だった場所の発展状況です。全ての場所で2倍以上の発展を遂げています。続いて、領民たちの満足度調査結果です」
ん?
ま、満足度調査ぁ?
「子供から老人まで、ランダムで領民からアンケートを取ってみました。するとどうでしょう。なんと、100パーセントの領民が『魔公爵領に移って良かった』と答えてくれたのです」
おいおい、
「なんだそれ? 俺は知らないぞ??」
「外交の一環として必須なんですよ」
「そ、そうなのか?」
「えーーと、アンケートには様々な方から匿名で答えてもらっていますね。たとえば……。『主婦でも添い寝ノートには記帳がしてぇだ』と書いてくれたのは匿名のランドソルジャー主婦……」
「あのなぁ」
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