第89話 キコリ村

 俺は10地区に睡眠魔法をかけて眠らせる作戦を立てた。

 10地区とは、俺の領土からキコリ村の間に存在する村や街の数だ。侵略するのに数ヶ月かかるらしい。

 そんなことではキコリ村の侵略が遅れてしまうからな。

 今は、キコリ村に住むドワーフ族の製鉄や大工の腕が欲しいんだ。


 ドワーフ族が住むキコリ村を占領すべく、今日中で10地区を眠らせる。

 今さっき1地区は 熟睡魔法グッスーリで眠らせたからな。

 残り9地区をささっと眠らせてしまおう。


 さぁ、移動……。

 っと行きたいところだがな。

 1地区間は数十キロの間隔があるんだ。

 それをザウス軍に移動してもらうだけでも日が暮れてしまうよ。


 そこで、俺の 加速アクセルの移動魔法を使うことにした。


「みんな。麻のロープは握ったか?」


 頷いたのは、千匹を超えるサイ人族の戦士だった。

 そいつらを数十キロ先まで移動させる。


加速アクセルの魔法は音速だからな。すさまじい空圧がかかるんだ。普通に移動すると体が潰れてしまう。だから、俺の周囲には 魔法マジック 防御ディフェンスで魔法壁を張るのが基本なんだ」


 俺は千匹以上いる部下モンスターの周囲に魔法壁を張った。

 これで音速でもノーダメージで移動ができる。


「んじゃ、次の地区に移るぞ。 加速アクセル


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


 麻のロープを通じて 加速アクセルの効果が数千匹の部下モンスターに共有される。

 全員で音速移動だ。


「はい。到着」


 数分で次の地区に移動する。


 んで。


七段階強化チャクラ イヴォーク  レベル20倍強化セカンドバーストぉ!」



 これで俺のレベルは20倍された。

 素のレベル12万の20倍だから、レベル240万といったところか。

 ステータスの知力を爆上げしてから広範囲の高威力魔法の発動。


熟睡魔法グッスーリ


 睡眠魔法で地区にいる領民たちを全員眠らせる。


 あとは、部下モンスターに眠った領民の対応を任せるんだ。

 火や食料の始末。眠った領民をベッドに移動させることが主だな。


「よし。この地区はサイ人たちに任せて次の地区に移動しよう」


 次はオークを使う。

 

「麻のロープを握るんだ。いいな?」


 んで 加速アクセルで移動して、同じことの繰り返し。

 部下モンスターは獅子人族、サイ人族、オークと3種族を交互に使って行くんだ。

 まぁ、その都度、俺が戻って運ぶ必要があるからな。まぁまぁな手間だったりする。


 そんなこんなで10地区全てを眠らせることに成功した。


 スターサは目を見張る。


「す、すごいです! 数ヶ月かかる占領がわずか1時間半で終わっちゃいました」


「まぁ、眠らせただけだからな。占領は順々でやってもらうよ」


「そ、そうでしたね……。でも、すごいです……。想像もつかない侵略です……」


 まぁ、これでキコリ村に干渉する地区はなくなったからな。


「さぁ。ドワーフたちと話しをしよう」



 ドワーフとは、小人の魔族のことだ。

 よく童話なんかで出てくるイメージと同じだな。

 男は15歳になると髭を生やすので、村の中は髭の生えたドワーフが多い。女と子供に髭はないようだ。

 種族によって色々なしきたりがあるから、その辺の異文化に触れるのは面白いよな。


 さてっと。


 俺たちがキコリ村に入ると大騒ぎが起こった。


「ザウス軍が攻めてきたぞーー!!」

「きゃーー!! 敵よぉおお!!」

「裏切り者のザウスだぁああああ!!」

「村長に連絡だーー!!」

「女と子供を隠せぇえ!! 男は斧を持って外に出ろぉおお!!」


 まぁ、わかりきっていたことだが、そうなるよな。


 俺たちはドワーフ族に囲まれた。

 その視線は親の仇でも睨むようにジリジリとしている。


「まぁまぁ。そう怖い顔しないでくれ。こちら側に攻撃する意思はないからさ」


 と、そんな時だ。

 俺の首元に向かって矢が飛んできた。


ベキン……!!


 その矢は俺の肌に触れると折れてしまった。

 

 ふむ。

 こんな、しょぼい武器じゃダメージなんか通らんからな。

 矢を撃ったのは屋根からか。一発で首元に当てるとは、なかなかの腕前だな。

 やはり、ドワーフ族は器用だ。


 屋根にいるドワーフでレベル50弱か。

 村人たちは、のきなみレベル100以下だな。

 どうやら、イケメンダールの悪魔覚醒は受けていないらしい。


「俺に攻撃なんか通らないからさ。村長と話させてくれよ」


 群衆の中から老人が現れる。

 その片目は潰れており筋肉質。顔のしわでなんとなく老人だとわかる。


わしが村長のウッドキリングだ」


「魔公爵ザウスだ」


「フン……! 裏切り者が、何をしに来た!?」


 うん。

 もうハッキリと言ってしまおうか。

 濁すより、明確にさせた方がいい。



「侵略しに来た」



 俺の言葉に周囲は騒つく。

 村長のウッドキリングは顔を歪めた。


「か、帰れ! ここは魔王領だ。おまえには手をかさん!」


「まぁ、そう言うなよ。魔王領より、俺の領土になった方が恩恵はあるからさ」


「お、恩恵だと? ふん! 適当なことを言いおって! わしらを奴隷にしてこき使おうという算段だろうが!」


「……まぁ、それで俺が得をするならそうするがな」


「なにぃいい!?」


「嫌嫌に俺の領土になったって、いい仕事はしてくれんだろう。大事なのはメリットの共有だ」


「メ、メリットの共有だとぉ?」


「そうだ。お互いのな」


 村の中の家屋は綺麗な木の家ばかりだった。

 一つ一つの木材が美しく組み立てられている。


「この村の家……。すごく丁寧な作りだな」


「ふん! 裏切り者の貴様に物の良し悪しがわかるもんか」


「裏切り者だって、物の良し悪しくらいはわかるさ。家の一軒一軒が丁寧に作られている。街の看板は金細工だな。ドアノブは鉄か。金属を加工する技術に長けた証拠だ」


「……ふん! だからなんだ?」


「その技術が欲しい」


「ふん! 裏切り者の魔族になんか手はかさん! 帰れ!!」


 やれやれ。

 ここはメリットの提示が必要だな。

 ザウスタウンから輸入できる物資は、必ずこの村に多大なる恩恵を与える。


 などと思っていると、村人らしき男の叫び声が響いた。


「みんな逃げろぉおおおおお……!! メタルベアが襲ってくるぞぉおお!!」


 男のドワーフは傷だらけの瀕死だった。

 どうやらメタルベアにやられたらしい。


 村長は男に駆け寄った。


「イヤット。他の仲間はどうした!?」


「メ、メタルベアに食われちまったよ……。み、みんな逃げ……ろ」


 イヤットと呼ばれた男はそのまま気を失った。


 メタルベアといえば、あの洞穴に出現した 湧き出る怪物ワイテデールだよな。

  湧き出る怪物ワイテデールは魔王の加護を受けたモンスターの総称だ。

 特別な自我はなく、魔王に敵対する存在をひたすら攻撃する。


「そのモンスターってカタイ鉱山付近のモンスターか?」


「そうだ……。最近はその周辺から凶悪な 湧き出る怪物ワイテデールが出現してな。村の林業に多大なる被害が出ておるのだ」


 ってことは、あの洞穴から出て来たと考えていいだろう。

 あの辺はオークの護衛をつけていなかったからな。そんなことになっているとは知らなかったよ。それにしても不可解だな。 湧き出る怪物ワイテデールは魔王の敵しか攻撃しないのに。


「おまえらは魔王領の領民だろ?  湧き出る怪物ワイテデールに攻撃を受けるなんておかしいじゃないか?」


「それは……」


 やれやれ。

 なにやら、理由がありそうだな。


「村長! イヤットの言うとおりです! メタルベアが襲ってきました!!」


「そ、そんな……。こんな所にまで……。お、終わった……」


 ふむ。あれか……。


 村人が指差す方を見ると、巨大な鉄肌のクマがこの村の方へと向かって来ていた。

 体高は20メートルを超えているだろうか。ずいぶんと大型のクマだ。


 レベル5千か。

 対するドワーフ族はレベル100以下だからな。あの1匹で全滅だろう。


「村長。メリットを提示しよう」


「な、なんだと!?」


最上級エキストラ 回復ヒール


 すると、イヤットは目を覚ました。


「ハッ!? か、体が治った!?」

「なに!? 最上級の回復魔法だと!? な、なぜだ!? なぜ治した!?」


 なぜかって?

 そんなことは決まっている。

 

「俺の部下になるからさ。部下のダメージを治すのは支配者の勤めだろう」


 次はメタルベアだ。



────

すいません。

ドワーフ族がホビット族になっている場合があるようです。

もしも、気づかれた人は報告していただけるとありがたいです。

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