第88話 ザウスの奇行

 俺たちは魔公爵領の端に来ていた。

 俺の後ろにはサイ人族や獅子人族、オークの軍勢がズラリと並んでいる。

 みんな、血気盛んだからな。なかなかの威圧感だよ。

 この場所から、キコリ村まで10地区の街や村があるわけだ。


「え、えっと……。ザ、ザウス様……。こ、これでは……。まるで武力で制圧するようなものです。た、戦っては死傷者が出てしまいますよ?」


「……でもさ。魔王軍が強化されている今。どうしても時間が惜しいからな。止むなしなんだ」


「や、止むなし……。あわわわ」


 まず1つ目の地区。


「ザ、ザウス様。こ、ここは千人の人間が暮らす村です。こ、こんなに大勢のザウス軍で攻めれば、それはもう瞬く間に侵略は済んでしまうと思うのですが……。そ、それでも敵側からの応戦があれば1日では終わらない可能性がありますよ? 家屋が火事になれば復興作業にも追われますし……。あ、あのつまりその……。あわわわわ」


「うん。言いたいことはわかるよ。武力で制圧しようにも必ず時間がかかる。そう言いたいんだろ?」


「そ、そうです。その……。生意気にも意見を言ってしまうのですが……。武力での制圧はデメリットの方が多いと思うんです。しかも、10地区もあるんですよ? 損害は計り知れません」


「だったら消してしまえばいい」


「え!?」


「反抗する存在を1人残らずな」


「ええええええええええええええ!?」


 1日に10地区を占領するなんて不可能だ。

 だったら、消してしまえばいい。それだけの話。

 はぁあああ……。




七段階強化チャクラ イヴォーク  レベル20倍強化セカンドバーストぉ!」



 

 うむ。

 これで俺のレベルは20倍だ。

 レベル12万の20倍だから240万レベルか。


「え!? ちょ!? ザ、ザウス様!? ほ、本気ですか!? この村には千人もいるのですよ!? 村民の命を奪うおつもりですか!?」


「時間が惜しいからな。この方法しかないんだ」


「だ、だからって! そんなの酷いです!! せ、千人の命を奪うなんて!!」


「この方法しか……ないんだ」


「ザウス様ぁあああああああああああああああああ!!」


 それはスターサの叫びと同時だった。

 俺は手の平から魔法を放った。







熟睡魔法グッスーリ






 睡眠を誘う眠り魔法。

 その効果と適用範囲はステータスの知力に影響する。

 知力が高ければ高いほど威力があって、広範囲に付与することが可能なんだ。


「す、す、睡眠魔法……?」


 と、スターサは崩れ落ちた。


 さて、説明を始めようか。


「レベル240万の 熟睡魔法グッスーリだからな。1度かければ10日間は起きてこないさ。しかも、広範囲にかけれるから1回の発動で村全体に付与できる。つまり……」


「む、村人全員を眠らせた……」


「ああ、そういうことだな」


「で、でも……。どうしてですか?」


「まぁ、見ててくれ。指示を出しながら説明するよ」


 さてっと。


「ここからが大仕事だぞ。サイ蔵は部下モンスターの指揮をとってくれ」


「な、なにをするんでサイ?」


「村人の介護さ」


「か、介護でござるか!?」


「村人たちは、その辺でぐっすり寝込んでいるからな。1人ずつ拾ってベッドに寝かしてやって欲しいんだ」


 村に入ると、村人は様々な仕草で寝込んでいた。

 ある農夫は畑を耕そうとして。そして、女は洗濯をしたまま寝る。料理を作っている者、遊んでいる子供。家畜もペットも、生きているものは全てが睡眠状態になっていた。


「な、なるほどサイ。料理をしている場合は火を消さなければいけないでござる。眠った地区の対応をするために部下モンスターをこんなに出したでござるか」


「そういうことだな。外にいる者の家はわからないだろうからさ。そこは適当に近くの民家のベッドを使ってくれ。できれば男女別々でな。これは目が覚めた時のトラブルを回避するためだ」


「りょ、了解したでござる」


「あと、食品の処分も頼むな。何日寝るかわかないからさ。食べ物が腐っては衛生上、問題が出るだろうからな。腐敗しそうな食品は処分してくれ」


 スターサは小首を傾げる。


「ど、どうしてこんなことをしたのですか?」


「ああ。時間が惜しいからな。明日にはキコリ村と話しがしたい。そのためには10地区の存在が面倒だろ。だから、しばらくは眠ってもらおうと思ってな。今日中には10地区を眠らすつもりだ」


「……も、もしかして。キコリ村を自軍に加えてから、10地区の制圧を始めるというこですか?」


「そういうことだな」


「……つまり、1地区ずつ、眠りを覚ましてからやるということですね」


「ああ。そうすれば他の地区の干渉を受けないだろ? 眠ってるなら文句は言えんしな」


「はぁ〜〜。……す、すごい発想です。10地区が眠っている間にキコリ村を占領する作戦」

「み、見事サイ。こんなことはザウス様しかできないでござるよ!」


「よし。村人の介護は部下モンスターに任せて俺たちは次の地区に移動しよう。今日中で残り9地区を眠らせてやるからな」


 スターサは俺に抱きついた。


「あはぁ!! ザウス様ぁああああ!!」


「お、おいおい。急になんだよ??」


「だってぇ……。心配しました。村を全滅させるのかと思ったから……」


「バカだな。そんなことするわけないだろ」


「……そう、ですよね。うふふ。ザウス様だもん。村人の命を奪うなんて……。ふふふ。絶対にしませんよね」


「勘違いするなよ。村人の命なんかどうでもいいからな」


「わ、わかってます。自軍になった時の損失に繋がるからですよね!」


「そういうことだな」


「うふふふ。ザウス様ぁあ」


 と、俺の胸に顔を埋める。

 やれやれ。

 

「さぁ、わかったら次の現場だ」


「はい! 今日中に10地区を眠らしちゃいましょう! そして、キコリ村の占領が終わったあとに随時、起こして和解侵略です!」


 そういうことだな。

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