第87話 キコリ村の占領作戦
俺は外務チームの事務所に来ていた。
外務大臣のスターサにドワーフ族の住むキコリ村を占領してもらいたいためだ。
それにしても、この事務所……。
以前に来た時は書類の山だったんだがな。
今はピカピカに清掃されていて、花まで飾られている。
なんだか、見違えるように綺麗になったよ。
これも商人の爆乳娘、ナンバのおかげか。
社交性のあるスターサ。優しくて真面目な僧侶のミシリィ。商売上手なナンバ。
この3人娘はかなりのいいトリオのようだな。
ふふふ。部下の仕事が順調って上司としては気分がいいよな。
おっと、感慨にふけっている場合ではないな。
事務員に聞いてみようか。
「スターサがいないようだな?」
「ええ。スターサさんはザウスタウンにある魔公爵商業ギルドですね。午前は実務がおありでしたから、拡張されたザウス様の領土について、ギルドで書類整理をされているのだと思います」
「なるほど。そういうことか」
「馬車を手配いたしましょうか? 今からなら夕方までにはなんとか間に合うかと」
「ありがとう。走った方が早いから、手配はしなくていいよ」
「え?」
「
「きゃああ!!」
できる限り、
そうしないと事務所がめちゃくちゃになってしまうからな。
とはいえ、音速を超える移動魔法だから、事務所の書類を宙に舞い上げるくらいのことにはなったかもしれん。
急いでいるからな。それくらいは許して欲しい。
何十キロ離れた場所にだって数分で着く。
一応、片手にはサイ顔の忍者、サイ蔵を連れている。
「す、すさまじい速さでござる」
普通。音速の風圧をモロに受けたら息なんかできないし、なにより肺が潰れてしまうんだがな。
などと、説明してる間に到着だ。
「こ、ここはどこでござろうか?」
「魔公爵商業ギルドさ」
爆乳商人美少女、ナンバの経営する商業ギルド。
「仕事の大半は占領した領土と元々の魔公爵領との橋渡し。まぁ、外交が円滑に進むようにしてくれている、外務チームの別事務所と思ってくれたらいい。ザウスタウンの中央にあるのは仕事の効率性を上げるためさ」
「ほぉ〜〜。すごいでござるな」
ギルドに入るやいなや。
その場にいる全員が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「「「 ザウス様! ようこそおいでくださいました!! 」」」
うむ。
ここも教育が行き届いているな。
ギルド内は綺麗だし、この下に敷かれているフカフカの絨毯なんて刺繍が見事だよ。
内装は品があって、商業ギルドって感じがするな。
高級ホテルのラウンジを思わせるような立派な椅子があちこちに配置されている。
ギルドの2階がギルド長室になっていた。
3人娘はその部屋で会議をしているようだ。
「ザウス様ぁああ!!」
笑顔で出迎えてくれたのは外務大臣のスターサだった。
うむ。
元気そうでなによりだ。髪の毛は整って肌の血色がいい。
ちゃんと休みをとって寝ている証拠だな。
「珍しいでんな。ザウスはんがここに来てくれるやなんて」
「ちょっと野暮用でな」
「ああ、ほんなら奥の客室を使ってください。丁度、ええお茶っぱが入りましたさかいな。今、淹れるよってに、お茶でも飲みながらゆっくりと話しまひょ」
俺たちは客室に通された。
客室といっても、壁には地図が貼られており、その他にも輸入物資の一覧表や、ファイリングされた資料がビッシリと置かれる。
商業用の客室って感じだな。
「キコリ村の占領……ですか」
「ああ。アダマンタイトを使った強固な檻を作りたい。そのためにはキコリ村に住むドワーフ族の協力を仰ぎたいんだ」
「えーーと……」
と、スターサは地図の前に立った。
「今はここまで占領できています。キコリ村といえばずいぶんと先の場所ですね」
ふーーむ。
「街や村を1地区と考えて、魔公爵領からキコリ村までは10地区も離れていますよ?」
「それは厄介だな」
「えーーと。拙者は占領についてよくわからんサイ。10地区くらい離れてようがキコリ村を占領すればいいのではござらぬか?」
「それは悪手だな」
「なぜでサイ??」
「単独でキコリ村を占領してみろよ。周囲は魔王領なんだぞ。どうやってキコリ村を守るんだよ?」
「たしかにサイ……。兵を補充するにも敵国の領土を通らないといけないでござるな」
「物資の貿易だってそうさ。間に10地区も敵国がいるんだからさ。攻撃を受ければ損失になる」
「なるほどサイ。そうなると、占領は隣接した土地を順々に占領していく方法が最良なわけでござるな」
そういうことだだな。
「スターサ。10地区を占領するにはどれくらいの期間がかかるんだ?」
「そうですねぇ……。今までの侵攻具合から……。かかっても3ヶ月……。早くて2ヶ月といったところでしょうか」
うーーむ。
そんなに待てんな。
魔王軍がいつ攻めてくるかわかない。できれば、早く済ませたいよな。
「あ! でも残業と休日出勤をすればもっと早くなるかもしれませんよ!!」
「ザウスさん! わ、私もがんばります!!」
やれやれ。ミシリィまで……。
この2人は頑張り屋さんだから困るよ。放っておくと自分を犠牲にして働いてしまうんだ。
「無茶はいうな。そんなことでおまえらの体調を崩すことは許さん」
長期的に見れば大損だからな。
有能な社員には末長く働いてもらわなければいけないんだ。
スターサは眉を寄せた。
「でもぉ……。侵略には時間がかかります。多少の武力はチラつかせますが、基本は和解なんです。反逆者が生まれないように、じっくりと対話をしながら侵略を進めます。一番、時間がかかるのはメリットの説明なんですよね」
「うむ。たしかにな……あれは時間がかかる」
「せ、拙者は意味がわからんでござるよ。侵略とメリットとはどういうことなんだサイ? ザウス軍の力があれば簡単に侵略ができるんじゃないんでサイ?」
「ああ、説明しますね。ザウス軍は基本的に攻撃はしません。地区が損害を受ければ自軍になった時に、それがそのまま魔公爵領の損失に繋がりますからね。だから、占領先の地区にはメリットを提示して納得して寝返ってもらうんです。戦わずして占領するわけですね」
「し、しかし、ザウス様は魔王の敵だサイ。崇拝している魔王を裏切るのは、なかなか至難の業ではござらんか?」
「だから、メリットの提示をするんですよ。魔王領より、魔公爵領に入った方が地区にとってメリットが大きければ、断る理由はありませんからね。例えば年貢。魔王領の場合、麦の年貢は収穫高の9割が基本です。魔公爵領は6割ですからね。他にもメリットは盛りだくさん。酒税なんかも面白いですよ。魔王領では7割もお酒の税金を取るんです。でも、魔公爵領では、たったの1割ですからね。ふふふ。領民の楽しみを奪うのは悪手だっていってね。ザウス様が酒税は1割にしてしまったんです。もうこれだけでも魔王領との差別化ができてしまいますよね。ハッキリいって全てが魔王領より上位です。断る理由なんて1ミリもありません」
「ふむぅ……。そうなるとメリットを理解するのに時間がかかるわけでござるな」
「そうなんです。メリットの条件は地区によって違いますからね。禁酒が定められている地区だってありますから、そんなところで酒税が1割であるメリットを話す理由はないんです。なので、まずは地区の現状を把握するのにも時間がかかりますね。その上で、メリットの提示。相手側がメリットの把握。そして、和解して魔公爵領に入ってもらうんですよ」
「それは時間がかかるでござるな」
「ええ。1地区を完全に占領するのに、順調にことが進んで4日。手こずる場合は2週間もかかってしまう時があります。ですから、10地区ともなりますと、急いでも数ヶ月はかかってしまうんですね」
うーーむ。
10地区の和解かぁ……。
「よし。1日で済ませよう」
「え? ど、どうやるんですか!? じゅ、10地区もあるのですよ!?」
「サイ蔵。2400匹のサイ戦士の軍団を動かしてくれ。スターサは獅子人族とザウス重騎士団の手配も頼む」
「な、なにをされるんでござるか??」
「お、大事ですね……。い、一体なにをされるのでしょうか??」
「面倒だからな。一気に解決しようと思う」
────
*酒税1割について補足。
酒の定価は魔公爵城で管理します。
申請された製造工程とコストを計算して定価の上限値が設定されるんですね。
その定価は周辺国の半値といわれています。要するに、魔公爵領ではビールが半値で飲めるようになるわけです。現代社会でいえば、缶ビールが一本100円くらいの値段ということですね。
加えて定価の設定は魔公爵城で管理しますから、製造側だけがボロ儲けになる仕組みではありません。製造側だけが儲かると、領民たちはその仕事しかしなくなります。そうなると、その産業だけが発展して農業が衰退してしまいます。ザウスはそのバランスを見ながら、領民の利益と領土の発展のバランスを常に考えているんですね。あ、もちろん、魔公爵城の利益が一番なのはいうまでもありませんw 結局、酒税を安くした方が、関連する飲食店も儲かるし、領民たちはお喜び。そっちのが城に収められる税収が上がってザウスタウンが発展するようですね。
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