第79話 ザウスとサイの忍者

*時間は少し戻って、カクガリィダンが気絶したその直後の話。



〜〜サイ忍者視点〜〜


 拙者はサイ忍者サイ蔵。


 カクガリィダン率いる、2400匹のサイ戦士軍団のリーダーだサイ。サイ戦士というのは、獣人であるサイ人族の戦士のこと。

 この軍団を、表で指揮しているのは土組親衛隊長のカクガリィダン。

 拙者は、その軍団の影のリーダーなのでござるよ。


 まさか、カクガリィダンがゴブリンに負けるとは思わなかったでサイ。

 これは魔王さまに伝えなければいけないでござるよ。


 拙者は気配を消してその場を抜け出していた。

 拙者のサイ忍法ならば、ザウスに悟られることなく逃げ切ることは容易サイ。


 と、その時でござる。

 目の前に黒マントの魔族が現れたでサイ。


「むっ!? 何やつ!?」


 青い肌。額の一本角。


「きさま! ザウスか!?」


「どこへ行くんだサイ蔵?」


「んぐ。ど、どうして拙者の名前を知っているサイ!?」


 拙者は影のリーダーだサイ。

 軍団を率いていたのはカクガリィダン。

 拙者は目立たずに気配を殺していたのに……。


「まぁ、一応、好きなキャラだったからさ。ガオンガー同様にフィギュアも持ってたしな」


「な、なんのことサイ? おまえと拙者は初対面でござるよ!?」


「え? あ……。いや。そうだったな」


「そ、そんなことより、どうして拙者のことがわかったサイ?」


「気配かな……。なんとなくな。1匹だけ群れから離れるやつがいたからさ。サイ軍団のことはゴブ太郎に任せて、俺だけでおまえを追って来たわけさ」


「…………」


 そんな……。

 気配は消していたはずなのに……。

 

 こやつの能力は未知数。

 戦っても負ける気はしないが、今はこの状況を魔王さまに知らせる方が先でござる。

 仕方ない。


「サイ忍法。瞬足獣走!!」


 この忍法は走る速度を格段に上げることができるサイ。


シュタタタタタタタタタタタタッ!


 時速120キロで走るなり!!


 ククク。

 これで誰も拙者に追いつけないでござるよ。

 魔王軍、最速はこのサイ忍者サイ蔵なり。


「一気に突っ切るサイよぉおおお!!」


 よし。

 もう10キロは走っただろう。

 大分と距離を離したはずサイ。


 ん!?

 あ、あいつは!?


「よぉ。遅かったな」


「ザーーーーウス!?」


 そ、そんなバカな!?

 拙者の速度は魔王領一だサイ。

 それなのにどうして!?


「ほぉ……。レベル3000か。ずいぶんと強くなっているんだな。もともとはレベル300くらいだったはずだ」


「ぐぬぅ……。どうしてそんなことを知っているサイ?」


「イケメンダールにレベルの限界突破と悪魔覚醒を受けたな?」


「うぐぐうう……! そ、そんなことまで!?」


「まぁ、なんでもいいさ。その強さならカクガリィダンより強いじゃないか。それなのに影のリーダーをしていたのか?」


「そ、そんなこと、貴様には関係ないことでござる!」


「いや。関係はあるな。おまえは部下に欲しいんだ」


「な、なにぃいいいいい!?」


「カクガリィダンとの約束でな。ゴブ太郎が勝ったらサイ戦士軍団は俺のものになることになっている。つまり、おまえは俺の部下だ」


「ふん! 部下になるなら主従契約は必要サイ。それまでは敵でござる!」


「やれやれ。じゃあ、主人である実力を見せないと納得しないか」


「フハハハ! 腕には少々自信があるようでござるな! しかし、過信は禁物でござるよ。油断は身を滅ぼすサイ」


「うむ。その考えは嫌いではない」


「えええい! その余裕! 癪に触るサイ!!」


 拙者は煙玉を破裂させた。

 ザウスの眼前には粉塵が舞う。


 サイ忍法。煙り隠れ。


 相手の視界を奪い、拙者が優位に行動する。

 逃亡も攻撃も自由自在。

 今回は攻撃をさせていただく。


 虚をつかれれば避けることはできまい。


 ククク、拙者が抜いたこの刀は、最強の金属アダマンタイトで作り上げたものでござる。

 その名も妖刀、アダマンタイ刀。この刀はどんな物でも簡単に切ることができるサイ。熟したパイナプールを斬るように、スパッとな。ククク。無敵の刀でござるよ。

 そして、この刀を使って繰り出される必殺の斬撃──。

 



「喰らえ!!  一切合砕いっさいがっさい!!」




 煙りの目眩しで拙者の斬撃は見えまい!!

 油断大敵とは正にこのことよ。

 拙者を敵に回したことを激しく後悔するがいいサイ!!


 アダマンタイ刀はザウスの眉間を捉えた。


「ハハハ! 防御する余裕もないかぁああああ!!」


 終わりだ!

  一切合砕いっさいがっさいで斬れない物はない。


 ザクっとぉおお──。


カチン……!!


 あれ!?

 皮膚に当たってこの接触音はなんだ!?

 

 止まっている……。

 アダマンタイ刀の切っ先がザウスの眉間で止まっているぞ。


 しかも、



ガキィイイイン……!!



 な、なにぃいいい……!?


 お、折れただとぉおおお!?


 アダマンタイ刀が折れただとぉおおおおおおおおおおお!?


「バカな!? き、斬れないだとぉおおおおおおお!?」

 

「うむ。油断は大敵だがな。防御するのは労力がかかる。省エネ行動は次の攻撃に備える最優先事項なんだ」


 なにぃぃいいいいいいい!?

 防御する動作さえも面倒だとでも言いたいのかぁああああああ!?


「ふざけるなぁああああああああああ!!」


「いや。ふざけてはいない。いつでも注意は万全だ。絶対に油断はしない。……絶対にな」


 ぐぬぅううう!!

 だったら次の忍法でござるぅうう!!


「サイ忍法。残像分身!!」


「お。3匹になった」


「ははは! 本物がどれかわかるまい!!」


 この技は超スピードで残像を作りだす忍法なのだ。

 

「100年間も修行をして身につけた秘技だサイ! 見破ることは不可能でござる!」


「へぇ……。100年も修行したのか」


 習得できるのは天才のサイ人のみ。1万匹に1匹しか習得できないといわれている伝説の技なのだ。

 本物は右端。

 ククク。しかし、素人にそんなことがわかるはずがないでござる。

 ザウスの混乱は必須。その隙をついて──。


「本体は右端のおまえだな」


「なにぃい!? ど、どうして!?」


「どうしてって……」


 ザウスは6人に増えていた。


 なにぃいいいいいいいいい!?


「なんか見よう見真似でやってみたらさ。……できた」


「なぜだぁあああああああああああああああああああああああああ!?」

 


 

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