第78話 規律正しく
〜〜カクガリィダン視点〜〜
ぼんやりと、視界に映るのは木の天井。
私はベッドの上で寝ていた。
「こ、ここはどこだ……?」
ボロボロの部屋だ……。
どうしてこんな場所にいるんだ?
私は確か──。
『ゴブゴブゴブゥウウ!! バーーーーストォォオオオオオオオオオ!!』
ひぃいいいいいいいい!!
そうだ! 思い出した!!
私はゴブ太郎の攻撃をモロに受けて気絶してしまったんだ!!
それなのに……ここは?
「あ! そうか!! 私は約束してしまったんだ!!」
そうだ……。
負けた時の条件。
2400匹のサイ戦士たちはザウス軍のものになった。
そして私も……。
「まさか……!?」
と、右手の甲を見る。
魔王紋が消えていればおしまいだ!
「な、なんだ……。この茶色の紋章は? ま、魔王紋じゃないぞ??」
こ、これは……。ど、奴隷紋か?
わ、私は──。
「ザウスの奴隷になってしまったのかぁああああああ!?」
そんなぁあああああああああああああああああああ!!
エリート魔族の私がぁあああああああああああああああ!!
雑魚魔族の奴隷に成り下がったというのくぁああああああああああ!!
「フォッフォッフォッ。おまえさんがザウス様の奴隷になるわけがないじゃろう」
「お、おまえは!?」
この笑い方。聞き覚えがあるぞ。
元勇者セアの主人をしていた。
このじじぃ──。
「ハジメ村の村長か!?」
「フォッフォフォッ。そのとおりじゃ。
な、なんだとぉお!?
どうしてこんなじじぃが、ここにいるんだぁあああ????
「フォッフォフォッ」
「ま、ま、まさかぁ〜〜……」
こ、この奴隷紋……?
まさか、そんな!?
いや、そんなことは規律正しく考えてあり得ないことだ。
「おい、じじぃ! どういうことか説明しろぉおおおお!! 規律正しく教えなければぶち殺すぞ!!」
と、じじぃの胸ぐらを掴もうとした瞬間である。
ガンッ!!
「な、なんだ!? 透明な壁があってじじぃを触ることができないぞ!?」
「フォッフォフォッ。奴隷は主人に危害を加えることができないのじゃよ」
「な、なにぃいいい!? ど、奴隷だと……?」
「フォッフォッフォッ」
そ、そんなバカな!?
あ、あり得ない。
「ま、まさか、本当に……!?」
「フォッフォッフォッ。ザウス様がおまえにかけられた魔王の契約を奪い、そして、破壊した。相手が気絶している場合。簡単にできるということじゃ。フォッフォフォッ」
「そ、そんなぁ……!!」
「フォッフォッフォッ。従来ならば、誰とも契約していない、おまえさんの体と、主従契約を結ぶのはザウス様なのじゃ。じゃがなぁ──」
あ、あり得ない。
こ、こんなこと、絶対にあり得ないだろうが!
わ、私はエリート魔族なのだぞ!!
人間の奴隷なんかに……。
「なるわけがないのだぁああああああああッ!! 死ねぇええええええッ!!」
こんなよぼよぼのじじぃ。殴り殺してやる。
「死ね死ね死ねぇええええええええええええッ!!」
ガンガンガンガンガンガンガン!!
「フォッフォッフォッ。無駄じゃよ。
「クソがぁあああああ!! そんなことがあり得るかぁああああああ!! こんな壁ぇえええええええ!! ぶち壊してやるぅうううう!!」
「おやおや。血気盛んな奴隷じゃなぁ。フォッフォッフォッ。これはいい働きをしてくれそうじゃわい」
「死ね死ね死ねぇえええええええええええええッ!!」
「しかし、少々、言葉が過ぎるのぉ。教育的指導じゃな」
瞬間。
私の体に稲妻が落ちた。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああッ!!」
「フォッフォッフォッ」
あ、あぐぐぐ……。
か、体中が痺れて痛い。
そ、そんなバカな……。
規律正しく考えて、こんな状況はあり得ないだろうがぁ……。
「おーーい。セアや」
「はい。お呼びでしょうかご主人さま」
あ、あいつは元勇者だった男だ。
「この者に目覚めの挨拶を教えてやるのじゃ」
「承知しました」
そう言うと、セアは土下座をして、額を地面につけた。
「おい角刈り。目が覚めたら、毎回これをやるんだぞ。よく見とけよ」
な、なにぃいいいいい!?
「今日も目覚めることができました。この世界にいる皆様のおかげです。みんなに感謝。世界に感謝。そして、村長さまに感謝。感謝、感謝、感謝」
そう言いながら、何度も額を地面につけた。
うぉおおおおおおおおおお!!
「さぁ、やれよ。角刈り」
「で、できるかぁああああ!!」
「バカ! おまえがやらないと僕にも雷が落ちるんだよぉおお!!」
「うう……。わ、私はエリート魔族なんだ……。規律正しく考えて、そんな、屈辱的なことは絶対にできない」
「やれったらぁ!!」
「に、人間は奴隷だぁ!!」
そ、そうだ。
人間は家畜同様。下等な生き物なんだ。
私に使われる奴隷。
顎で使い、自由に命令していた。
気に食わない奴隷は自由に殺してきた。
人間は奴隷。
魔族より下等な存在。
私に使われる家畜同様の生き物。
「やれよ角刈りぃいいいいい!!」
「人間なんかに、感謝できるかぁあああああああああ!!」
うぉおおおおおおお!!
私はエリートなのだぁあああああああ!!
エリート魔族が人間の奴隷なんかにぃいいいいいいいいい!!
「ふざけんな角刈りぃいいいいい!!」
「うるさい!! 奴隷に成り下がったおまえの意見など聞けるかぁああああ!!」
「そういう問題じゃないんだぁあああああ!! バカぁああああああ!!」
「規律正しく考えて、バカと言ったもんがバカだぁあああああああ!!」
「ふざけんなぁあああ!! んなことはどうでもいいんだよぉおお!! とにかくやれぇええええええええ!!」
「やるもんかぁあああああああああああ!!」
「フォッフォッフォッ。どうやら、私語が多いようじゃなぁ。2人には教育が必要じゃ。ほれ」
瞬間。
再び、私の体に雷が落ちた。
今度はセアも一緒である。
「「 ぎゃぁああああああああああああああッ!! 」」
あ、あぐぐぐぐ……。
こ、こんなことあり得ない。
「こ、殺せぇええ……」
「フォッフォッフォッ。おまえさんには教えておいておかねばならんなぁ。この『奴隷紋の雷』は命に別状はない。つまり、この雷は痛いだけで、決して死ぬことはないのじゃよ」
な、なにぃいいいいいい。
「フォッフォッフォッ。それにこの雷は便利でなぁ。奴隷が自害しようとしても雷が落ちる仕組みになっておるのじゃ」
そ、そんな……。
し、死ぬことすらできないのか!?
「さぁ、セアの言ったとおりにやるのじゃ。一言一句。間違えるでないぞ」
うう……。
私は仕方なく、感謝の言葉を詠唱した。
間違えると、また雷が落ちる。
く、屈辱的すぎる……。
こんなことを毎日しなければならないのか……。
「さぁ、感謝の言葉が終われば働いてもらう。休んでいる場合ではないのじゃぞ。今日は村中の肥溜めの処理をするんじゃ」
「こ、肥溜めの処理だとぉおお!?」
「フォッフォッフォッ。その次は家畜の世話。野良仕事。屋根の改修。奴隷はやることが山のようにあるのじゃ」
「あああああああ……」
「おまえには休みなんかないのじゃよ。フォッフォッフォッ。毎日、毎日。人間に感謝をしてなぁ。フォッフォッフォッ。規律正しく、働くのじゃよぉ」
エ、エリート魔族の私がぁあああああ!!
部下モンスターを顎で遣い、気に入らない人間は殺しまくってきた私がぁあああ!! 魔王軍では土組の親衛隊長をしていた優等生魔族の私がぁあああああああああああああああああ!!
下等生物である人間のために働くだとぉおおおおおおお!?
「フォッフォッフォッ。規律正しくなぁ」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
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