第74話 無事解決

 乾杯の音頭は、褐色肌の爆乳美少女、ナンバがやることになった。


「えーーでは、僭越せんえつながら、うちが乾杯の音頭を取らせてもらいます。ザウス軍の進行はますます勢いに乗るぅ思います。ほんなら、このギルドは大繁盛や。人員はうちが人選して増やしていくさかいな。スターサはんをリーダーに、みんなで気張って仕事がんばっていこやぁ。これからも末長く、よろしゅう頼んます! みんなの出会いを祝して、乾杯やーー!!」


「「「「 乾杯!! 」」」」


 見事な音頭だな。

 これならもう心配はないだろう。外務チームは安泰だよ。


 じゃあ、俺は早々に退散しようかな。

 上司の俺がいたんじゃ女子トークだって弾まないだろう。




「あれ? ザウスはんがおりまへんな。スターサはん、知りまへんか?」


「ザウスさまはお帰りになられたみたいですね」


「なんや。つまらんなぁ。酒を飲むんは初めてやのにぃ。付き合い悪いやろ」


「ははは。きっと、私たちに気を遣ったんですよ」


 その時、ギルドに荷物が届く。

 それは馬車いっぱいに積まれた料理の数々だった。


「はぁ〜〜。なんやこれぇ? 美味しそうなスィーツに酒とジュースが山のように」


 僧侶のミシリィは付属されている手紙を見つけた。


「あ、ザウスさんからだ──」


 と、読み始めるとたちまち口角がグイッと上がってしまう。


「在庫処分のスイーツ。腐らすのは勿体無いからみんなで食べてくれ。……だって! ふふふ。城内の食料はオークさんたちが食べますからね。腐ることなんて絶対にないのに……。ザウスさんったら……」


「くはぁーー。ザウスはん。ほんまにええ男やなぁあああああ!!」

 

「そうなんですよね……。ザウスさんって、いつも誰かのことを想ってくれてます……。『互いの利益』とか『おまえなんかどうでもいい』ってよくいうんですけどね。本当は相手のことを心配ばっかりしてる優しい魔族なんです。今回だって……。私とスターサちゃんが疲れてるのを見かねてナンバさんを連れて来てくれました。本当に優しい人……」


「あんれぇ? ミシリィはん。もしかしてぇ??」


「え? あ、い、いや……。あ、あ、あの……。違……。違います」


「ふーーん。なにが違うんやぁ? 恋する乙女の顔を見せとったでぇ」


「い、意地悪はやめてください!」


 これにはスターサが黙っていなかった。


「え? ミシリィったらそうなの!? あなたザウスさまのことを!?」


? ほぉ……。スターサはんもそうなんかいな。くはぁ。ザウスはんはモテまんなぁ」


「当然よ。ザウスさまは好きになる要素しかないんだからね。城内の女はみんなザウスさまが大好きよ」


「ふふふ。そうでっか……。2人してねぇ」


「ナンバさんはどうなのよ? まさか、あなたまで?」


「せやな。ザウスはんは、うちが出会ってきた中でも一番ええ男やわ」


「そうでしょ。ふふふ。ザウスさまは一番なのよ」


「ザウスはん……。いっつもうちの胸を見てるんやで」


「「 え!? 」」


「チラチラ見てるさかいな。女はそういうのんにすぐに気がつくんや。うちが誘惑したらコロっといってしまうかもな」


「ぬ、抜け駆けなんて狡いわ!」

「そ、そ、そうです! ず、狡いです!!」


「まぁまぁ。自分の武器を使うんが恋愛っちゅうもんやな」


「うぐ……。れ、恋愛……」

「ナ、ナンバさんは男の人を好きになったことがあるんですか?」


「え? ……そ、そりゃあな。ははは。そんなんあるに決まってるやんか。よ、よ、ようさんあるでぇ。数え出したらきりないわ。や、山ほどあるんや。ま、まぁ、もちろん全部向こうから好きになるんやで! は、ははは!」


 彼女は処女である。

 生まれた時から商売一筋。恋より金。

 異性に恋心を抱くなんて、これっぽちもなかったのだ。

 よって、他者の好意や恋心なんてものはまったく理解ができなかった。

 ただ、商売上、男は危険、男はエロい狼、という周囲から聞いた情報で判断しているだけである。いわゆる、耳年増なのだ。よって、ザウスが自分の胸を見ていることなんて、口から出まかせである。男が自分の胸を見ている。なんとなく、そう言っておけば女子トークは盛り上がるのだ。彼女なりの処世術とでもいおうか。まぁ、もっとも、本当にザウスは彼女の胸をガン見していたのだが、うぶな彼女にとって、そんな本当のエロを知る術はない。

 また、この中では彼女が一番年上である。

 ミシリィ15歳。スターサ16歳。そして、ナンバが17歳である。

 この、年上という妙なプライドが彼女に見栄を張らせたことも付け加えておこう。


「ま、まぁ、うちにかかればどんな男でも落とせるな。うん。間違いないわ」


「うう。すごい自信です……」

「た、たしかにナンバさんは恋愛経験が豊富そうだわ! スラッとして背が高い。胸は大きくてスタイル抜群……。その見た目だもんね。男が放っておかないか……」


「ま、まぁな。うちは100戦練磨の恋愛マスターやわ」


「「 おおーー!! 」」


「せ、せやけどな。うちは2人と争うことはしたないんやで。ビジネスパートナーと戦ってもメリットなんてないんやからな。1人の男を取り合って、最適なチームワークが築けるかいな。ここは穏便にいきましょ。それに魔公爵といえば、何人も娶るもんや。愛妻の枠がいくつかあったら争う必要もないやんか」


「「 な、なるほど…… 」」


 スターサは真剣な顔を見せる。


「じゃあ……。ナンバさんの恋バナを聞かせてください!」

「ああ。それは私も興味あるな。ナンバさんはどんな恋愛をしてきたの? 今、彼氏はいるのかな? 聞かせてくださいよ」


「え? あ……。ははは。まぁ、ボチボチな。そんなことより、せっかくザウスはんがスイーツを届けてくれたんやで。みんなで食べまくろうやないか!」


「そ、そうですね」

「うん。そうね。良い考えだわ」


「ははは。仲ようやりましょ。ほ、ほら見てみぃな。スイーツがようさんありまんでぇ! プリンにケーキにフルーツタルト。果物のジュースだって何種類もや!」


 ナンバは、スイーツに心を奪われる2人を尻目にホッと胸を撫で下ろした。


 外務チームのリーダーはスターサである。

 彼女は凛々しくグラスを持った。


「じゃあ、これから外務チームが発展するように3人で協力しましょう! ミシリィ。ナンバさん。そして、ナンバギルドのみなさん、みんなで協力しあって魔公爵領を発展させましょう! 乾杯!!」


「「「「 乾杯! 」」」」


「さぁ、スイーツを食べまくるわよ!!」


 3人の相性は、なんだかんだで良いようである。

 ナンバは、多少、見栄っ張りではあるものの、スターサとミシリィを妹のように感じているのかもしれない。2人も、ナンバのことは姉貴分として慕っているようなので、とにかくバランスはいいようだ。

 その日は楽しい夜となった。


 翌日から、ナンバは大活躍である。

 スターサとミシリィは、夕方5時には仕事が終わって楽になった。

 彼女たちの髪が毎日綺麗に整っているのが、余裕ができたなによりの証拠だろう。


 ナンバの仕事には無駄がない。外務に携わる事務処理はいうに及ばず。モンスターたちの体調管理までも行った。


「はーーい。リザ丸にハピ江にガオンガー。今日の修行はおしまいやでーー。明日の午後まではゆっくり体を休めるようになぁ!」


「却下するリザ。俺たちはもっと修行したいリザ」

「そうハピ。私たちはもっともっと強くなりたいハピ」

「小娘。今、俺様は最高にハイになっておるガオ。止めるなガオ。おまえに俺様たちを止める権利はないガオ」


「ふーーん。反抗しまっか。ええんですよぉ。その態度はちくいちザウスはんに報告しますさかいな」


「むぅうう!! 小娘ぇえ! 貴様にそんな権利はないガオ!」


「ありますのんや。ザウスはんをはじめ、外務大臣であるスターサはんにも、あんたらの体調管理は一任されとるさかいな。うちの言葉はザウスはんの言葉と思いなはれよ」


「ぬぐぅうう!」


「ああ……。さぞや残念がるやろうなぁ。ザウスはん。3匹には期待しまくってますさかいなぁ。うちに歯向かうなんて、絶対に失望しますわなぁ。ああ、悲しむザウスはんの顔が目に浮かびまんなぁ。当然、スターサはんも悲しむんやで。ああ、あんたらは、なんて罪作りなモンスターなんや」


「わ、わかったリザ! 休むリザ!」

「指示には従順ハピ!」

「そ、そうだガオ! 反抗なんてしないガオ!! 帰って寝ればいいんだガオ!」


「シシシ。素直が一番ですわ」


 こうして、外務チームの問題点は解消されたのだった。


 さて、そんな時。

 ザウスの元にゴブリンのゴブ太郎がやってきた。


「ザウスさま大変ゴブ! 魔王軍が攻めて来たゴブ!!」


 ザウスは状況確認のために監視室に行った。


 そこは何百とある監視クリスタルから遠隔で映像が送られてくる場所である。

 そのモニターに映し出されていたのは角刈りの魔族だった。


「カクガリィダンだ……。まだ生きていたのか」


 映像には大きなのぼりが立てられていて、そこには目を疑う表記があった。



『弱虫、ゴブ太郎。逃げるな卑怯者。私と戦え』



 カクガリィダンは勝利を確信したように高笑いをしていた。

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