第72話 魔公爵は商人の爆乳美少女を勧誘する

 商人の爆乳美少女、ナンバは眉間にしわを寄せた。


「あんなぁザウスはん、よう聞きぃや。カセギ国が永世中立国の位置付けを保てている理由や」


 ふむ。

 永世中立国といえば、前世ではスイスが有名だったよな。

 絶対に戦争をしない代わりに、どこの国にも加担しない方針なんだ。それ故に、永世中立国として世界に認知された。


「カセギ国は商売人の国や。うちらは商売を糧に生きているんや。そんな国が他国に占領をされないんは、戦争に加担せぇへんのはもちろんのこと、その存在に利用価値があるからなんやで」


「うむ。カセギ国の商人は商売で絆を築く。それはよくわかっているよ。だから、こうして能力を見込んでスカウトしているんじゃないか。国を出て俺の領民になれば裏切ったことにはならんだろう。カセギ国が永世中立国であることには代わりないさ」


「そういうことやないんやなぁ……。えーーと、なんちゅうかなぁ。商売で関係を築くんは鉄則なんや。せやけど、そのパワーバランスは半々やないといかんのやで」


 半々?


「つまり、うちの存在意義と魔公爵とのパワーバランスや。それは釣り合いのとれた天秤みたいになぁ。均等に並行を保つ。互いに尊重するんがベストなんや」


「ふむ。だから、こうしておまえに負担がないようにだなぁ」


「それがあかんのや」


「?」


「ザウスはんの話やと、何から何まで至れり尽くせりやないか。これやと、バランスがザウスはんに片寄りすぎてるんや。うちがあんさんに頼りすぎたら、負い目を感じることになる。そうなると、ザウスはんの発言は絶対になって、うちが反論できなくなってしまうんや。そんな状態が続けば絶対に軋轢が生じてしまうんやで」


 ふむ。

 つまり、


「関係性を穏便に保つには、互いのパワーバランスが大切だということか?」


「そういうこっちゃな」


「では、具体的にどうするんだ? この話はなかったことになるのか?」


「んなアホな。こんな美味しい商談を棒に振るほど野暮やないで! 条件はこちらも提示させてもらうんや」


「ふむ。おまえの希望を言ってくれ。できる限り善処する」


「この建物はうちが購入する」


「ほぉ……。金はあるのか?」


「ははは。流石にそんな大金は用意できんわ。せやさかい、さっき払ってくれた50万コズンはうちがザウスはんから借りたことにしたらええんや」


「つまり、俺の部下になって返済するというのか?」


「そういうこっちゃな」


 なるほど。

 この場所で商業ギルドを運用できれば金は儲かる。

 その金で借金の返済をするというのか。

 部下として借りるよりも、自分の所有物として、このギルドを運用したいわけだな。

 ふふふ。良いアイデアだ。それなら気兼ねなく運用ができるぞ。


「ほんでなぁザウスはん……。借金の利息なんやけどなぁ」


 と、亜空間収納箱アイテムボックスからソロバンを取り出した。

 それをパチパチと叩きながら……。


「月額の儲けがわからんさかいなぁ。商売が軌道に乗ったら安定するんやろうけどもなぁ」


 と、俺の方をチラチラと見る。


 ふふふ。

 50万コズンの利息といったら相当だぞ。

 この世界の年利はだいたい10パーセントなんだ。

 ザウスタウンでもその年利を適用している。

 日本円に換算して5億円の10パーセントだからな。

 年間の利息だけで5千万円も払うことになるんだ。

 こんなの上手く利益が出なければ、間違いなく借金地獄に陥るぞ。


うちかて、他の仕事があるさかいなぁ……。それを無理してここに来てるわけやな。つまり、ザウスはんの都合にうちが合わせとるということになるんや」


 やれやれ。

 交渉してるつもりか。


「まいったなぁ。せやかて、他でもないザウスはんの頼みやしなぁ。聞かんわけにはいかんしなぁ。うーーん。年利10パーセントの利息かぁ」


 と、チラチラ。


 ふふふ。

 仕方ない。乗ってやるか。


「言われてみるとそうだな。強引に誘いすぎたかもしれん」


「そやろ! ザウスはんは強引なんや!」


「うむ。少し反省している」


「ははは! そやそや! 魔族でも反省はせなあかんな! ほんなら、年利の話やけどな」


「よし。カセギ国に送って行くよ」


「え?」


「この話はなかったことにしてくれ」


「な、な、な、な……!?」


「いやぁ。済まなかった。時間を取らせてしまったな。よし。直ぐに送っていくからな」


「ちょ、ちょい待ちぃいいいいいいいいいいいいいい!!」


「なんだ?? なにか問題でも??」


「あ、あのなぁあ!? ザウスはん。なにもうちはやらんとは言ってないねんで! あんさんとうちとは2年前から武器の取り引きをしていた仲やないか! うちは情に厚い人間なんやで! お得意さんは裏切らんのや!」


「ほぉ」


「せ、せやから年利をやなぁ」


「しかし、情に甘えるのはよくないよな。うん。俺が悪かった。俺は最低だよ。反省する。カセギ国に送っていくよ」


「いやいやいやいやぁあああ!! だ、だからぁああああああ!! お、お、落ち着きぃいいいなぁあああああ!!」


 ぷぷ……。

 あんまり、揶揄っちゃ悪いか。

 ほどほどにしておこう。


「えっとなぁ……。お、おち、落ち着いてなザウスはん。こういうんは早まったらあかんねんでぇ! お、落ち着いてやでぇ。大金がかかってるからって焦ったらあかんのやでぇ! け、結論はじっくりとやなぁ──」


「無利子でいいよ」


「──え?」


「強引に誘っている俺が悪いからな。迷惑料として、利息はゼロにするよ」


「ほんまかいなぁああああああああああ!! ザウスはん、あんたはほんまにええ男やなぁあああああああああ!!」


「その代わり。しっかり働いてもらうからな」


「任しときぃいいい!! うちが来たからには魔公爵領の収益は爆増間違いなしやでぇえええええええ!! あと、返済はしっかりするさかいな! 借金を焦がすんは商人の生き恥なんや! そこは安心してぇなぁ!!」


 やれやれ。

 まぁ、これくらい商談が上手い方が頼りになるか。

 スターサのいい相棒になってくれるだだろう。


 その日。 

 魔公爵城に帰ると、メエエルが驚いた顔を見せた。


「ザウスさま……。とんでもない額の寄付金が来ております」


 ザウスタウンでは俺にお布施をしたいという物好きが大量に存在する。

 実名を出すと賄賂になりかねないので匿名でするようになっていてな。しかし、それだと金を出す恩恵は受けれない。金をゴミに捨てているようなもんだよ。宗教じゃあるまいし、お布施だなんて馬鹿らしい。金があまっているのかは知らんが、毎年、かなりの額が寄付金として集まる。まぁ、その使い道は城の増築工事費用ということにしているがな。まったく、世の中は広いな。困った物好きがるいるもんだ。


「か、過去最高額の寄付金です」


「へぇ……。物好きはいるんだなぁ」


「寄付金の設置ポストに大量の金貨が入っておりました」


「やれやれ。よほど、金があまっているんだな。で、いくらだったんだよ」


「50万コズンです」


 おいおい。

 どう考えても町長じゃないか。

 俺が建物を買った金と同額だよ。


 まったく。

 返金するわけにもいかんしなぁ。


 これじゃあ、ナンバから毎月返済される額が、そのまんま俺の儲けになってしまうよ。しかし、彼女曰く、互いのパワーバランスが大事らしいからな。この金で彼女の利息を反故にしたら、せっかく並行だった天秤が傾いてしまうよ。やれやれ、仕方ないから黙っておこうか。

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