第71話 結局、至れり尽くせり
商人の爆乳美少女ナンバは、ザウスタウンの高台に立っていた。
「はぁーー。随分と立派な街でんなぁ〜〜。ここがザウスはんの領土でっかぁ」
「領民には自主的に働いてもらっているからな。魔公爵城には毎日10店舗以上の登録があるんだ。それだけ発展しているということだな」
「ま、毎日10店舗……。で、でもここ……。奴隷区域でっしゃろ?」
「そういうのは廃止した。人間とは主従契約を結んでいないよ」
「え? いつから!?」
「5年前。俺が爵位を継いでからだな。俺の父親であるゴォザックが支配していた時は、もっと暗くて汚い場所だったがな。この5年間で見違えるように発展してくれたんだ。それもこれも個人が自発的に仕事を楽しむようになったからだな」
「し、仕事を楽しむ?」
「そ。楽しいは正義だ」
「た、楽しいは正義でっか……。はぁ。なんとも素敵な言葉でんなぁ」
とりあえず、こいつに職場を与えてやろうか。
メリットがあれば仕事が楽しくなるだろう。
「あ、ザウスさまだ!」
「本当だザウスさまだ!!」
「わぁ! ザウスさまよ」
「おお! ザウスさまだ」
やれやれ。
変装してないと目立ちすぎるな。
「ひぃえ〜〜。すごい崇拝具合でんなぁ。あんさん領民に慕われすぎでっしゃろ」
「互いのメリットを共有しているだけにすぎん。損得勘定だよ」
「そ、損得……。いや、でも
「まぁ、一応は支配者だからな。ああいう態度を見せることで自分にメリットがあるんだよ」
俺に嫌われるのは、この街で住むにはデメリットでしかないからな。
たとえ、嫌いな存在であっても、ああゆう敬意ある姿勢は見せておくのが得策だ。
別に心から崇拝しているわけではないだろう。
「いや……。そうは見えまへんけど……」
「そんなことはどうでもいいさ。町長の家に行こう」
俺たちは町長の家を訪問した。
彼は、この場所が奴隷区の時から区長を担当していた80代の爺さんだ。
これだけ発展したザウスタウンでも、彼の器量によって領民たちはまとめられている。
ザウスタウンは大きな街ではあるが、その政治の中心は魔公爵城なので、彼のような爺さんでも務まっているというわけだな。
「ほぉ。商業ギルドを立ち上げなさると!?」
「ああ。魔公爵城の直系でな」
「そ、それは羨ましい! ザウスタウンには52の商業ギルドが存在していますが、どれも運営は不安定なんですよ。ザウスさまの直系となりますと、盤石なギルドとなりましょう。全ての商業ギルドは傘下になるでしょうな」
ナンバは目を見張る。
「52!? たった1つの街に52も商業ギルドがありまんのか!?」
「ええ。小さいギルドで10人程度。大きいギルドなら100人以上ですな。そんなギルドが、この街には52団体、存在しておりますのじゃ」
「カセギ国でも48やなのになぁ。まさか、それを超える国があるとは。……はぁ、ザウスタウン。すごい街でんなぁ」
まぁ、ここは自由度が高いからな。
ギルドからの税金は他の国より4割近く低い。資格は特に制定していないからギルドを作る敷居が低いんだ。だから、誰でもギルドを立ち上げることができる。しかし、その影響で素人が立ち上げた弱小ギルドが多くなっているんだよな。毎年、小さなギルドが生まれてはいくつかは破産している。たとえ、ザウスタウンといえど、商売センスがなければ存続は難しいんだ。
「それにしても、ザウスはん。商業ギルドを立ち上げるってどういうことなんや?」
ふむ。簡単な話だな。
「おまえにギルド長をやってもらうんだよ」
「ええええええええ!? なんやてぇええええええ!?
「もちろん、外交さ」
こいつには、スターサとミシリィがやっている事務の仕事をメインでやってもらいたいんだ。
魔王領の侵略後は、その場所と魔公爵領とで貿易が始まる。主にその場所が発展するように手引きするんだが、その事務量が多すぎるんだ。
今や、スターサは不眠不休で仕事に取り組んでくれているよ。ミシリィを援護に入らせたが、一緒になって頑張りそうなんだよな。彼女らが潰れれば大きな損失だ。
商業ギルドを立ち上げて外交の仕事を丸投げできれば、彼女たちの仕事量が激減するだろう。
俺は町長にことの経緯を伝えた。
「──と、いうわけでギルドの酒場をつくりたいんだがな。いい場所はあるか?」
「もちろんでございます。とっておきの一等地をご案内いたしましょう」
案内されたのはザウスタウンの中心部。
ちょうど、空いている大きな建物があった。
「ここはもっとも人通りの多い場所でございます。街の中でも利便性がよくて、どこに行くにも便利です。各ギルドとの連携も、この場所でしたら快適にこなせるでしょう。建物を改築すれば酒場にもできると思います」
3階建ての立派な建物だな。
立地は最高だし問題なさそうだぞ。
「どうだ。ナンバ? この場所ならいいんじゃないか?」
「うはーー! こんな一等地で商売できるなんて夢のようやで!」
うむ。
この反応なら断る理由はないだろう。
「じゃあ、外務チームに入ってくれるか?」
「せやかてぇ……。こんな一等地、土地代だけでもバカにならんやろ?」
「町長。ここはいくらなんだ?」
「はい。建物と土地代で50万コズンです」
「なんやてぇええええ!? ご、ご、50万コズンンンンンッ!! た、高すぎやぁ!! そんなお金があるんやったらカセギ国でギルドの酒場を開いとるがな」
ふむ。
50万コズンといえば、日本円にするなら5億だな。
たしかに高い金額だが、
「なにを驚いている。ここを買うのは俺だぞ?」
「ど、どういうこっちゃ?」
「おまえは俺の部下になって働くだけだ。ギルドを建てるのは初期投資の一環さ」
「フォッフォフォッ。娘さん。安心なさい。売値は一般人に対してじゃよ。ザウスさまが買うのならば、もちろん無料じゃわい」
「なんや、無料かいな……。そりゃ、そうか。ここはザウスはんの領土やもんなぁ」
いやいや。
「勝手に話を進めるな。俺が買うといったら俺が金を出すんだよ」
「「 え!? 」」
おいおい。
「町長まで驚いてどうするよ。無料で貰うなんてあり得ないだろうが」
「し、しかしザウスさま。この土地は元々はザウスさまの物。それを私たち領民が借りているだけにすぎません。ザウスタウンの登記上で私の土地になっているだけですじゃ。ザウスさまが買い取るなんて前代未聞ですよ」
「いや、そう言われてもな。無料で引き取ることは絶対にしないぞ」
「そんな!?」
「俺が権力を使えば、領民たちの働く意欲が削がれてしまうよ」
せっかく自分の土地になっていたものが、俺の一存で簡単に取られてしまうんだからな。そんな街じゃあ、生きる希望が持てないよ。
「おまえたちには税金や年貢という形で十分に納めてもらっているんだ。俺としては、それ以上を取るつもりはないよ」
「おおおおお……。な、なんとお優しい」
「いや。勘違いするな。おまえのことなんぞ。どうでもいいんだ。俺は自分の街の発展しか考えてない」
「わ、私はあなた様のお役に立ちたいのです。どうか、この建物を無料でお使いください」
「いや。ダメだ。前例を作っては他の領民に迷惑がかかる。労働の意欲を削ぐ行為は支配者としては慎むべきだ。長い目で見れば必ずマイナスになってしまう。目先の利益を優先していてはザウスタウンの発展はないよ」
「おおおおおおおお! さ、流石はザウスさまでございます! ありがとうございます!! 感謝してもしきれません!!」
町長は深々と頭を下げた。
いや、別に褒め称えることじゃないってば。
互いのメリットを優先しただけにすぎない。
俺は自分の街を発展させたいんだ。別に町長のことを想ってじゃないよ。
さて、それじゃあ入金を済まそうか。
たしか
「あった、あった。50万コズンだな。1袋に金貨で10万コズン入っているからさ。それが5袋で50万コズンだ」
「す、すごっ! ザウスはん、太っ腹やな」
「さ、流石はザウスさまでございます」
「こういうのは即決の方が気持ちがいいんだ」
さて、
「じゃあ、この建物は俺の物になったからさ。おまえに渡すよ」
「わ、渡すって……?」
「おまえの自由にしていいってことさ。改装してさ。商業ギルドにすればいいよ。名前はそうだな……『ナンバの商業ギルド』とかさ」
「ちょ、ちょい待ちぃいいい!?」
「なんだ不満か?」
「不満とかそういうんやのうてなぁ!!」
「あ、そうか。改築費用だな。あと、人を雇う人件費も必要か。よし、全部、俺の方で手配し──」
「ちょっとたんまぁああああああああああ!!」
「なんだよ? そんなに不満なのか?」
「逆や逆ぅううううう!! あんたはどこまでお人よしなんや!!」
「はぁ? おまえに優しくしたつもりなんてこれっぽっちもないが?」
「よう言うわ。至れり尽くせりやないか! 美味しい話の連続で怖すぎるわ!!」
怖い??
怪談をしたつもりはないが??
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