第70話 商人の爆乳美少女

うちが魔族の外交をするんかいなぁ? そんなもん儲かりますのんか?」


 流石は商人のナンバだ。

 状況確認が儲け話が基準になっている。やはり、俺の人選は間違いではないだろう。


「月額の給金はもちろんのこと、魔公爵領内での物資の売買はおまえを中心にやってもらう」


「え? な、なんやて??」


 俺は地図をテーブルの上に広げた。


「これを見てくれ。ここいら一帯が俺の領土だ」


「広っ! な、なんやこれぇ? 公爵領どころか、王国やんか?」


「現在、魔王領の領土を侵略している最中なんだ」


「ま、魔王領の侵略ぅうううううううううううう!?」


 こいつは、驚くたびにチューブトップに固定された爆乳が揺れに揺れまくるんだよな。

 この調子だとボロンとはみ出るんじゃないだろうか? そうなったら不可抗力だしな。わくわく……。いや、期待してる場合じゃないぞ。


「ちょ、ま、待ってぇな。魔族のあんたが魔王領の侵略とはどういうこっちゃ??」


 俺が同族を裏切ったことは外部の人間は知らない。

 説明はそこからだな。


 俺はことの経緯を全て話した。


「──ってことでな。俺が勇者セアを倒したんだ。魔王にとっては勇者の証が脅威だったからな。その脅威が去った今、魔公爵の地位が邪魔になったんだよ。よって、俺の領土を自分の領土にしようとした。俺はそんなことは納得がいかなかったからな。魔王に反旗を翻して、魔王領を支配することに決めたんだ」


「はぁ……。えげつない話でんなぁ」


「だから、今は絶賛侵略中というわけさ。もちろん、被害はゼロだよ」


「え? ひ、被害ゼロ?? 怪我人は出とらんということかいな!?」


「当然だ。俺の部下たちは優秀だからな。魔王軍に負けるような存在ではない」


「せ、せやかて……。相手は魔王軍でっしゃろ?」


「そうだ。だから、慎重にことを進めている」


「うーーん……。うちなぁ。こう見えてもギルド長なんや。ギルドが魔族に加担するのはなぁ」


 へぇ。

 知らなかった。

 確か彼女は17歳だったはずだ。世界を平和にする冒険が儲かるからという理由で、勇者の仲間になる設定なんだ。一応、名目は中ボスである魔公爵ザウス討伐。まさか、そんな敵役の俺がスカウトをしているのはなんだか奇妙な感じだがな。

 

「心配はするな。働くのは主に人間とさ。16歳と15歳の少女たちだ。おまえにやってもらいたいのは彼女たちの補助さ」


「そうでっか……。ほなら、うちのギルドメンバーでもできそうですけどなぁ」


「そこは商売関係のギルドなのか?」


「せや。ナンバのギルド。言うてな。100人くらいの商人が所属してますのんや。まぁ、建物は存在しまへんからな。架空のギルドやけどな」


「ほぉ。つまり、仕事の依頼は口約束だけで済ますのか?」


「せやな。受付嬢はおらんさかい、仕事の窓口は全部うちがやるんや。まぁ、ギルド長、いうても名ばかりかも知らんけどな。カセギ国の人間はこういう架空ギルドが存在しとってなぁ。うちはギルド長やけど、他のギルドにも所属しとるっちゅうこっちゃ」


「ふむ。面白いシステムだ。つまり、互いに商売の流通経路や人脈があるということだな」


「そういうこっちゃな。せやけど、うちの夢はデッカいでぇ。将来は立派な酒場を作ってなぁ。そこでギルド長をすることなんや」


「いい夢だな」


「そんなうちの商売の邪魔をしとったんは、他でもない。ザウスはん。あんたなんやで?」


「え?」


「まぁ、あんさんが爵位を継いでからは平和やったさかいな。大きな被害はありまへんでしたけどな。それでも、あんさんの脅威で貿易できる範囲は常に狭まっておりましたんやで。あんさんの存在がうちの商売の邪魔をしとったんや」


「ふむ」


 ゲームのシステム上、魔公爵の存在は序盤のチュートリアルだ。

 ここいら一帯の人間がそこいら中に行けるのは問題があるんだよな。

 一応、前魔公爵、つまり俺の父ゴォザックの脅威ということで移動には相当な制限がかかっていたんだ。


「あんさんの仲間になるっちゅうことは、それだけうちの貿易範囲が広まるっちゅうこっちゃな」


「恩恵はそれだけじゃないさ。略奪した領地の物資の流通は、全ておまえのギルドを通してくれていい」


「うーーーーん」


 と、彼女は目を凝らした。


「なんだ、不満か? 恩恵しかないだろう? 商売領土の拡大、流通経路の拡張。それらが手付かずだった魔公爵領から恩恵が受けられるんだぞ。儲かるのは確実だろう。おまえの夢なんかすぐに叶いそうだぞ?」


「話が旨すぎるんや」


「え?」


うちにメリットがありすぎる……」


「ははは。それだけおまえの実力を信用してるということさ」


「うーーん……。うちが所属するんは外務チームやったな? 具体的にはなにをするんや?」


「主に、侵略した土地の交渉だな」


「それって、元魔王軍の領土でっしゃろ?」


「そうだ」


「命の危険があるんちゃうんか!? っていうか、暗殺とかさ! 元敵国との貿易って……。どう考えても危ないやんか!」


「まぁ、その辺は外務大臣がいるしな。おまえが表舞台に出る必要はないさ」


「ほんなら、なにを求めているんや?」


「侵略後に発生する事務処理。おまえに期待しているのは、高い計算能力とか、商売のセンスだな」


「セ、センス……?」


「ああ」


 ふふふ。

 こいつの商売センスがずば抜けているのは知っている。

 物語が開始して、すぐに金欠になるのが、このブレクエというゲーム世界なんだ。

 そんな金欠状態を解決してくれるのが、金稼ぎのエキスパートである彼女なんだよな。


「うーーん。商売センスかぁ……。そういってくれると、なんや照れくさいなぁ」


「どうだ? やってくれるか?」


「……あんさん。魔族でっしゃろ?」


「見てわからんか?」


「ははは。青い肌に額の1本角。どう見ても魔族やなぁ。せやから、不思議なんや」


「なにがだ?」


「こういうのって力づくでやるもんやないのか? うちを誘拐してさ」


「ふむ。考えもつかなかった。よし、今から強引にやるか。身柄を拘束して、拷問して「うん」と言わせてやる」


「ええええええええ!? ちょ、堪忍やで!!」


「冗談だ。そんなことをするならとっくにやっている」


「なんでせんのや? あんさんの力ならそれができたやろうに?」


「そこにメリットがないからだ」


「へ?」


「嫌々に仕事をさせても、いい仕事はしてくれない。そればかりか、反逆や裏切りの機会を見つけようとするだろう」


「そ、そりゃあな。無理やりやったら、逃げたいもんなぁ」


「それでは意味がない。陰でこそこそと反旗を翻す力を蓄えられたら、流石の俺でも打つ手がないんだ。いちいち部下の仕事はチェックできんからな。おまえと揉めても負ける気はしないが、大きな損失になることは間違いない」


「損失?」


「スカウトや、教育にかけた時間だな。今、こうやっておまえと話している時間もそうさ。おまえに裏切られれば全てが水の泡になる」


「なるほど! また、新しい人材をスカウトせなあかんもんなぁ。ザウスはんは商売のセンスがありまんなぁ!」


「手間暇をかけるなら、初めから優秀な人材に焦点を絞ってやるほうが効率がいいのさ」


「優秀な人材……」


 ナンバは頬を赤らめた。


「ま、まぁ……。うちに目をつけたんはセンスがええな。それだけは認めたるわ」


「じゃあ、やってくれるか?」


「んーー。まだ、なんともやな。触りだけでも内情を見させてもろて。それから決めさせてもらうわ」


「ふむ」


「ほなら。旅の準備をするさかい。明日の朝イチにでも馬車を出しましょか」


「いや。行くならすぐがいい」


「ああ、せやから明日の朝イチにしたんや。魔公爵領までは相当な時間がかかりまっせ。馬車でも1週間以上はかかりまっしゃろ。食糧とか調達しとかんといかんのや」


「ふむ……。じゃあ、断る場合は引き返す準備も必要だということか」


「まぁ、そういうことでんな。仕事っちゅうのは慎重にやるんが一番や。表面ではええことばっかりいうさかいな」


「うむ。慎重はいいことだ。嫌いじゃない」


「ほな。明日な」


「いや、どうせなら1日で済まそう。互いの時間がもったいない」


「いや。だから、旅の準備をやなぁ!──」


 俺は彼女を抱きかかえた。


「ちょ! え!? ザ、ザウスはん!? な、なにをするんや!?」


「スカウトに決まっている」


「ゆ、誘拐の間違いちゃうか!?」


「んじゃ、ちょっと捕まってろ」


「え!? な、なんや!?」


加速アクセル


 俺は加速の魔法で走り出した。




ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!




「は、は、速ぁあああああああああああああああ!! な、なんやこれぇええええええ!?」



 うん。

 到着。


キキィイイイイイイイイイイイッ!!


「よし。着いたぞ」


「え!? え!?」


「しがみついてないで、降りてくれ」


 爆乳が当たっているんだ。

 俺得すぎる。


「な、な、なんやここ!? どこなんや!?」


「俺の領土だ」


「え?」


「ザウスタウンにようこそ」


「えええええええええええええええええ!? あ、あの距離を一瞬でぇええええええええ!?」


 彼女には今日中に決めてもらう。

 ナンバが外務チームに加われば、他のメンバーの負担が減ることは間違いないんだ。

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