第65話 ザウスさまは救世主? いえ、悪の支配者です


〜〜ザウス視点〜〜


 俺は獅子人の村に来ていた。


 新しく俺の領土になった場所を発展させるのが目的だ。


 と、いうのも昨日の話──。




『じゃあガオンガー、魔王軍のことを教えてもらおうかな』


『うう……。だ、旦那ぁ。俺様が情報を漏らせば村が危ないガオ……。そのぉ……。なんというか……』


『ふぅむ。獅子村の安全を優先しろと?』


『へぇ。いつ、魔王軍が攻めてくるかわからねぇガオ。俺様が寝返ったのが発覚しちまったら、一番危ねぇのは村人だガオ。みんなは俺様よりレベルが低いガオ。魔王軍に攻められたらあっという間に報復されてしまうガオよ』


 こいつはイケメンダールからレベルの限界突破を受けたといっていたからな。

 このことについて詳細を聞き出す必要があるんだが……。


 こう心配されては支配者の名折れだな。


『よし。わかった。獅子村の村人とも主従契約を結ぼう。村の護衛はザウス重騎士団を派遣させる』


『重騎士団ですかガオ?』


『ああ。防御専門のオークの部隊さ。レベルは200程度だが、防御力は高い。獅子村を始め、ヨルノ村周辺に配備させる。とりあえず2千匹程度でいいだろう』


『に、2千も!?』


『ああ、不満か?』


『い、いえ……。そんなんじゃありません』


『だったらなんだ?』


『し、獅子村の村人でさえ千匹ガオ。2千といえば倍以上ですよ。それだけの数がいるんなら力で制圧できただろうって思ったんですガオ』


『ああ。スターサと3匹のモンスターを派遣したことか』


『ええ。そうですガオ。3匹なんて危ない橋を渡らなくたっていいじゃありませんかガオ』


『無駄だな』


『え?』


『兵を動かすのはただじゃないんだ。オークたちはよく食うしな。仕事をしてもらったらそれなりに食糧を用意するのは当然のことだ。力で制圧するとなると余計に労力はかかるだろう。食費は倍以上に跳ね上がる計算だ』


『まぁ……。そうですが……』


『それに怪我人が出たらどうする?』


『へ? だ、だって、これは魔王軍とザウス軍の戦争でしょう? そんなのは当然ガオ』


『まぁ、そうかもしれん。だが、俺の目的は殲滅ではない。あくまでも、魔王領の強奪。支配が目的なんだ』


『……お、恐ろしいお人だガオ』


『ヨルノ村と獅子村で死傷者が出れば、俺の自軍になった時に、手駒が減ることになるじゃないか』


『ま、まぁ……。そうですが……。そんなことを考える支配者は珍しいガオ』


『効率を重視しただけにすぎん。別に死人が出ようがなんてことはない。だが、俺の手駒が減ることは許さん。ただでさえ人手が足らんというのに』


『ザウス軍は充実してるんじゃないんでガオ?』


 ったく。

 戦略シュミレーションゲームを知らんのか!

 行動には色々と制約がつくんだよ。

 信長の○望とか三○志とかぁ。名作ゲームでは部下を動かすのに色々と消費する物があるんだ。

 まったく、これだから素人は、


『よくよく考えろ。さっき重騎士のオーク2千匹を警備につけるといっただろう?』


『へぇ』


『うちの領土では、部下モンスターたちには1日3食が確約されている』


『え!? さ、3食も!?』


『働いているのだ。食糧がもらえるのは当然の権利だろう。その食事を用意するのは城内の調理場だぞ?』


『た、大変ガオ……。ザウス軍はオーク種だけじゃねぇですもんね』


『城内は24時間。眠らずにフル稼働さ。食事を弁当に詰めるだけでも常時100匹の部下モンスターが動いているんだ。これだけでもいかに忙しいかが想像できるだろう? 献立を考えるのだってチームを組んでやってるんだぞ』


『こ、献立?』


『どうせなら美味い食事がいいだろう。もちろん、献立を考えるチームには栄養のことも考えてもらっている』


『は、はぁ……』


『とにかく人手が足らん。他の部下モンスターにも3食、しっかり与えているのだからな』


『そ、そんな……。3食なんて贅沢な。しかも栄養満点で美味しい食事……。貴族じゃねぇんですから……』


『いや、キッチリと食べてもらう。食事の出し渋りはレベルアップの弊害にも繋がるからな。たっぷり働いてモリモリ食う。仕事をしながらレベルアップをして強くなってもらうのが効率的でいいんだよ』


『腹一杯食べれる領土なんて、聞いたことがねぇガオ……』


『自軍を広げるのと育成を両立させているだけだ。別に部下モンスターのことなんかどうでもいいさ。自軍の強化を兼ねて、仕事をしてもらう。ただそれだけにすぎん。俺は俺のことしか考えていないのさ。なにせ悪の支配者、魔公爵なのだからなぁ。ククク』


『…………』


『とにかく。お前には安心して魔王軍の情報を喋ってもらいたい。だから、村の安全を確保するのが先決だな』




 ──と、そんなわけで、俺は獅子村にやって来たのだ。


 そこは渓谷を利用した岩場に囲まれた村だった。

 人口は約千匹。ボス獅子人のガオンガーを筆頭に、戦闘タイプの獅子人が住んでいる。


「随分と脆い岩場だな。さっきから小石が体に当たっているよ」


「へぇ。毎年、崖崩れがありましてね。数匹は犠牲になってますガオ」


「渓谷の補強はしないのか?」


「へへへ……。そういうのは苦手なんでさぁ」


 なるほど。

 獅子人はモフモフだしな。

 器用に改修工事をするイメージはないか。

 よし。工事関係はランドソルジャーだな。


土助どすけ。渓谷の補修はどれくらいでできそうだ」


「んだなぁ……。こったらの規模だったら1週間ももらえればできるランド」


「よし。手早くやってくれ。崖崩れが起こらないようにな」


「へぇ。お任せあれですランド。美しい景観を保ったまま、事故の起こらない村にしてみせますランド」


「な、なにぃいいいい!? 補修をしてくれるのかガオ!?」


「ああ。なにか不満か?」


「だ、だって……。俺様たちは奴隷では??」


「だったら俺は支配者だな。部下の面倒を見るのは当然だろう」


「し、しかし……。今は魔王軍との戦いで人手が足らないと言っていたガオ」


「ああ。まったく足りてないな」


「……だ、だったら俺様の村をよくするメリットはなんだガオ?? 善意かガオ??」


「はぁ? 勘違いするな。獅子人のことなんて、どうでもいいからな。おまえらが死のうが喚こうが俺には関係がないことだ。だが、崖崩れで死傷者が出るなら、それは俺の手駒が減ることに繋がる。長期的に見れば自軍を減らさないことの投資だよ。別に獅子人のためにやっていることじゃないさ」


「…………」


 さて、他にも色々と改善点はあるようだ。


「子供たちが随分と痩せているな。食事は?」


「へぇ。さ、最近は1週間に1回程度でしょうかガオ」


「少なすぎる。それでは強くなれん。ザウスタウンから食糧を届けさせる。これからは1日3食、しっかりと食べさせるんだ」


「わ、わかりやしたガオ。元気になれば動けやす! 不眠不休で働かせますガオ!」


「バカ! そんなことをしたら体を壊すだろうが。労働時間は、1日8時間程度がいい。1週間に1日は休みを与えて、更にゆっくりと休んでもらうんだ」


「ええええええええええええええええ!? て、天国みたいな好待遇ガオ!? ど、どうしてガオォオオオ!? 人手が足りてないのにガオォオオオオ!?」


 んなもん。

 長期的にみて、そっちのがこき使えるからに決まっているだろうが。悪の支配者を舐めるんじゃない。


「いいか。異論は認めない。俺の命令は絶対なのだ」


「……あ、いや。い、異論というかガオ」


「寝たきりの村人が多いな……」


「へぇ。よく熱を出すんでガオ」


「よし。大賢者カフロディーテに病状を診てもらおう。そのあとはザウスタウンから薬を取り寄せる」


「はぁ……。そ、そんなことまでガオ」


 ええい。 

 時間が惜しい。この村はまだまだ改善点がありそうだぞ。


「ったく。おいおい。なんだこの下水道はぁああ?」


 水捌けが悪すぎる!

 酷い臭いだ。こんなんじゃ病気が蔓延するだろう。熱が出てるのはこれが原因じゃないのか?


土助どすけぇええええええええ!」


「へーーーーい」


「この下水道を見てくれ」


「あんれま。こりゃ酷ぇランド」


「改善するのにどれくらいかかる?」


「3日もありゃあできますだ。だども、どっちを優先しますだ? 渓谷の補強工事もあるランド」


 ううう。


「メエエル! スターサ!」


 2人は俺の前に走ってやって来た。


「物資の搬入と、渓谷の補強工事。2人でシフトを組んで計画を立ててくれ」


 この村は改善することが多すぎる。

 大仕事だぞ。


「はぁえぇえ……。だ、旦那は本当に裏切り者の魔族なのかガオ?」

「へへへ。初めはみぃんな驚くだよ。ザウスさまは底抜けにお優しいお方ランド」

「やっぱりおまえもそう思うかガオ?」

「へへへ。ザウスさまは口では『どうでもいい』なんていうランド。だども、いっつもオラたちのことを想って……」


 ったく!


「そこぉおおおお! ぺちゃくちゃと喋ってないで働けぇえええええ!」

 

「は! もうしわけありませんガオ!」

「失礼しましたランド!!」


 ううう。

 人手が欲しい……。

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