第60話 侵略始動

 大賢者カフロディーテは魔研究に熱心だ。

 日々、新しい魔力アイテムを発明してくれている。


「ザウスゥウウ! できたのじゃあ!」


 と、持ってきたのは1つのメガネだった。

 でも、顔にかけるタイプではなくて、片方の柄に持ち手棒がついている。

 いわゆる、ローネットと呼ばれるアイテムだ。古くは貴族が演劇を鑑賞する時に使った物らしい。


 彼女の作ったこのアイテムは、ブレクエには登場しない。

 俺の要望で作った完全にオリジナルアイテムだ。


「このローネットをかければの。ステータスを見ることができない部下モンスターでも相手の数値を見ることができるのじゃ」


 この世界。

 ブレイブソードクエストの世界観では、相手のステータスを見ることができるのは主要キャラだけと決まっている。

 メエエルやアルジャナ。スターサなんかが主要キャラだ。

 逆に、ゴブ太郎や 土助どすけのような部下モンスターたちは、自分はおろか、相手のステータスを見ることはできない。

 このステータスを見る行為は、創造神の加護、ということになっている。


「ふふふ。このローネットのレンズには創造神の加護が付与されておるのじゃよ」


「ふむ」


 これで部下モンスターたちから敵の情報を詳細に聞くことが可能になったな。


「まだ、名前をつけておらんのじゃがな」


 ふぅむ……。

 相手のステータスを見れるメガネだから……。


「サーチメガネにするか」


「むぅ……。なんだか捻りがないのぉ。相手のステータスを見れるんじゃよ。情報収集とか調査ということだから……スカウト。ローネットと合わせてスカウローというのはどうじゃ?」


「ダメだ」


「ええええええええ!? なんでじゃああ??」


「なんでって……」


「サーチメガネよりもスカウローの方が圧倒的にカッコいいじゃろうがぁ!」


 たしかに。

 そっちの方が

 しかし、ただでさえ、相手の数値を測れるメガネってだけでギリギリなのに、そんな名前にしたら目も当てられん。


「絶対にダメだ」


「なんでじゃよ? スカウローはカッコいいじゃろ?」


 寄りすぎている……。

 前世の世界に存在した伝説のアイテムに寄りすぎているんだ。

 この一線は絶対に超えてはいかん。


「とにかくサーチメガネで頼む」


「仕方ないのぉ。まぁ、ザウスが付けた名前じゃからの。なんだか愛着が湧くわい。ふふふ。よくよく考えたら単純明快でいい名前かもしれんの」


「そうか。ありがとう」


「将来はこれを片レンズにしようと思うのじゃ」


「え?」


「相手の数値を見るだけじゃからな。それに取っ手を持つより耳にかけた方が楽じゃろうし」


「絶対にダメだ」


「なんでじゃああああ!?」


 寄っている!

 寄りに寄ってしまっている。もう答えがそれしかない。一直線にそっちに向かっているじゃないか。


「手で持つより、耳から掛けた方が楽じゃろう。しかも片レンズとかスタイリッシュじゃろうがぁ!!」


「た、たしかに……。そうなんだが……」


 片レンズを耳から掛けて、名前がスカウロー。敵のステータスを表示させる。絶対にダメだろ。


 あの作品は神なんだ。尊いのだ。

 前世では大人気だった。男たちのバイブル。もちろん、俺も大好きだ。

 だから、絶対に汚してはいかん。


「このままのフォルムで進化してくれ。絶対に片レンズにはしないで欲しい」


「むぅーー。どうしてもかえ?」


「ああ。頼む」


「へへへ。仕方ないのぉ。ふふふ。ザウスの頼みならなんだって聞いてしまうのじゃ」


 こうして、サーチメガネが完成した。

 その完成系は取っ手のついたローネット。両レンズはデフォルトである。

 

 やれやれ。片レンズと耳掛けという危険は回避できたな。


 これを使えば、情報収集が楽になるぞ。


「あと、頼まれていたもう一つのアイテムも完成したのじゃ」


「ああ、ありがとう」


「火薬に魔力が付与されておっての。火力は十分じゃと思う」


「そうか、火力は十分か」


 それは魔拳銃。

 トリガーを引くだけで攻撃が可能。

 攻撃力がないスターサには最高の相棒になるはずだ。




ーーヨルノ村付近にてーー


 森の中にはスターサがいた。

 随分と身なりのいい正装で、その後ろには2匹のモンスターを連れている。


 魔王領に対する外務大臣に任命されたので、今からヨルノ村に交渉しようというのだ。


 ヨルノ村へは、事前に手紙を出さなかった。

 出したところで、却下されるのは目に見えている。

 そもそも、魔王領と魔公爵領は紛争中なのだ。手紙でどうこうできる事案ではない。

 国交という平和的なスタンスを取りながらも、ある程度は脅威を見せる。

 これがもっとも効率のいい国交なのである。

 16歳のスターサは考えに考えた末、こういう決断に出たのだった。


「どうかなリザ丸くん?」


 顔がトカゲの男。リザードマンのリザ丸はサーチメガネを取り出した。

 

「周囲にモンスターはいないリザ」


 すると、空からハーピーが降りて来た。


「上空にも敵は見えないハピ」


 ハーピー娘のハピ江である。


 そして、最後の1匹はゴブリンの女の子だった。


「怪我人は私の回復魔法で治すから安心して欲しいゴブ。でも、戦わないのが一番いいゴブねぇ」


「心配しないでゴブ子ちゃん。今回はあくまでも話し合いだからね。ザウスさまも戦いは望んでいないから。あくまでも平和的にね」


「うん……。なにもなければいいんだけどゴブ。この辺にモンスターがいないのなら、村を直接護衛してる可能性があるゴブね」


 スターサに3匹の護衛。

 リザ丸。ハピ江。ゴブ子。


 これがスターサ外務大臣の初陣であった。


「リザ丸くん。ハピ江ちゃん。ゴブ子ちゃん。が、がんばろうね!」


 ハピ江とゴブ子は微笑んだ。

 それなりにチームワークは良さそうである。

 しかし、リザ丸はそっぽを向いた。なにやら納得がいかないようだ。


 そうして、一行はヨルノ村の前まで到着した。

 木の裏に隠れて様子をうかがう。


「やれやれ……。護衛がいるリザ」


 ヨルノ村の入り口付近には獅子の顔をしたモンスターがいた。

 周囲を警戒しながら立っているその姿は、明らかに護衛だろう。

 リザ丸はサーチメガネを目の前にかけた。


「レベル150……。まぁまぁ、強いリザね」


「えええ。ど、どうしようか?」


「それはこっちが聞きたいリザ。俺たちはおまえの護衛だリザ」


「ううう。そ、そうだよね。……と、とりあえず、リザ丸くんたちのがレベルは上だよね?」


「相手の数が問題リザね。戦闘タイプが俺と、ハピ江の2匹しかいないからな。ゴブ子はサポート特化だから除外リザ」


「じゃ、じゃあ、絶対に大丈夫ってわけでもないのかな?」


「安心しろリザ。命にかえてもおまえは守るリザ。それがザウスさまのご命令リザよ」


「そ、そんな物騒なことはいわないでよ。みんなで無事に遂行するのが目的なんだからさ」


「だったら、おまえが判断してくれリザ。撤退して護衛を増やすって選択肢もあるリザ」


「うう……。あ、あんまり時間はかけられないよ。魔王軍がなにを考えているのかわかんないもん。カクガリィダンの侵攻から音沙汰がなさすぎるわ。相手の出方を待つのは危険すぎると思うの」


「へぇ……。ドジを踏んで人質になった割には真面なことをいうリザね」


「ちょ! なんでそんなことをいうのよ!!」


 リザ丸はトカゲの顔をスターサに寄せた。


「おい。人間の女」


「え? お、女? 私のことはスターサって呼んでよ」


「おまえレベルの存在は「女」で十分だ」


「どういう意味よ?」


「俺はおまえを認めていないリザ。おまえが勇者セアの人質になり、ザウスさまの命を危険に晒したのは大罪リザ。もしも、あの方が命をおとされていたかと思うとゾッとするリザ。後追い自殺すら考えたリザ」


「うう……。ご、ごめん」


「おまえの護衛をしているのはおまえを認めているからじゃない! ザウスさまのご命令だからリザ!」


「ううう……。それを言われると辛いなぁ」


「覚えておけ。もしもまた、おまえが敵陣の人質になるようなことがあれば、俺がおまえを殺すかもしれないリザ」


「うぐ…………………。で、でも、そうね。それがベストかも。私だってあの方の重荷にはなりたくないもん」


「わかってるならいいリザ。じゃあ、どうするか決めてくれリザ」


「うう……」


 村の護衛には獅子の顔をしたモンスターが2体。


 進むか引くか?


「い、行こう……。し、慎重にね」


 スターサは、懐に忍ばせておいた魔拳銃を握り締めた。

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