第61話 スターサの外交
〜〜スターサ視点〜〜
私たちは獅子の顔をしたモンスターの前に立った。
ヨルノ村に2体。
明らかに村の護衛ね。
ステータスを見る限りだと、種族は獅子人となっているわね。
レベルは150。
リザ丸くんとハピ江ちゃんがレベル250だから、余裕の強さよね。
「な、なんだガオ!? おまえら何者だガオ!?」
「あははは! あ、怪しいもんじゃないんです」
「もしかして、ザウス軍の者か?」
そうなんだけど……。
うう、大きな斧なんか構えて、完全に臨戦体勢じゃない。
私たちがザウスさまの部下なんて言っちゃうと、今にもバトルしそうな勢いだわ。
「あ、あのね! 私たちは戦いに来たんじゃないんです!」
ええい。
両手を挙げて意思表示ぃ。攻撃するつもりはありませーーん。
「は、ははは……。えーーと。ヨルノ村の村長に話があってきたんだけど……。通してもらえないでしょうか?」
「ここは魔王領だぞ! 領土外の人間が侵入なんてしてくるもんか! 怪しいやつは排除する!!」
えええええええええ!?
ダメだ、襲ってきたぁあああ!!
「やれやれ。どいてろ女。俺たちの出番だリザ」
「スターサ! 私に任せるハピ!」
おおリザ丸くんにハピ江ちゃん!!
頼もしい!!
「死ねガオォオオオオオ!!」
獅子人は大きな斧を振ってきた。
リザ丸くんはそれを槍で弾き返す。
「そんなしょぼい攻撃は効かないリザ」
うは! 強い!!
レベル250は伊達じゃないわ!!
リザ丸くんとハピ江ちゃんは瞬く間に2体の獅子人を吹っ飛ばした。
やったぁ!
2体の獅子人は地に伏せた。その時、1体の獅子人が腰につけていた鈴を取り出して鳴らす。
リィンリィン……。
なにかの合図?
「ヤバイリザ。仲間を呼ばれたリザ」
な、仲間ぁああ!?
と、驚いたのも束の間。
私たちは10体の獅子人に囲まれてしまった。
ほとんどが、さっきの護衛と同じレベルね。
でも、1体だけ体格が大きいのがいる。
3メートルはあると思う……。
うう……。レベル300。リザ丸くんより強いじゃない。
「ザウス軍の尖兵かぁガオ。人間とモンスターが3匹だけとは、ずいぶんと舐めてくれたな」
リザ丸くんはサーチメガネをかけた。
「ちぃ! あのデカイの、やけにレベルが高いリザ。一体どうなっているリザ!?」
そうなのよね。
ザウスさまの情報だと、ヨルノ村周辺にいるモンスターはレベル70前後だって言ってたのよね。
ずいぶんと状況が違っているわ。ザウスさまの情報が間違っているはずはないから、なにか、敵モンスターに状況が変わる事象が起こったと考えるべきね。
カクガリィダンの尖兵をゴブ太郎くんが倒したから、そこから魔王のテコ入れが入ったのかしら?
「ほぉ……。珍しいアイテムを持っているなガオ。そのメガネ。モンスターのステータスが見れるのかガオ」
なんにせよピンチね。
「ハピ江ちゃん逃げよう!」
「わかったハピ!
「おおっと! そうはいかねぇガオ!」
瞬間。
獅子人はハピ江ちゃんを抑えつけた。
ああ、そんなぁ!!
「チィ!! ハピ江を離すリザ!!」
「うるせぇガオ!!」
「グァァアリザァア!!」
ああ、リザ丸くんが吹っ飛ばされたぁあッ!!
あのデカイ獅子人強いッ!!
獅子人たちはリザ丸くんをボコボコにする。
あああ!
リザ丸くんが死んじゃう。
「人間の女ぁ! おまえ1人だけ逃げるリザァア!! 絶対に捕まっちゃダメだぁ!! この状況、わかってんだろぅがぁあッ!!」
わ、わかってる!
嫌というほど理解してるわ。
このまま逃げなければ捕まってしまう。
あいつらは私を殺さない。生捕りにして尋問したあげく、ザウスさまの情報を聞き出そうとするはず。勇者セアが私を人質にしたように。
でも、つまりそれは、リザ丸くんたちの死を意味する。明らかな護衛である戦闘員は情報収集には邪魔。モンスターは殺して私だけを生かすつもりなんだ。
リザ丸くんは獅子人にボコボコにされながらも、私の方をじっと睨みつけた。
「お、俺たちは、ザウスさまのために命をかけるって決めてんだリザ。あのお方のおかげで、俺の一族は幸せに暮らせるようになったんだリザ。俺はあの人のため、そして、一族のために命をかけるんだリザ。い、一生をかけて、受けたご恩を返すことを誓ったリザ。だ、だから、に、人間の女……。俺の命は、おまえのために使ってんじゃねぇリザ」
「わ、わかってるよ!!」
「だ、だったら逃げろリザ。おまえが逃げることがあの人のためリザ。あのお方に1ミリたりとも迷惑をかけてはダメなんだリザ。あのお方は全てのモンスターの希望リザ。わかってんなら早くしろリザァァアッ!!」
私はペガサスの翼を握りしめた。
わ、わかってるわよ。そんなこと!
わ、私だって、ザウスさまの迷惑に2度となりたくないわ。でもね、ザウスさまは悲しむわ! リザ丸くんたちが死んじゃったら絶対に悲しむ!!
だから──。
バキューン! バキューン!!
私は魔拳銃を撃っていた。
魔法弾は獅子人たちに命中する。
やった!!
リザ丸くんに馬乗りになっていた獅子人に当たった!!
「バ、バカ野郎リザァア!! 俺を助けてどうすんだリザァアッ!!」
「仲間は持ちつ持たれつよ!」
大きな獅子人は私の目の前に立った。
「ほぉ、魔拳銃か。珍しいアイテムばかり持ってるじゃねぇかガオ。一体、何者ガオ?」
そんなこと言うもんですか!
喰らえ、魔拳銃!!
しかし、その獅子人は片手で弾き返した。
「フン! 俺様の部下は倒せても、俺様は無理だガオ。ククク」
ああ……。やっぱり、レベル300は伊達じゃないぃ!
「バカ野郎! だから逃げろと言ってんだリザァア!! 小竜牙突!!」
リザ丸くんの槍攻撃!
しかし、大きな獅子人はそれをものともせず、リザ丸を裏拳で吹っ飛ばした。
「ゲフゥウウリザァアッ!!」
そんなぁあ!!
「安心しろ小娘。貴様の命だけは残しといてやるガオ。まぁ、四肢は切断させてもらうけどなぁ!! ゲヘヘガオォオオオオ!!」
ヒィイイイイイッ!!
ペガサスの翼を使えば、私1人だけなら余裕で逃げれる。で、でもぉ、私が逃げれば、リザ丸くんたちが確実に殺されちゃう。……いや、1匹は情報収集のために残されるかもしれない。で、でも、どの道、酷い目に遭わされるのは目に見えているわ!
「小娘ぇええ〜〜。観念しろガォオオ〜〜。ゲヘヘェ」
に、逃げたくない。
で、でも、仲間の意見を尊重しなくちゃ。
みんなの気持ちを無駄にしちゃダメだ。
私はペガサスの翼を取り出した。
「んぐ! 小娘ぇ! 逃げる気かガオ!!」
「ペガサスの翼でぶっ飛んでやるわ!!」
「そうは行くかぁあガオォオオオオッ!!」
フン!
そうよ!
近づいて来なさい!!
「逃がさないガオォオオオオ!!」
捕まるもんですか。
「ペガサスの翼!」
これは強制帰還アイテム。
どんな対象物も、拠点の場所へとぶっ飛ばす。
「小娘ぇええええええええええええ!!」
ただね──。
「飛んで行くのは、あんただけどね」
ペガサスの翼が発動する瞬間。
この獅子人に投げつける。
「なにぃいいいいいいいいいい!?」
「じゃあね」
ドシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!
大きな獅子人は空に向かって飛び上がり、光の塊になって魔公爵城へと飛んで行った。
よし!
上手く行ったわ。
残った敵はレベル150程度の雑魚ばかり。
これなら私の魔拳銃とみんなの力で倒せる!
私は魔法弾で獅子人を倒し、リザ丸くんとハピ江ちゃんを解放した。
「ゴブ子ちゃんを助けてあげて!」
「ったく! なんて無茶なことをするリザ!」
私たちはその場にいる獅子人を倒して、なんとか生き残ることができた。
「はぁ……はぁ……。ゴ、ゴブ子ちゃん」
「うん。回復魔法だよね。わかってるゴブ」
ふぅ……。
良かったぁ。
リザ丸くんもハピ江ちゃんも回復魔法で全快だぁ。助かったぁ。
「やれやれリザ。今頃、魔公爵城じゃ大変なことになっているリザ」
「ははは……。まぁ、そうだね。……でもさ。城にはゴブ太郎くんがいるしさ。彼は
「そこまで計算して……。でもな。もしも、失敗してたらどうするリザ?」
「そ、それは……」
「ちょ! リザ丸! それは言い過ぎハピ! スターサは私たちを助けてくれたハピ!!」
「そうゴブ! スターサが機転を利かせてくれなかったら私たちは全滅していたゴブ!!」
「う、うるさいリザ!! あの時は、女が逃げるべきだったリザ!! それが最適解だったリザ!! もしも、女が捕まったらザウスさまが不利になってしまうリザ!! そんなことは絶対に許されないことリザ!!」
「はぁ? みんなが助かったんだからいいじゃないハピ!!」
「そうゴブ! スターサに謝るゴブ!!」
「うるさいリザ!! 絶対に謝らないリザ!!」
「最低ハピ!!」
「本当ゴブ! リザ丸は最低ゴブ!!」
「うるさいリザ! 女は黙っていろリザ!!」
「はぁーー? 女とか関係ないし! そういうのは一番ザウスさまが嫌うハピ。リザ丸はバカハピ!」
「男女差別ゴブ!!」
「うるさい、うるさい、うるさいリザーー!!」
「バカハピ!!」
「そうゴブ!! 最低ゴブ!!」
ははは……。
「んもぉ。みんな助かったんだから喧嘩しないの。もっとチームで仲良くして──」
と、その瞬間である。
ドシィーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
とんでもなく大きな音とともに、私たちの体にその振動が伝わった。
なにか、とてつもなく大きな物が墜落したような音……。
そんなことを理解するまでもなく。
リザ丸くんの右半身は無くなっていた。
宙に浮かんだのは彼の右腕。
え……!?
「グォオオリザッ!!」
リ、リザ丸くん!?
そこには大きな体があった。
「グフフフ。俺様をペガサスの翼で強制帰還だとぉ? どこに飛ばされるのかはわからなかったけどなぁ。ククク。そんなことで助かったと思うなガオ〜〜」
それは、あの大きな獅子人の姿だった。
そ、そんな……。
「どうして!?」
「翼の効力を破壊して戻ってきてやったガオ。ククク」
ああああああああああああ。
そんなぁああああああああ!!
────
大大大ピンチの予感!
果たしてスターサたちは助かるのか!?
次回「スターサは保険に保険をかけて」に超、ご期待ください!!
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